“血統”も“ケツ統”も“決闘”も大事レビュー(1/2 ページ)

“総合競馬エンタテインメント”と銘打った「ダービータイム」。PSP初の競馬SLGとなる本作は、オーソドックスでバランスよくまとまったシステムと、無線LAN機能での新たな遊びの可能性を兼ね備えた、“期待の新馬”だ。

» 2005年04月27日 18時28分 公開
[卯月鮎,ITmedia]

「ダービータイム」の血統的背景は?

 競馬ゲームの代名詞と言ったら、やはり「ダービースタリオン」(以下、「ダビスタ」)だろう。クリエイターの薗部博之氏が生み出したダビスタは、TVゲームに競馬という題材がマッチすることを知らしめた偉大な存在。1990年代、空前のブームとなった現実世界の競馬にも大きく貢献した。

 そのダビスタの牙城に迫ろうと奮闘しているのがセガの「ダービー馬をつくろう」(以下、「ダビつく」)シリーズだ(最新作は2004年12月発売の「4」)。知名度では引けを取るが、牧場施設の拡張やミニイベントなど、ゲーム的な仕掛けが多く、遊びやすさに配慮した作り。伝統を重んじる歌舞伎のようなダビスタに比べ、エンターテイメント性で勝るという評価もある。

 なぜこんな話をしたかというと、今回扱う「ダービータイム」の制作会社が、ダビつくと同じランド・ホーだから。本来、どこが作ろうと面白ければそれでいいのだが、ゲームは遊んでみなければわからないブラックボックス。競馬ゲームに実績がないソニー・コンピュータエンタテインメントからの発売ということで、クオリティを心配する向きもあるかと思う。しかし、作り手がランド・ホーなのは心強い。

 実際に遊んでみても、データなどの競馬部分がしっかり詰め込まれている上、ゲーム的にも丁寧に作ってあってプレイしやすい。PSPらしくレースシーンに入るまでのロード時間が20秒強と非常に長いのが気になるが、そこに目をつぶれば、安心して楽しめる仕上がりだ。

思い切って“調教”を省いた英断

 プレイヤーは、平成の競馬翁と呼ばれる大馬主「善行寺耕助」の人材育成プログラムに抜擢された青年。善行寺の支援を受けて、オーナーとして成功を目指す。

 豪快な大金持ちの善行寺、競走馬育成チームのリーダーで威勢のいい「新城元子」、「馬はケツだ!」と主張する、牝馬が得意な調教師の「馬尻沢郎」……。

 濃いキャラクターが多数登場し、彼らの過去に絡んだドラマもある。といっても、それはあくまで味付け程度。リアリティを無視したイベントが発生し、“馬が突如パワーアップ!”なんて事態は起きない。イベントは、競馬一本やりの生真面目さを和らげる緩衝剤の役割で、ライトユーザーも入りやすい雰囲気作りに一役買っている。

photo 奇跡の相馬眼を持つ男、善行寺耕助。主人公の父母と、何やら因縁があった様子だが……
photo 最初に馬を預けることになる、血統派ならぬケツ統派の馬尻沢郎。キャラクターは一癖も二癖もありそうな人物ばかりだ
photo ある程度時間が進むと、牧場がもらえるイベントが発生。ここで牝馬に種付けして馬を生産する

 ゲームはまず、1頭の馬、ゼンギョウロマンスを与えられてスタートする。その後、厩舎への指示や2歳馬の購入など、徐々にできることが増え、やがては牧場を任され馬の生産も手がけていく。目標はダービーを始めとするGI奪取。地方や海外への遠征もある。

 基本的にはオーソドックスな競馬SLGではあるが、最大の特徴は、細かい調教指示を省いたこと。ダビスタでもおなじみ、“芝併せ一杯”のような毎週の調教システムは、本作には存在しない。

 自分の馬を「ステイヤーが得意」「休み明けの馬の体調管理が得意」と、おのおの特徴がある厩舎に預けて、あとは基本的に“お任せ”。プレイヤーは、どのレースに出走するのかのローテーションを決め、それぞれのレースでの仕上がり具合を指示する。このレース選択すら、完全にお任せしてもOKだ。

 調教がないのは、既存の競馬SLGファンには物足りないだろう。狙ったレースに、調子と馬体重をピタリと合わせる。これは、ダビスタ的なゲームの醍醐味でもあった。

 ただ、別の見方をすれば、日々の調教は、このジャンルの初心者や気軽に競馬ゲームに触れたい人にとって、大きな障害だったことは事実。管理馬が5〜6頭と増えてくると、次第に面倒くさくなり、結局は、決まったパターンで調教を流すことになってしまう。「それだったら思い切って省いてもいいじゃないか」という発想は、大胆ではあるが納得いく。

 携帯ゲーム機は、据え置き型よりもスイッチを入れる心の敷居が低い。このハード特性に見合った間口の広さが、本作の長所だ。レース選択や種付けにも“お任せ”モードが用意されていることを考えると、“手軽に愛馬のレースぶりを鑑賞する楽しさ”を提案しているのがわかる。

 では、積極的なプレイは必要ないのか、というとそうでもない。厩舎に預ける前段階の育成牧場では、仔馬の世話を週に1回することができる。引き運動をしたり、エサをあげたり、アナログパッドで首をなでたり……。欠かさず世話をするうちに、気性や脚元の弱さが改善されることも。

 調教がない代わり、このシステムが愛馬への思い入れの面をサポートしている。ミニゲーム仕立てではなく、要は単純作業だが、“これだ!”という馬が生まれると、つい毎週なでに行ってしまう。調教ほどシビアに結果が出ないのもいい。目いっぱい愛情を注いだ馬が、一人前の競走馬になってGIを獲る。これはオーナー冥利に尽きる。

 ダビつくと同じく、牧場には各種の施設を購入していくことも可能だ。世話の種類も増える「水浴び場」や「散歩道」といった牧場施設。スピードやパワーをアップする「坂路コース」、スタートを訓練する「ゲート」と能力を底上げする施設も充実している。

photo 目標レースに向けて、仕上げのパーセンテージのパターンを指定することもできる。GIを最高の仕上げにするのが基本
photo 1回につき、3種類の選択肢の中から世話を選ぶ。牧場にある施設によって、世話の内容も変わってくる
photo ショップで施設を購入していくと、牧場の風景に反映される。ラインナップには見た目を彩る「木」や「風車」も
photo 種付けではスタッフがニックスやインブリードについてアドバイスしてくれる。丸ごとお任せにしてもいい

ワイド画面ならではの臨場感あるレースシーン

(C)Sony Computer Entertainment Inc.
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