未知なる世界であがき、もがけ。ドライなデザインについて来られるか?(1/3 ページ)

「シルバー事件」「花と太陽と雨と」など、ゲームの定型を意図的に破壊することで独自の世界を追究してきた「グラスホッパー・マニファクチュア」。その個性派が、メジャーメーカー、カプコンの三上・小林両プロデューサーとタッグを組んで作り上げたアクションAVG。発売前の評価は高かったが、はたして真価はいかに!?

» 2005年06月17日 16時09分 公開
[水野隆志,ITmedia]

アナザーワールドとして描かれる「近過去」の世界

 グラスホッパー・マニファクチュアの作品を知る人ならば、物語の年代設定を聞いただけでいかにも“らしい”とうなずくだろう。2003年。すなわち、発売年よりも2年前。近未来というのは珍しくないが、ここでは近過去の時代を舞台にしているのである。

 しかも、1998年に世界に恒久平和が確立された、という現実世界を鑑みれば、皮肉とも挑発的ともいいようのない歴史年表まで創っている。ここに見える、歪んだ遊び心こそ、彼らの核を成す精神といえよう。

photo 世界平和の象徴として、大国によって打ち上げられた“花火”。大陸間弾道弾と迎撃ミサイルを激突させて、核戦力を消滅させるという、一大セレモニーだ

 「キラー7」は、恒久平和が訪れた時代に、テロのためにテロを行う「ヘブン・スマイル」と戦う暗殺集団・キラー7の姿を描いた作品だ。両者とも超常的な力を持った異能集団であり、対立こそしているものの、そこに明確な理由はない。

 ヘブン・スマイルがテロのためにテロを行うなら、キラー7は仕事として彼らを排除することに徹する。破壊の権化と、完全無欠なるプロフェッショナルの戦い。そこには、正義、秩序、友情、愛などのポジティブな感情はいっさいない。ただ、殺し合いがあるだけ。非常に乾いていて、そしてクールな世界観だ。

7つの人格を使い分けるというアイディア

 一風変わっているのが主人公である暗殺集団・キラー7の設定だ。素直に聞けば、暗殺者7人からなる集団に思えるが、それは当たってもいるし、間違ってもいる。たしかに暗殺者は7人いる。だが、同時に1人しかいない。

 どういうことかというと、一種の多重人格と考えればわかりやすいだろう。ただ、多重人格との最大の違いは、人格が変わると肉体そのものも変わってしまい、身体能力も特殊技能も異なってしまうということだ。キラー7は、1人にして7人。7人で1人の暗殺者なのである。

 ここで、7つの人格について、簡単に紹介しておこう。

 まず、集団の顔ともいうべきが、ガルシアン・スミス。渋めの黒人エージェントだ。依頼人や情報屋と接触するのは彼の仕事になる。ただし、戦闘能力は低い。あくまで代表であって、戦闘や探索はそれに適した人格が担当するのだ。

photo ガルシアンには、仕事の請負や調査の他にも重要な役割がある。それは、死亡した人格の回収と蘇生。実はガルシアン以外の人格は死亡してもゲームオーバーにならない。死体の回収中にガルシアンが殺された場合のみ、ゲームオーバーになる

 次にダン・スミス。彼は「暴君」とあだ名される、好戦的な人格だ。7人中、もっとも安定した攻撃力を持っており、どんな場面でも頼りになる。スタンダードであり、切り札といえよう。

photo ブラックスーツに身をかためたダン。その姿はまさに殺しのエージェントにふさわしい。攻撃力、装弾数、リロード速度など、攻撃に関わる能力が全般的に高いのが特徴だ

 カエデ・スミスは、唯一の女性人格。最大の欠点は体力が低いこと。ザコの攻撃2〜3発で殺されてしまうので、激しい撃ち合いには向かない。ただし、銃にスコープが装備されており、遠距離からの狙撃が可能。特定の部位を射抜かねばならない状況では独壇場だ。また、リストカット(!)することで周囲に血をまき散らし、結界を解除する特殊能力を持っている。

photo カエデの特殊能力である結界の解除。おもむろにかみそりを取り出して手首を切り裂く光景はなかなかショッキングだ。他にも「血液吸収」などの能力を持ち、随所に血の匂いを漂わせている。

 コヨーテ・スミスは、盗賊タイプ。鍵開けや跳躍力といった潜入に適した能力を持っている。戦闘面では、やや心もとない。彼の能力を使う場面が終わったら、戦闘を得意とする別人格に変わったほうが安全だ。

 マスク・ド・スミスは、メキシカン・プロレス、すなわちルチャ・リブレの元スター。パワー型で、打たれ強く、攻撃力も高い。怪力を活かして、障害物を破壊することもできる。反面、機動力に劣るので、動きの早い敵や複数の敵が出てくると苦戦を強いられる。

 ケヴィン・スミスは、投げナイフの使い手。銃では倒せない特殊な敵との戦いは、彼の出番だ。また、透明化という、極めつけの特殊能力を有している。敵との無用な戦闘や、トラップなどを回避するときに役立つ。

 そして最後にコン・スミス。目が不自由で、聴力を頼りにするという異色の少年ファイターだ。彼はスピード型で、素早い動きが身上。小柄な体格ゆえに狭い場所を通り抜けることができる。

 ゲームでは、この7つの人格を使い分けて、敵を倒し、数々の仕掛けを解いて、ストーリーを進めていくことになる。物語展開はほぼ一本道。内容だけを考えれば、適材適所でキャラクターを使ってフラグを立てていくという、オーソドックスなアクションAVGになっている。

 ただ、そのキャラクターをチームであって同時に個人という設定にしたために、独特のテイストが生まれている。クールな世界観に合致した、面白いアイディアといえるだろう。

 なお、人格に関して忘れてはならないのが、第8の人格、ハーマン・スミスの存在だ。車椅子で生活する老人で、普段は態度の悪いメイドの世話になりながら恍惚とした日々を送っている。

 ところが、このハーマンこそがこそが真の人格で、ほかの7人格は、ハーマンが活動に際して用いるパーソナリティなのだ。7人の中では、ガルシアンだけがハーマンと直接会話をすることができる。そこでハーマンはガルシアンを通してほかの人格をコントロールしている、という仕組みになっているわけだ。

photo 第8の人格にして、全人格のマスターであるハーマン。黒い服と厳格な顔つきが、どことなく宗教者を思わせる。戦闘では、車椅子に乗ったまま、対戦車ライフルを操るという老人離れした方法を用いる

わかりやすさを排除する、特異な制作コンセプト

       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2404/18/news134.jpg 21歳の無名アイドル、ビジュアル拡散で「あの頃の橋本環奈すぎる」とSNS騒然 「実物の方が可愛い」「見つかっちゃったなー」の声も
  2. /nl/articles/2404/18/news025.jpg 生後5日の赤ちゃん、7歳のお姉ちゃんから初めてミルクをもらうと…… 姉も驚きの反応がかわいい
  3. /nl/articles/2404/18/news057.jpg 9カ月の赤ちゃん、バスで外国人の女の子赤ちゃんと隣り合い…… 人生初のガールズトークに「これは通じあってますね!」「ベビ同士の会話、とろけます」
  4. /nl/articles/2404/17/news037.jpg 【今日の計算】「8+9÷3−5」を計算せよ
  5. /nl/articles/2404/17/news034.jpg 「妹が入学式に着るワンピース作ってみた!」 こだわり満載のクラシカルな一着に「すごすぎて意味わからない」「涙が出ました」
  6. /nl/articles/2404/18/news155.jpg 大谷翔平選手、ハワイに約26億円の別荘を購入 真美子夫人とデコピンとで過ごすかもしれないオフシーズンの拠点に「もうすぐ我が家となる場所」
  7. /nl/articles/2404/17/news179.jpg 「ケンタッキー」新アプリに不満殺到 「酷すぎる」「改悪」の声…… 運営元「大変ご迷惑をおかけした」と謝罪
  8. /nl/articles/2404/16/news192.jpg 「ゆるキャン△」のイメージビジュアルそのまま? 工事の看板イラストが登場キャラにしか見えない 工事担当者「狙いました」
  9. /nl/articles/2404/17/news129.jpg 「ハーゲンダッツ硬すぎ!」と力を入れたら……! “目を疑う事態”になった1枚がパワー過ぎて約8万いいね
  10. /nl/articles/2404/16/news175.jpg 「そうはならんやろ」をそのまま再現!? 「ガンダムSEED FREEDOM」のズゴックを完全再現したガンプラがすごすぎる
先週の総合アクセスTOP10
  1. 生後2カ月の赤ちゃんにママが話しかけると、次の瞬間かわいすぎる反応が! 「天使」「なんか泣けてきた」と癒やされた人続出
  2. 車検に出した軽トラの荷台に乗っていた生後3日の子猫、保護して育てた3年後…… 驚きの現在に大反響「天使が女神に」「目眩が」
  3. 安達祐実、成人した娘とのレアな2ショット披露 「ママには見えない!」「とても似ててびっくり」と驚きの声
  4. 兄が10歳下の妹に無償の愛を注ぎ続けて2年後…… ママも驚きの光景に「尊すぎてコメントが浮かばねぇ」「最高のにいに」
  5. “これが普通だと思っていた柴犬のお風呂の入れ方が特殊すぎた” 予想外の体勢に「今まで観てきた入浴法で1番かわいい」
  6. 「虎に翼」、新キャラの俳優に注目が集まる 「綺麗な人だね」「まさか日本のドラマでお目にかかれるとは!」
  7. 「葬送のフリーレン」ユーベルのコスプレがまるで実写版 「ジト目が完璧」と27万いいねの好評
  8. お花見でも大活躍する「2杯のドリンクを片手で持つ方法」 目からウロコの裏技に「えぇーーすごーーい」「やってみます!」
  9. 弟から出産祝いをもらったら…… 爆笑の悲劇に「めっちゃおもろ可愛いんだけどw」「笑いこらえるの無理でした」
  10. 3カ月の赤ちゃん、パパに“しーっ”とされた反応が「可愛いぁぁぁぁ」と200万再生 無邪気なお返事としぐさから幸せがあふれ出す
先月の総合アクセスTOP10
  1. フワちゃん、弟の結婚式で卑劣な行為に「席次見て名前覚えたからな」 めでたい場でのひんしゅく行為に「プライベート守ろうよ!」の声
  2. 親が「絶対たぬき」「賭けてもいい」と言い張る動物を、保護して育ててみた結果…… 驚愕の正体が230万表示「こんなん噴くわ!」
  3. 水道検針員から直筆の手紙、驚き確認すると…… メーターボックスで起きた珍事が300万再生「これはびっくり」「生命の逞しさ」
  4. フワちゃん、収録中に見えてはいけない“部位”が映る まさかの露出に「拡大しちゃったじゃん」「またか」の声
  5. スーパーで売れ残っていた半額のカニを水槽に入れてみたら…… 220万再生された涙の結末に「切なくなった」「凄く感動」
  6. 桐朋高等学校、78期卒業生の答辞に賛辞やまず 「只者ではない」「感動のあまり泣いて10回読み直した」
  7. 「これは悲劇」 ヤマザキ“春のパンまつり”シールを集めていたはずなのに…… 途中で気づいたまさかの現実
  8. 「ふざけんな」 宿泊施設に「キャンセル料金を払わなくする方法」が物議 宿泊施設「大目に見てきたが厳格化する」
  9. がん闘病中の見栄晴、20回以上の放射線治療を受け変化が…… 「痛がゆくなって来ました」
  10. 食べ終わったパイナップルの葉を土に植えたら…… 3年半後、目を疑う結果に「もう、ただただ感動です」「ちょっと泣きそう」