まさに“プロジェクトX”――ゲーム黎明期を支えた男たち「ゲームデザイン・テクノロジーの源流」国際シンポジウム「インタラクティブ・エンタテインメントの歴史と展望」:(2/3 ページ)

» 2005年12月03日 07時55分 公開
[加藤亘,ITmedia]

テレビ制作者から見るゲーム黎明期に学ぶべきもの

 続いて登壇したのは、NHK衛生放送局制作部チーフプロデューサーの大墻敦氏。大墻氏はテレビ番組 NHKスペシャル「新・電子立国」においてビル・ゲイツ氏がマイクロソフトを創立した時代を描いた「ソフトウェア帝国の誕生」とゲーム産業黎明期を描いた「ビデオゲーム・巨富の攻防」を制作している。

 大墻氏は映画の登場人物や世界に入る込むエピソードから、「見る側がその作品に思い入れを持つときにインタラクティブ性を生むもの。画面との会話・対話性がなければ本当の意味のエンターテインメントではないのではないか。本にしろ、ラジオ、テレビにしろ優れた作品にはそういう側面をもつ」と切り出した。

 前途したテレビ番組「ソフトウェア帝国の誕生」の一部、マサチューセッツ工科大学の模型機関車クラブに所属していた「Space War」の開発者スティーブ・ラッセル氏を紹介する一部を上映した。

 DEC社製のPDP-1を手に入れたラッセル氏は、PDP-1のトグルスイッチをカチカチ動かすだけの宇宙船ゲームが画期的だったのは、「プログラムという極めてコンピューターに精通したものしか扱えない世界に、自らが宇宙船を操り敵を打ち落とすというストーリー性を取り入れた」ことと、「ラッセル氏が技術を極めることに熱中しなかった」ことと指摘する。

 ラッセル氏の仲間のひとりが実際宇宙船が飛ぶ場合、太陽の重力の影響を受けるのではないかと、「Space War」のプログラムに改良を加えようとしたそうだ。しかし、ただ動きが複雑で緩慢になっただけで、リアルには近づけたかもしれないがゲーム本来の面白さは失ってしまったと、技術に溺れてはならないのだと諭す。それはテレビ番組にも通じるものがあって、「技術革新に頼っただけの番組は面白くない。技術は取捨選択してこそ生きる」のだという。

 その後、同番組からビル・ゲイツとポール・アレン氏がアルテアで使用できるBASIC言語を開発、「宇宙船着陸ゲーム」というプログラムを走らせるエピソードを再現したものを上映。このことがエンターテインメント性の強いソフトを作り、コンピューターという限られた人しか使わないものを広めた要因となったと説明する。

 エンターテインメントは、先端的な技術を大衆に広めるのに大きな役割を果たしてきたと語る大墻氏は、講演の最後に「ありとあらゆるものがインタラクティブ性を持つ大きな曲がり角に来ている。“何か面白いものを作りたい”“面白いものをみんなに伝えたい”と思う熱意が、次の時代のエンタテインメントを作っていくのではないか」と締めくくった。

「新・電子立国」のほか大墻氏は、「文明の道」「新・シルクロード」「課外授業ようこそ先輩」「発見ふるさとの宝」なども手がけてきた。

「パックマン」生みの親が語る日本のゲーム黎明期とパックマン成功の秘密

 続いて登壇したのは、1980年に世界的大ヒットとなり、今年ギネスに「もっとも売れたアーケードゲーム」として登録された「パックマン」を開発したナムコの岩谷徹氏。「ギャラガ」や「ゼビウス」「パックランド」など、50種類以上をプロデュースし、現在はインキュベーションセンターのコンダクターとしてクリエイターの育成新規事業の開発・マネージメントを行っている。

 岩谷氏は冒頭、ゲームの源流を語るのに1958年にウィリアム・ビギンボサムにより開発された「テニス・フォー・ツー」を例に挙げ、この核ミサイルの軌道計算に使う技術がゲームの源流となったと説明。のち1961年の「Space War」へとつながっていくと、前途したブッシュネル氏の解説に補足する。

 この歴史を岩谷氏は、全世界で29万3000万台を販売、北米で「インベーダー」をも上まわる大ブームとなった「パックマン」誕生秘話への導入とした。

 1970年代後半のゲームセンターは殺伐としたものばかりで、どうも薄暗いイメージしかなかった。どうしても明るく華やかで、女性やカップルでも楽しめるゲームがあればと、女性が好きな「食べる」ことをキーワードに、4匹のかわいいモンスターが迷路を追いかけまわす「パックマン」が生まれたと明かす。

 コンセプトとキャラクターの可愛さだけが、ヒットの要因というとそうではないと岩谷氏。「パックマン」は4匹のモンスターのアルゴリズムが優れているのだという。開発陣へ「いつのまにかパックマンがモンスターに取り囲まれるようにしたい」と注文をしたとおり、赤のモンスターはパックマンの中心点を、ピンクはパックマンの口先から32ドット先を、青はパックマンを中心とした点対称の地点を追いかけ、オレンジはランダムに動くようにプログラミングされ、それぞれ別の動きをするようになった。こうして、ゲームに予測不可能な緊張感を生み出すことに成功したのだと、システムの勝利を挙げる。

 岩谷氏は天才猿のカンジ君を紹介した番組を上映し、チンパンジーが「パックマン」を見事に操る様を紹介する。「猿でもできるゲームはヒットする」と会場を沸かせる。シンプルな操作性は、意外なところでも恩恵を与えていると岩谷氏。当時予想すらしていない携帯ゲームを例に挙げ、4方向レバーだけの単純なインタフェースだからこそ移植には困らなかったと、最近の複雑になる一方の流れに警鐘を鳴らす。

 次にレースゲームを例に挙げ、視点からゲームの変遷を考察してみせる。1974年に発売されたATARIの「Gran Track 10」や、同じく1974年にタイトーから発売された「Speed Race」が、上から見下ろした俯瞰視点であると提示。それが、1976年ATARIの「Night Driver」によって、俯瞰視点からドライバー視点への劇的な変化を遂げた。「このゲームがなかったら、現在のレースゲームはなかった」と岩谷氏は、のちに続く「ファイナルラップ」や「リッジレーサー」へと脈々と続く影響の大きさを語った。


 岩谷氏はこれからのゲームを取り巻く状況を推測するに、自室にパソコンがあり、環境が整っている人が増えつつある中、リビングにゲーム機械を持ってきて遊ぶ時代が果たしてこれからも続くのかと疑問を投げかける。今のパソコンに世界共通の汎用ゲームチップというものを共同で開発し、グラフィックボードもなにもかも入れた統合型により、パソコンでゲームをやる時代に移行するかもしれないと予測する。

 「楽しさ第一主義」とゲームを捉えていると岩谷氏は、やはりここでも難解になってしまったゲームへ苦言を呈し、間口を広く誰もが楽しめるものを作るべきではないかと論じる。だからこそ、人間の心の研究というのも不可欠であるのだと。

 「人が楽しむ、喜ぶという心のメカニズムを問いかけながら作るのがゲーム作りである。ゲームというのは総合的芸術・技術の固まりであり、工学、数学、美術、文学、音楽、心理学といった複合的なものだから面白くやりがいがある研究対象である」と結ぶ。

 岩谷氏は最後に、「何事も何かにぶつかった時には、勇気を持って事にあたり、自分の意志を通す“勇気”と“使命感”、推進力となる“エネルギー”の3つがあれば成功をする」と、自身の信条を語り、後輩となる会場で聴講するゲーム開発者へエールを送った。

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