ホラーでも、サイコサスペンスでもない。現代のおとぎ話の幕が開ける:「ルール オブ ローズ」レビュー(4/4 ページ)
作り手が目指したのは現代のマザーグース?
最後になるが、ルール オブ ローズのもうひとつの魅力について触れておこう。魅力というよりも、不可解なストーリーに対する筆者なりの見解と言うべきかもしれない。もちろん、合っているという保障はどこにもないので、そのつもりで聞いていただきたい。
この作品のテキストには、大きな特徴がある。全編に渡って、極端に平易な文体が使われているのだ。具体的には“少女はとても不安になりました”といった、起こっている現象だけをシンプルに説明する表現になっている。言うまでもなく、これは低年齢の読者を対象とした、絵本の文体だ。
筆者は、制作者がルール オブ ローズというゲームを、1つの絵本に見立てているのだと思っている。少しわかりにくい話なので例を挙げよう。
この手のアクション・アドベンチャーの礎となったタイトルに「バイオハザード」がある。物語はもちろん架空の話だが、ゲーム内で起こった事件は、ゲーム世界ではすべて現実として扱われている。アンブレラ社は“実際に”生物兵器を作っていたし、ラクーンシティは“実際に”核攻撃で吹き飛んでいるのだ。エンターテイメントである以上、映画でも小説でも、こう思わせることが普通の手法だ。そのため、作り手は嘘をいかに本物っぽく見せるかに苦心し、リアリティを追求する。
しかし、ルール オブ ローズの場合、初めから発想が逆向きなのだ。冒頭、バスを降りたジェニファーは人気のない田舎道に立っており、背後には舞台となる屋敷に続く道があるが、バスが走っていた公道も左右に延びている。ところがこの公道、左右どちらに進んでもループして初期位置に戻る仕掛けになっている。
ここで重要なのは、ゲームの作り手は、この道の両端に見えない壁を作ることで強制的にプレーヤーを屋敷に向かわせることができた、ということ。それをしないで、あえてループさせているのは、これから語られる話が、架空のことであり、リアリティがないことを暗示しているのだと思う。
絵本調の語りは、絵本らしく見せているのではなく、絵本として作っているから絵本の文体を取った、という意味なのだ。そう考えると、時空を飛び越えて結びつくシナリオも決して不可解ではなくなってくる。
絵本であり、童話であり、古い民話ならば、話のつじつまが合わないことも、合理的な説明がないことも、さして驚くにはあたらない。否、むしろ、そうした合理性のなさこそ、必然なのではないだろうか。ジェニファーがバックラウンドを持っていないことも、昔話に出てくるおじいさんやおばあさんに設定などないのと同じだと考えれば、これも納得がいく。
筆者は、ルール オブ ローズにマザーグースが持つ、ぐう意性と童話性を感じた。ハンプティ・ダンプティが塀から落ちる理由、曲がった男が曲がった犬や猫を拾う理由、家政婦のおばさんがねずみの尻尾を肉切り包丁で切る理由。そこに理由などいらない。そういう歌詞だからそうなっているのであり、なぜそんな歌詞ができたのかなど、問題ではない。それが伝承というものではないか。
プレイステーション 2というゲーム機上で語られた、新しいマザーグース。昔話などを映像化したアニメがあるが、やがて、ゲームが独自のオリジナルエピソードを作って、絵本に変わる日が来るのかもしれない。もし、それが実現したら、ルール オブ ローズはその先べんをつけた作品となるだろう。もっとも、この作品はCEROが15歳以上対象。子供が見るものではないのだが。
ルール オブ ローズ | |
対応機種 | プレイステーション 2 |
メーカー | SCE |
ジャンル | サイコミステリー・アドベンチャー |
発売日 | 発売中 |
価格 | 7140円(税込) |
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