ひりひりとしびれるような緊迫感がたまらない――映画的な演出が際立つサスペンスアドベンチャー:「FAHRENHEIT」レビュー(1/4 ページ)
このゲームで、プレーヤーは冒頭から極めて奇怪な体験をすることになる。死体や凶器を隠し、手や衣服に付いた血を洗い流して、努めて平静を装いながらその場を立ち去らなければならない。なぜなら、主人公は“殺人犯”だから……。
フランス発の新機軸アドベンチャー
わたしとしてはまさに待ち望んだ日本版の発売だ。北米で昨年秋にリリースされた「INDIGO PROPHECY」というゲームがあって、そのミステリアスなタイトルや、どこかもの悲しさを漂わせるビジュアルに大いに興味を惹かれていた。いっそのこと海外版を取り寄せようかとも思ったが、内容がアドベンチャーらしいので、英語が苦手なわたしではストーリーや台詞のニュアンスが理解しきれないかも……とためらっていた矢先、日本でもアタリ・ジャパンから「FAHRENHEIT」(ファーレンハイト)という題名で発売されることを知る。(ちなみに、欧州でも日本と同名の「FAHRENHEIT」でリリースされている)
調べてみると、これを制作したのはフランスのQUANTIC DREAMという会社で、欧州最大級のゲーム展示会「Game Convention 2005」では、もっとも革新的なタイトルに与えられる「Most Innovation Game Award」という賞を獲得したとか。ゲームではアドベンチャー系が特に好きなので(「○○賞受賞作」といった触れ込みにも弱い……)、今回の「FAHRENHEIT」には発売前から大いに期待を寄せていたところだった。
“主人公による殺人”というショッキングなシーンで幕を開ける
冒頭からいきなり驚愕させられる……。このゲームの主人公が、あろうことか殺人を犯してしまうからだ。その事件は、例年にない寒波と大雪に見舞われたニューヨークの、小さなダイナーのトイレで起こる。物語の主人公“ルーカス・ケイン”は、手にしていたナイフでそこに居合わせた初老の男を刺殺してしまう。このあまりにショッキングなシーンを見ていると、「刑事ジョン・ブック 目撃者」という映画を想起させる。その映画では、駅のトイレで強盗殺人が起こり、アーミッシュの少年がその一部始終を偶然にも目撃してしまうのだが、ちょうどその少年になったような気分だ。ただ、あの映画と根本的に違うのは、プレーヤーが事件の目撃者ではなく、その殺人を犯したルーカス本人であるということ。
とはいえ、この殺人には不可解な点がいくつもある。凶行に及ぶ際のルーカスは、まるでマインドコントロールをされているかのようなトランス状態で、その目つきや挙動が明らかに異様。自身の両腕にも、何かの紋様のようなものを自傷している。そもそも、殺された男とルーカスの間に面識はなく、殺害に至る動機もないのだ。しかし、現場を見ればルーカスが犯人であることは誰の目にも明らかで、事情を説明したところで理解してもらえるはずもない。正気に返った彼は、自分が置かれている状況が極めて困難であることに気付く……。
ここから、プレーヤーは実に不気味な体験をすることになる。ダイナー店内にはまだ数人の客がおり、その中には警官の姿もある。誰かに見られる前に証拠の隠滅と逃亡を図らなければ、ルーカスは間違いなく逮捕されてしまうだろう。彼が無実であると頭ではわかっていても、殺人現場を後始末をしていることに後ろ暗い思いがして、何ともいえず厭な気分にさせられる。具体的に何をどうするかがプレーヤーに委ねられているというのも、余計に感情をかき乱す。ゲームの序盤から、罪悪感や焦燥感がないまぜになったような気持ちにさせられるとは思わなかった。
このように、序盤から非常に緊迫感に満ちた展開と、謎めいたストーリーにぐいぐい引き込まれていくのを感じる。また、プレーヤーの選択した行動や会話が、その後の展開にもつぶさに反映されていくのは興味深い。たとえば、上記のウェイトレスの件にしても、予めテーブルにお金を置いてから外に出れば引き留められることはなかったわけで、追い詰められた状況下で人は不用意な行動を取りやすいのだなあと、改めて思い知らされる。
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