「ラブ and ベリー」に母娘がハマる理由:CEDEC 2006(1/2 ページ)
なぜ「オシャレ魔女 ラブ and ベリー」はウケたのか? セガの植村氏が惜しげもなくそのヒントを明らかにしてくれた。
奇をてらわずに受け入れられるテーマが「オシャレ」だった
CEDEC 2006 2日目となった8月31日には、「オシャレ魔女 ラブ and ベリー」(以下、ラブ and ベリー)の開発者である植村比呂志氏により、「オシャレ魔女 ラブ and ベリー開発秘話」と題されたセッションが開催された。
「ラブ and ベリー」は現在、カードの販売枚数では1億8300万枚。カードは1枚100円なので、183億円の売り上げがあるということになる。出荷枚数から類推したユーザーは200万人程度だそうだ。筐体の出荷台数は9700台に及ぶが、こちらも驚異的な数字。カードは4カ月に1回バージョンアップしており、そのときに30種類くらいのアイテムを追加。現在は222種類のカードが存在する。
植村氏は「甲虫王者 ムシキング」(以下、ムシキング)の開発者でもあるが、「ラブ and ベリー」の企画に取りかかったのはムシキングを作っている最中。もちろん、「ラブ and ベリー」が登場する前には、女児向けのゲームでヒットしたものは存在しない。「リスクを考えたら第2弾も男児向けとすることが順当だが、第2弾は女児向けのゲームと決めていた。しかし次も男児向けにしてしまうと、未成熟の『ムシキング』が死んでしまう」(植村氏)。とはいえ、「ヒットしないと先がない。このため1年半は暗中模索」(植村氏)。
そんな中で光明が差したのは、「ムシキング」を女児がプレイしている姿だったという。「当時は『ムシキング』くらいしかゲームセンターになかったというのもあるが、プレイしている子どもたちの2〜3割が女の子だった。カードの束を握りしめてプレイする姿を見て、女の子であってもカードゲームで遊びたいんだ、という自信を持てた」(植村氏)。
また開発に当たっては、奇をてらわず、女の子がみんな「それがいい」と行ってもらえるテーマを選びたかった、と植村氏。「『ムシキング』で遊んでいる子どもたちは、『ムシキング』が好きなのではなく「虫」が好き。ムシカードを集めたいからプレイしている。“このゲームが好き”という前に、“オシャレをして遊べる”ことが重要」(植村氏)。
そして業務用ゲームとして重要なのは「親子で遊べて、親が納得できる」ということ。「183億円の売り上げはほぼ間違いなく親の財布から出ている。親の理解を得られなかったら成立しない」(植村氏)。これに加えて、親がそれだけのお金を使う“納得感”も重要だという。「『ラブ and ベリー』を通して娘が成長するとか、何かメッセージを伝えることができれば納得感につながる」(植村氏)。
これらから導き出されたのが、「オシャレ」というテーマだ。「オシャレは身だしなみを考えることが第1歩。身だしなみを注意することで、母娘の会話が始まっていく。次にあるのはTPOを考えるということ。これをゲームの中に入れ込んだのがポイント。このため、キャラクターは最初、あえて寝癖のパジャマ姿で登場する。そこからディスコやストリートコートなど、目的にあわせてコーディネイトしていくことになる」(植村氏)。
オシャレを得点化して達成感を与える
植村氏は、オシャレをルール化することについて悩んだという。「オシャレをするということは個性を発揮すること。そこを得点化することは批判もあると思ったが、それを覚悟してあえてこのようにした」(植村氏)。着飾った人形をともだちに見せて「すてきだね、かわいいね」とほめられるだけでは達成感がない、と植村氏。得点が表示されればその差異も分かりやすいため、“自分のコーディネートが高い得点を出した”ことで、子どもたちは達成感を得ることになる。
そして次のポイントが、“ゲージのない音ゲー”を作ること。「ゲージを作ってしまうと、丸いマークと縦棒がクロスした瞬間しか子どもは見なくなってしまう。これはオシャレとリンクしないと考えた」(植村氏)。
「ラブ and ベリー」では発音するタイミングでボタンを押すように作られている。これであれば歌さえ覚えれば3歳児でも遊べるし、初めての歌であっても3、4回聞けば子どもは覚えてしまうので、次からは無理なくプレイできる。「ゲーム業界的には、歌メロでたたかせる、ゲージをはっきり出さないというのは不安があった。しかし子どもたちには論理ではなく、遊んだときに心地よいものが受け入れられる」(植村氏)。
子どもたちの夢を実現させる――アパレルビジネスの展開
植村氏はまた、ゲームをとにかく続けることが大きな開発方針であると語る。「200枚、300枚と子どもたちが集めたカードが、紙くずにならないようにゲームを続けて、よりおもしろくしていくことが使命」(植村氏)。
そう考える中で到達したのが「本物になるために、現実のファッションと融合する」こと。「中世のRPGなど、異世界のオシャレでは現実味がない。そこで現実のファッションを取り入れていくことを考えた」(植村氏)。
ゲームの開発スタッフは、中国の繊維工場に取材に行き、それを元に服装デザインを企画しているそうだ。「中国の繊維工場や生地見本市に行けば、次のシーズンの流行が予想できる。スタッフがそこへ取材に行き、生地やテクスチャを集め、そこからデザイン仕様書を起こす。その際には現物を張り付けて渡すことで、CGのテクスチャからくる質感が、現実のファッションの質感と同じになる」(植村氏)。
ここからアパレル展開も企画された。「女の子たちの頭の中にあるイメージが現実化されるのが、オシャレの最終形。生地見本を元にCGを起こしているので、いつでもカードにある柄や生地を使って服を作ることができる。ここでゲームとファッションが融合する」(植村氏)。
そして子どもたちは手に入れた服を着てゲームをプレイしに行く。ここでオシャレをテーマとした世界観ができあがることになる。
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