「ワルキューレの冒険」は単なる不条理ゲームにあらず:ゲイムマンの「レトロゲームが大好きだ」(2/2 ページ)
はるかなる富の国
戦いやすい敵で経験値稼ぎをするのが有効といえる。私は砂漠に出てくるブラックサンドラを、延々と倒しまくった。ワルキューレが近づかないかぎり動かないので、1匹ずつ相手できるし、得られる経験値も高いのだ。1レベル分の経験値を稼ぐのに、だいたい30分くらいかかった。
この辺までで、マニュアルに書いてない謎といえば、姿の見えない隠しアイテムや、どこに飛ぶかわからないワープゾーンくらい。
隠しアイテムは、透視術の魔法をかければ発見できる。またワープゾーンは、何度か使っているうちに、ワルキューレがどっちを向いているかで行き先が決まるということに気づくはず。
つまりここまでは、プレイヤーが自力で発見できる謎が多いのだ。
しかし砂漠を越えた辺りから、「ワルキューレの冒険」は、どんどん厳しいものになっていく。
まず苦労させられるのが、ズールという敵だ。4方向から近づいてきて、ワルキューレの持ち物を盗んで逃げていく。武器だろうが、クリアに必須なアイテムだろうが、容赦なく盗んでいくので、本当に困る。
謎解きも難しいものになっていく。ヒントは得られないし、考えてわかるようなものでもない。
例えば、砂漠を越えた後。次の大陸“富の国(フルータジア)”に渡る手段がない。橋もなければ、船を出せる港もないのだ。ではどうするか?
アファの東端に、周りと色がちょっとだけ違う地面があるので、そこに立ってしばらく待つ。
このゲームでは、一定時間ごとに日が暮れて真っ暗になるのだが、この場所で夜を過ごして朝を迎えると、虹の橋がかかって、対岸に渡れるようになるのだ(船が必要)。
富の国に渡った後も試練は続く。敵が強くなっているし、それよりも何よりも、宿屋がどこにもない。港もないから、アファにも、はじまりの国にも引き返せない。もちろんゲームオーバーになれば、富の国に渡る前からやり直しだ。
実は、毒の沼の中にある小島に、ワープゾーンが隠されていて、ここでAボタンを押せば宿屋に戻れる。
小島の宝箱に入っているのは、ティアラというアイテム。一見してどんな効果があるかわからないが、これを取れば、ワープゾーンに入った後の行き先が変わるのだ。
富の国のさらに先へ進めるようになり、そこには宿屋もあるので、ここを拠点として経験値稼ぎもできるし、港から最後の島へ渡り、最後の迷宮へ臨むこともできる。
……と、こんな複雑な行動をノーヒントでやれと?
時の鍵の伝説
「ワルキューレの冒険」の大きな魅力として1つ挙げられるのが、背景設定の秀逸さだ。
無限の命を持っていたマーベルランドの人々。しかし人間が増えすぎたことで、飢えと争いにより、人々の心に悪魔がとりついた。
見かねた神は、この世界に“時”を作り、その“時”を定める大時計を設置した。“時”の存在によって人々の命は限りあるものとなり、誰もが哀れみといたわりの心を持つようになった。
ところが、死を恐れた男が、大時計の“時の鍵”を抜き取ってしまったことで状況が一変。時の狭間に追いやられていた悪の化身ゾウナが復活し、マーベルランドに魔物を解き放ってしまったのだ。
ゾウナと魔物たちを倒すため、神の子ワルキューレが天界から舞い下りた。
後半「ハイドライド」にちょっと似ている気もするけれど、「“時”の起源」や「“死”の持つ意味」という神話的なテーマを盛り込んだことにより、マーベルランドという世界に、「ゲームのために存在する世界」ではない、奥の深い世界観が感じられる。
ゲーム自体にその世界観が、いまひとつ生かされていなかったのが残念だが、それを補完する作品といえるものが、いくつか登場している。
まずはゲームブック。「ゼビウス」、「ドルアーガの塔」、「ドラゴンバスター」のゲームブックで好評を博した東京創元社が、次にゲームブック化したナムコのゲームが「ワルキューレの冒険」だった。
主人公はワルキューレではなく、彼女に憧れる青年。彼が冒険の途中に出会って仲間となる、サンディ、ニスペン、アテナという個性的なオリジナルキャラクターが、いい味を出していた。
ただ、私個人としては不満な点もいくつかあった。大事なシーンの1つが、映画「アリオン」にそっくりだったり、上中下巻それぞれのタイトルが、「迷宮のドラゴン」「ピラミッドの謎」「時の鍵の伝説」と、まったくひねりがなかったり。
ゲームバランスも、後に行くにつれて、だんだんきつくなっていった。もっとも、これはある意味、原作に忠実といえるかもしれない。
伝説は今なお続く
もう1つ、マーベルランドの世界観を生かした作品が、1989年に登場したアーケードゲーム「ワルキューレの伝説」である。
アーケードということもあり、純粋なアクションゲームとなっているが、武器や魔法を入手するという要素は受け継がれている。グラフィックも進化し、ワルキューレの姿が、冨士宏氏の描くイラストそのままなのはもちろん、動きのパターンや、やられパターンも多彩。
アクション性を向上させながら、雰囲気作りやストーリー性も強化。1991年に発売された、新声社の「ザ・ベストゲーム」という本では、「読者が選んだベスト30」で、このゲームが堂々の第1位に輝いている。
「ワルキューレの伝説」は、PCエンジンに移植されているほか、プレイステーションの「ナムコミュージアム Vol.5 PlayStation the Best」にも収録されている。
さらに、1998年発売の、プレイステーション「ナムコアンソロジー2」に、「ワルキューレの冒険」のオリジナル版とアレンジ版が収録されているし、最近では「冒険」「伝説」とも、携帯電話に移植された。
近年まで移植作品が出ていることから考えても、「ワルキューレの冒険」が、単なる“不条理な難しさを持つゲーム”ではなく、多くのプレイヤーに愛されたゲームであることがうかがい知れる。
ちなみに、たとえ携帯電話版であっても、ワルキューレはちゃんと、冨士宏氏が描いた金髪のワルキューレになっている。よかったよかった。
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