アップデートに甘えてはいけないと教えられた――「アミーゴ・アミーガ」チュンソフト中村光一氏&ゲームズアリーナ山口尚氏インタビュー

オープンサービス開始から3カ月。現状、そして未来について、ゲームズアリーナの山口尚氏とチュンソフトの中村光一氏へインタビューを試みた。家庭用ゲームソフトに携わった開発者の目線でオンラインゲームを語る。

» 2007年03月28日 17時21分 公開
[加藤亘,ITmedia]
左がゲームズアリーナネットワークゲーム開発部部長の山口尚氏。右がチュンソフト代表取締役の中村光一氏

 ドワンゴの連結子会社で、チュンソフトとスパイクを傘下に持つゲームズアリーナが、チュンソフトに企画協力を仰ぎながら開発、NHN Japanの運営するインターネットゲームポータルサイト「Hangame」(以下、ハンゲーム)において提供されているMMORPG「アミーゴ・アミーガ」。本作は1月からオープンサービスに移行しており、有料アイテムの販売にも踏み切っている。

 サービス開始から3カ月経った某日、本作へアドバイザーとして参加しているチュンソフト代表取締役の中村光一氏と、ゲームズアリーナネットワークゲーム開発部部長の山口尚氏に、インタビューを行った。

 「アミーゴ・アミーガ」は、机や椅子や家などすべてのモノに命が宿っている世界を舞台に、人間と共存するモノとの触れあいが描かれるファンタジー色の強いまったりと時間を過ごせるゲーム。プレーヤーは、街やフィールドの上の建造物、住居の中の家具・小物など、様々なモノに話しかけ、彼らを「アミーゴ」(友達)として仲間に迎え入れながら、ともに戦いや冒険を楽しんでいく。MMORPGならではのストーリーの奥深さやコミュニティ性といった特長を備えるのはもちろん、すべてのモノを友達にできるという独創的なゲーム設定、仲間との連携やテンポのよさ、手軽さに配慮した戦闘シーン、独特のタッチで描かれた可愛らしいキャラクター、人形劇風のムービーが楽しめるクエストなど、随所に魅力的な演出が光る個性的なオンラインゲームとなっている。

モノに命が宿っている不思議な大陸「ティエラ」を舞台に、「アミーゴ」と呼ばれるかわいい友達と一緒に泣いたり笑ったり、楽しく冒険をするMMORPG

 インタビューではまず、中村氏の本作における立ち位置についてから語られた。中村氏といえば、ファミコン版の「ドアドア」や「ポートピア連続殺人事件」、そして「ドラゴンクエスト」シリーズを手がける奇才で、チュンソフトがメーカとして参入してからも「弟切草」や「かまいたちの夜」、「トルネコの大冒険」や「風来のシレン」など新ジャンル開拓で成功を納めている。もっぱら家庭用ゲーム機ソフト開発を生業としており、オンラインゲームとの接点は乏しいように思えるかもしれない。

 中村氏本人もインタビューで触れていたのだが、ニンテンドーDS用ソフト「風来のシレン」のお助けシステムやゲームキューブ用ソフト「ホームランド」などでネットワークに関わっており、経験がないわけではない。とはいえ、あくまでも畑違いという認識は持っているようで、「アミーゴ・アミーガ」について山口氏から相談を持ちかけられた時には、「どうしたものか」と考えあぐねたこともあったという。この相談が、サービスインの約1年前のことであった。

 約3年前から開発がスタートしていた「アミーゴ・アミーガ」だが、この中村氏への相談が大きな転換点になったと山口氏は振り返る。なにか不十分さを感じていた山口氏は、中村氏に本作を見せ、純粋に感想だけでも聞きたいと相談を持ちかけた。その時、中村氏からは「ストーリー部分の再考」と「インタフェースのシンプル化」が要求されたのだとか。山口氏としては当時のオンラインゲームでは当たり前だったものがひと言「わからない」と一蹴されたわけだ。

 これを契機にストーリーは根幹から変更され、今のような“モノに愛着が沸くような流れ”が加えられるようになったという。中村氏は、家庭用ゲーム機ソフトを製作してきたノウハウを提供するという立ち位置となり、監修という立場に納まった。

 中村氏はすべての人間がPCを使っているわけでもなく、むしろ携帯電話で済ませる若者が大多数という現状を踏まえ、家庭用ゲームを製作するのであればあくまでもスタンドアローンで、ネットにつながるのは付随するものという考えを持っている。オンラインゲームはある意味アップデートが前提で、内容が修正されていくのが当たり前だ。家庭用ゲームソフトが完成形で最善のものを提供する作り方だったのと比べて、ユーザーの意見や反応を積極的に取り入れ改善していくスタンスは作り手の意識も変わらざるをえないと吐露する。

 しかし中村氏はあえて提言するのであればと、ユーザーすべての意見を反映したものがいいものになるのかといえばそうではないと、と持ちかける。芸術性を求められるゲームなどでは、一部の特異なアイディアがあってこそ成立するものもあり、万人ウケしないものが多々見受けられると、自身も関わった「風来のシレン」を例に挙げる。シレンなどは難しいし、死んでしまえばすべて無に帰してしまう。普通なら万人ウケしないものだが、その強烈な個性がユーザーに支持もされた。もしも、万人の意見を取り入れてしまえば、当初のコンセプトは希薄となり、簡単でデータも記録できる優しいものができあがったかもしれないというわけだ。オンラインゲームは本来持っていた大事なコンセプトをいかに大切にできるかによるかもしれないと中村氏は提言する。

 中村氏は逆説的ではあるが、「アミーゴ・アミーガ」の監修に携わってから新しい可能性について考えることが多くなったと語る。本作に限った話ではないが、MMORPGは現状世に溢れている。その大多数が、戦ったりアイテム探したりすることが目的ではなく、コミュニケーションが本質的な目的になっていると推測しているという。RPGの部分はあくまでも共通のトピックスとして付随しているだけではないかと中村氏。それを踏まえてあえてゲームに向かわせるように、チャットを排除するなどの方策に出るのも面白いかもしれないとコミュニケーションをさせないゲームデザインにも興味があるのだとか。

 「アミーゴ・アミーガ」はその点、コミュニケーションを重視している作品となっている。そのわりにはシンボルエンカウント式となっており、戦っているところが他者から見えないようになっている。中村氏とも議論になったそうだが、山口氏には当初からこだわりを持ってそうしたものが、ここ最近、チュンソフトと関わりが深くなるにつれ考えさせられることが多くなったと明かす。

 もちろん考えに間違いがなかったと自信を深めることもあるという。ユーザーからの意見でも多い職業バランスに関しても、種類が少なかったりと叱られることもあれど、役割分担をして仲間たちと補い、個性はスキルで特徴づけてほしいのだそうだ。「僕だけできた。私だけクリアできた」というハードルの高いものから、容易にクリアできるものまで幅の広さも本作の魅力だと山口氏は確固たるコンセプトは忘却してはならないと、時々意思確認をしているのだとか。

 もちろん修正すべきことはユーザーの意見を反映し改善に努めていると山口氏。今、もっとも意見として多いのが「やることがない」というものだと苦笑する。ゲームバランスであったりや斬新で面白いアイディアが寄せられているので、今週導入される対人戦などとともに積極的に取り入れていきたいと柔軟な姿勢も見せてくれた。

 「アミーゴ・アミーガ」の将来像については上記の意味でも悩み多きものなのだそうだ。中村氏らに相談することで、山口氏の中にある考えがクリアになることも多いという。「アミーゴ・アミーガ」の開発時、チュンソフトのスタッフとのミーティングで、たった一行のセリフに3時間も話し合ったことを振り返り、「やることがない」と言われてすぐ実装するのではなく、今あるものを安易に出したくなる気持ちをぐっと我慢することも大事と反省しているのだとか。

 「アップデートということに甘えていたのを、それはダメだよと教えてもらえた。とかく質より量になってしまうオンラインゲームの現状を、改めて警鐘を鳴らし、その模範となるような作品になるよう育てていきたい」と、2人は相談を重ねながら、作品の芯となるコンセプトを大事にしながら、柔軟に対応していく作り手の意欲を語ってくれた。

(C) CHUNSOFT / DWANGO / Games Arena


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2403/17/news022.jpg 【追記あり】夫に「油買ってきて」と頼んだのに、手ぶらで帰宅した理由はまさかの…… とんでもないオチに「やめてww」「久しぶりに大爆笑」
  2. /nl/articles/2403/18/news022.jpg 1歳息子の“はじめての寝落ち”が140万再生 10歳兄のやさしい行動に「なにこの平和でかわいい世界」「最高に癒やされる」と絶賛の声
  3. /nl/articles/2403/17/news063.jpg 「予言者いた」「先見の明」 大谷翔平選手&真美子さんの結婚を2021年時点で予言(?)している投稿が発掘され話題に
  4. /nl/articles/2403/17/news047.jpg 北海道内の移動距離を本州と比較したら…… 感覚がバグるマップ画像に「これが北海道」「大きすぎる」
  5. /nl/articles/2403/18/news042.jpg 生後1カ月の赤ちゃん「ぼく泣かないもんねっ」 うるうるおめめとへの字口が「はぁ〜たまらん!」「ぐぁぁああああっっ」取り乱すほどかわいい
  6. /nl/articles/2403/15/news126.jpg 「一番イチャイチャしているように見える」 大谷選手が公開した写真でドジャース山本由伸選手の“手つなぎ”?が話題に 「そっちに目が行く」
  7. /nl/articles/2312/29/news019.jpg 「妻の服を勝手に着て脱げなくなったムキムキ夫とデカワンコ」に爆笑の嵐 シュールすぎる状況が500万表示突破
  8. /nl/articles/2403/18/news025.jpg “おしりが5日で変わる”トレーニング! 「明日からやるか」「1日1回だけなら続けられる」と累計3000万再生突破
  9. /nl/articles/2403/18/news056.jpg 大好きなボールを100個プレゼントされたときのワンコの表情に「放心ww」「引いてない?」 直視できない姿がSNSで話題
  10. /nl/articles/2403/18/news064.jpg 赤ちゃんが妙に静かだと思ったら…… 思わぬものへの“真剣モード”に笑顔になる人続出「たれたもちもちほっぺたまらん!」
先週の総合アクセスTOP10
  1. 水道検針員から直筆の手紙、驚き確認すると…… メーターボックスで起きた珍事が300万再生「これはびっくり」「生命の逞しさ」
  2. 昭和時代に“無かった物”が写っている……? 細かすぎて伝わらない「未来から来たことがバレた写真」に6万いいね
  3. 「マジで汚い」「こんなもんです」 辻希美、“大散乱”のリビングと“新”キッチンの差を公開し共感の声集まる
  4. 双子の赤ちゃん、姉が全力でくしゃみして…… 被害にあった妹の反応に「生後3ヶ月でドリフのコントw」「めちゃどっちもカワイイ」と絶賛の声
  5. 「よくも病院に連れてきたな……」とにらむ猫、先生が来た瞬間 驚きの変貌に爆笑の声「これがほんとの猫かぶり」
  6. 急に片耳がたれたワンコ、慌てて病院にいった結果…… 「こんな可愛い診断結果初めて見たよw」「笑っちゃった」と反響
  7. 「何羽いる?」一見普通の“草むら”、よく見ると……? 思わず絶叫まちがいなしの1枚に「どっさりいるw」「まさに迷彩!」
  8. 店員に「この子は懐きませんよ」と言われたチンチラ、家に来て3日後…… 人を信じる姿に「愛が伝わったんですね」
  9. 元SDN48光上せあら、目を離した隙に……子どもが商品を触り“全買取” 「子連れママに厳しすぎないか?」
  10. 柴犬を子どものように育てた結果、人間みたいな行動をするようになった 何気ない幸せな日常に「完全に家族の一員」「全部が愛くるしい」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 釣れたキジハタを1年飼ってみると…… 飼い主も驚きの姿に「もはや、魚じゃない」「もう家族やね」と反響
  2. パーカーをガバッとまくり上げて…… 女性インフルエンサー、台湾でボディーライン晒す 上半身露出で物議 「羞恥心どこに置いてきたん?」
  3. “TikTokはエロの宝庫だ” 女性インフルエンサー、水着姿晒した雑誌表紙に苦言 「なんですか? これ?」
  4. 1歳妹を溺愛する18歳兄、しかし妹のひと言に表情が一変「ちがうなぁ!?」 ママも笑っちゃうオチに「かわいいし天才笑」「何度も見ちゃう」
  5. 8歳兄が0歳赤ちゃんを寝かしつけ→2年後の現在は…… 尊く涙が出そうな光景に「可愛すぎる兄妹」「本当に優しい」
  6. 1人遊びに夢中な0歳赤ちゃん、ママの視線に気付いた瞬間…… 100点満点のリアクションにキュン「かわいすぎて鼻血出そう!」
  7. 67歳マダムの「ユニクロ・緑のヒートテック重ね着術」に「色の合わせ方が神すぎる」と称賛 センス抜群の着こなしが参考になる
  8. “双子モデル”りんか&あんな、成長した姿に驚きの声 近影に「こんなにおっきくなって」「ちょっと見ないうちに」
  9. 犬が同じ場所で2年間、トイレをし続けた結果…… 笑っちゃうほど様変わりした光景が379万表示「そこだけボッ!ってw」
  10. 新幹線で「高級ウイスキー」を注文→“予想外のサイズ”に仰天 「むしろすげえ」「家に飾りたい」