レビュー
2007年06月25日 00時00分 更新

「株トレーダー瞬」レビュー:

この銘柄は買いか?――必殺技も登場する株取引ゲーム (1/2)

どちらが利益を多く上げるか? トレーダー同士が激しくぶつかり合う株バトルをテーマにした“株トレードアドベンチャー”ゲーム「株トレーダー瞬」。今、1人の若者がトレーダーとして欲望渦巻く株式市場に身を投じる。

ゲームと株取引は紙一重!?

 カプコンから発売された「株トレーダー瞬」の面白さの源を説明するためには、まず“株取引”について解説しなければならないだろう。

 筆者は、株取引を始めてからのキャリアは結構長いほうだ。仕事がヒマなときはデイトレードもして、そこそこ日銭を稼いでいる。最近ではIPO(新規公開株)の公募に当たり、ちょっとだけおいしい思いを……とまあ、そんな自慢はおいといて、一般的に“株は投資”と言われる。つまり、成長しそうな会社を見つけて、その株をじっと持っていれば、あとは勝手に会社が利益を増やし、それに伴って株価も上がる、というものだ。この考え方が株の基本である。

 ただ、株にはもうひとつ、“投機”という側面もある。企業の売上やヒット商品の有無にかかわらず、毎日の株価は変動する。思惑、噂のたぐい、市場のムード、諸外国の影響……。1週間前から、その企業の価値はなんら変わってなくても、株価が大きく異なるのは当たり前。1日で株を売るデイトレーダーや、2〜3日で利益を確定させるスイングトレーダーは、市場が生み出すこの歪みを利用している。

画像 常に目まぐるしく変動する株価。ニュースを見て素早く判断し、展開を読んで、株を買うという行為は、アクションやシミュレーションにも近い

 実はここをクローズアップしたのが「株トレーダー瞬」。トレード中の1日を2秒程度に縮めることで、まるでデイトレードのようなスピード感を生み出した(つまり制限期間が60日のトレードバトルなら、2〜3分で終了)。一瞬の判断力や素早い売買が損益を大きく分ける。

 典型的に上がるといわれているチャート(株価の値動きをグラフにしたもの)の形を覚え、実際にチャートがその形を描いたらすかさず買いを入れる。ある程度利益が出たら売却。「もうちょっと上がるかも」なんて迷いは禁物だ。「プラス1万円が目を離した瞬間にマイナス1万円に!」なんてことは日常茶飯事。気のゆるみやスキは許されない。

 デイトレードや短期トレードは、感覚としてはスポーツに近い。決められたルールの中でどんなテクニックを使って、いかに得点(お金)を稼ぐか。もともと株にはこうしたゲームにピッタリの側面があるのだ。

株の闇も描く、トレーダーのドラマ

 「株トレーダー瞬」は、株の取引にドラマ的な要素を乗せ、さらに対戦という、格闘ゲームのノリも持ち込んだ。株とゲームの相性はもともと悪くないとはいえ、ここまで激しくにぎやかに作れるのはクリエイターのセンスだろう。

 最近では株ブームもあって、ニンテンドーDSで株関連のソフトも出ているが、基本的には実用向けだ。スポーツを例にするなら、ハウツー本にあたる。サッカーなら、どうやってボールを蹴るか、オフサイドとは何なのか、といった内容になるだろう。

 一方、「株トレーダー瞬」は、そうした基礎知識をある程度交えながら、デフォルメを効かせてエンターテイメントに徹している。言ってみれば、ハウツー本に対し、こちらは「キャプテン翼」や「巨人の星」といった感じになる。「そんな必殺技ないよ!」と思いつつも、トレードの対決シーンに興奮してしまう。

 切り口としては、同じくカプコンの「逆転裁判」シリーズに近いかもしれない。「逆転裁判」シリーズは量刑を決めるという裁判の実務的な部分とは違う、弁護士と検事のやりあいを抽出してゲームに落とし込んだ。

画像 瞬の師匠、奈良崎透。人生の大半を株に捧げるトップクラスのトレーダー。市場の闇を見つめてきた彼の言葉は常に重い

 「株トレーダー瞬」も同じパターンだろう。裁判も株も、一見お堅く、一般市民にあまり関係のない世界なのだが、分かりやすく娯楽に仕上げている点が高く評価できる。

 企業名がパロディになっていたり(個人投資家に人気だが、MSCB多発で暴落する某IT銘柄、普段の値動きはそこそこなくせに地震のニュースが流れるとワーッと上がる某建設銘柄など、あるある! という銘柄多数)、処理件数が急増し、コンピュータがダウンして取引できなくなったり、ネット掲示板に「これは買いです」と書き込む必殺技「買い煽り」があったりと、株経験者なら思い当たるエピソードが多くてニヤッとさせられる。

 ただ、恐らく株未経験の人でも、株の裏側がのぞける“株マンガ”的な形でしっかりと楽しめるのではないか。会社の倒産、インサイダー、投資ファンドの乗っ取り……。ニュースで聞き覚えのあるできごとが、ストーリー中で株を通して体感できる。特に知識がなくても、トレードバトルは良質の格ゲーやアクションゲームとして遊べる。

 成功すれば莫大な報酬を手に入れられる株のいい面と、きれいごとだけですまされない株の暗黒面、双方を描いていて、清濁併せ呑む相場の熱気が伝わってくるはずだ。

株式市場を通して見る人間ドラマ

画像 トレードに敗れて株市場を去り、行方不明になった“相場の魔術師”相場一平。その父に近づくため、瞬はトレーダーになる。まさに王道の展開だ

 ――伝説の相場師・相場一平はとあるトレード勝負に負け、息子の瞬を残して失踪した。それから5年の歳月が経つ……。

 「僕も今日から始めるよ。父さんが人生をかけた“株”ってやつを」

 成長し、18歳になった瞬は父の弟子で国内有数のトレーダー・奈良崎のもとを訪ねる。

 「株が投資? 経済活動? 笑わせるな。全財産を失って破産する奴だっているんだ。株で儲かってる奴が、そもそも何%か知ってるのか? わずか10%だ」

 シビアな現実を突きつけられても決心を変えない瞬。弱肉強食の市場で、瞬は株の極みを目指す……。

 シナリオは全10章+α。基本的に、各章はアドベンチャーパートとトレードパートで構成される。アドベンチャーパートでは、トレーダーたちが集うトレードセンターや、瞬の自宅、株喫茶ゴールデンクロスなどがある北浜市のマップを移動して、情報収集したり、ショップでアイテムを購入したりして物語を進める。

 章の最後は敵トレーダーとの一対一の株勝負が待つ。現実の取引とは違い、対戦という概念があるのが、いかにもカプコンらしいアレンジだ。

画像 奈良崎の弟子で瞬の先輩となる桐神楽花子。国内大手の証券会社、桐神楽証券の創業者の孫娘。気が強く、瞬に何かとつっかかる。愛称は「花ちゃん」

 敵はやはりくせ者ばかり。政治家の資金を運用し、瞬に「確実にもうかるおいしい話」を持ちかけるうさん臭い相場師の山笛と、付き人の元相撲取り囲後。学生大会で3年連続で優勝した凄腕トレーダーの蛭田。瞬の師匠・奈良崎となにやら因縁があるらしい、妖艶な女相場師のディアボラック曜子……。株という病に取りつかれた彼らは胡散臭くも生き生きとしている。

 ストーリーの導入部分は、ややもたもたしているが、こうした食えないヤツらとのバーサストレードが始まると、ドラマはぐんぐん盛り上がる。

 気にかかったのは、用語解説はあるものの、中盤以降ネタがディープすぎるきらいがある点。もし、何も予備知識がない人がついていけるかは微妙だ。老若男女が対象のニンテンドーDSというハードの特性から考えると、もう少し一般的な視点で描かれていてもよかった気がする。もちろんそれだけ深いのだから、市場の熱気や人間の業のようなものは当然ヒシヒシと伝わってくる。


画像 エキセントリックな学生トレーダーの蛭田。若手の中では国内最高の呼び声も高いが「世の中はな、操る側の方が常に偉いんだ」と、周りを見下す
画像 政治家とのコネがある仕手筋の元締め、山笛。おいしい話を持ちかけては一般トレーダーをはめ込んできた。山笛の必殺技は「仕手扇」。扇を振ると株が暴騰!?
画像 株は情報戦。実際の株系ネット掲示板にも怪しい情報は大量に書き込まれている。買い煽り、売り煽りも多い。信じて買ってみるのもいいが……。投資は自己責任で!
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[立花裕壱,ITmedia]

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