オヤジに訪れた三度目の“なつやすみ”は、懐かしくて、やさしくて、ちょっぴり切ない「ぼくのなつやすみ3 -北国篇- 小さなボクの大草原」レビュー(3/3 ページ)

» 2007年07月30日 14時45分 公開
[小泉公仁,ITmedia]
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リアリティを過度に追求せず、手描きの風合いを活かした映像が美しい

 「ぼくのなつやすみ3」がプレイステーション 3で登場すると知ったとき、個人的にまず気にかかったのは「映像表現がどのように変わるか」ということ。次世代機でグラフィックが美しくなるのは当然としても、あまりにもリアリスティックに描かれた“ぼくなつ”というのも少し違うような気がするし、何より上田三根子さんが描く、素朴だけれど独特の味わいを持つキャラクターたちとかみ合うのかも気になる。

 結論から言えば、取り越し苦労に過ぎなかったようだ。背景はこれまでと同様、手描きの柔らかな風合いでていねいに描かれ、そこにボクくんなどのキャラクターたちが馴染んでいて、何ら違和感がない。映像出力は最大720pで、1080i/1080pには対応していないものの、2倍のオーバーサンプリングで処理したものを1280×720ドットの映像に落とし込んで、エッジを目立たなくしている。

 実際のゲーム映像をHDTV上で見ると、線がとてもなめらかに、キレイに出ていることが目に付く。写実的になりすぎず、これまでの“ぼくなつ”シリーズにも見られた暖かみのある描写はそのままにHD化されていることで、少年時代の心象風景とうまくマッチしているように感じた。この絶妙なバランス感覚が素晴らしい。

画像 橋の欄干など、線が大変なめらかに描かれていて、ギザギザがほとんど目立たない
画像 画面の右に見えるひまわりは背景画と別に描かれていて、風やボクくんが触れることで揺れたり向きを変えたりするが、こうして見ると背景にとけ込んでいてまるで違和感がない

画像 静止画ではわかりにくいが、水の透明感や水面の揺らぎが美しく描かれていて、見ていて心が洗われるようだ
画像 吉本家のご近所さんで、めぐみお姉さんが営むガラス工房があるが、ここに飾られたガラス細工が日の光を受けて煌めく様が本当にキレイ
画像 風景は時間の推移で変化していき、特に夕暮れ時の美しさは実に見事なもの。向こうに見えるのは羊蹄山……ではなくて「ウーテイ山」だ

 映像面の進化以上に次世代機らしさを実感できるのが、サウンド。特に環境音の表現力だ。今回の「ぼくのなつやすみ3」では、ドルビーデジタル5.1chとリニアPCM5.1ch/7.1ch出力に対応したが、そのサラウンド効果が素晴らしく、音だけで田舎の夏の情景が浮かんでくるほど。川を流れる水の音や、小鳥たちのさえずり、蝉の声など、ゲームの中では実にさまざまな音が鳴っていて、それが自分をぐるりと取り囲むように聞こえる。また、場所や時間帯でも聞こえる音と聞こえ方が違い、日中は夏の暑さを誇張するかのようにセミが鳴き、夜になるとコオロギなどの虫の音が聞こえてくる。子供の頃、祖父母が住む田舎で聞いたのと同じ音が聞こえて、ハッとさせられる。

画像 この場所に来ると、川のせせらぎが自分の後方からも聞こえてくる。耳を澄ませてよく聞くと、本当にいろいろな音が鳴っているのがわかり、あたかも緑豊かな自然の中にいるような感覚になる
画像 ボクくんが緑ちゃんと共用する部屋にはラジオが置いてあるのだが、このラジオの乾いた音もノスタルジーを誘う。放送されている架空の番組も、日によってちゃんと変わる
画像 テレビやアンプのボリュームを絞ってもセリフが聞き取りやすいように、「設定」メニューで「ミッドナイトモード」に切り替えられるのもうれしい配慮

「ナンモさ」……この一言に込められた優しさがしみる

 夏休みが始まったばかりの頃は、「これからひと月もある。さあ何をして遊ぼうか!」と期待に胸を膨らませているが、その夏休みも残り少なくなるにつれて、そわそわしてきて、何となく寂しいような気持ちに駆られる。こんな感覚は、子供のときのそれと全く同じだ。

 野山を駆け回り、さまざまな出来事を体験したボクくんの夏休みが終わる頃、父親が迎えに来てくれる。このときは泣けて泣けて、どうしようもなかった。前の2作でもラストにはぐっと来たが、今度ばかりはどうにも涙をこらえきれなかった。自分の少年時代の記憶と合致する部分が、今回とりわけ多くあったせいかもしれない。

 この「ぼくのなつやすみ3」では、北海道が舞台になっていることもあって、セリフの端々に出てくる北海道弁の響きが耳にも心にも心地よかった。「なまら」(とても、すごくといった意)や「ゆるくない」(とても苦労する、厳しいといった意)などのほか、北海道の人が会話の語尾によく使う「〜かい」とか「〜っしょ」といった言葉がゲームのセリフ中に出てくる。

 特に印象に残ったのは、「ナンモさ」。これは「何てことはない、たいしたことじゃないから気にしなくていい」といった意味合いで使われる北海道弁だが、ボクくんが「ありがとう」というと、吉本家や地元の人々はいつだって「ナンモさ」と返してくれる。これがゲームを終えた後もずっと心に残る。素敵な言葉だな、と思う。

画像 トラックに乗せてもらい、裕美おじさんに「ありがとう」をいうと「ナンモさ」と答えてくれる。この言葉を聞くたび、なぜか穏やかな気持ちになれる。また、初めは彼を「おじさん」と呼んでいたのに、いつからか「裕美ちゃん」と呼んでいるのにも機微が感じられていい
画像 夏休みも残り少なくなった頃、おじいちゃんに「この家に貰われてくっか?」なんていわれる。わたしも子供のとき、同じことをいわれて真剣に悩んでしまったのを思い出したが、今回は迷わなかった

 また、詳述はしないが、今回の「ぼくのなつやすみ3」ではボクくんにまつわる初恋……と呼ぶのもはばかられるほどに淡い想いが描かれている。これも少年時代を思い起こさせるいいエピソードだった。今回、ボクくんの年齢設定をひとつ年上にしたのは、ひょっとするとこのエピソードのためかもしれない。

 これまでに“ぼくなつ”シリーズを一度も体験したことがないなら、「ぼくのなつやすみ3」は文句なしにおすすめできる作品と思う。派手さも刺激性もない代わりに、じんわりと心にしみて栄養を補給してくれるような、なんとも不思議な魅力を持ったゲームだ。少なくとも1回目は、攻略だのコンプリートといったことを変に意識せずに、気の向くままに遊んだ方が楽しいし、ボクくんやほかの人々に対する思い入れも深まる。そして、実際に昭和50年頃に少年期を過ごした世代なら、それを追憶させる部分がたくさん出てきて、プレイしながらいろいろなことが思い出されるはず。わたしもこのゲームを遊んだあと、人恋しさを募らせて久しぶりに実家に電話をかけた……。

画像 トラクターの上に腰掛けて、夕焼けを眺めるボクくんは何を思う?
画像 毎度思うのだけど、このシリーズで描かれる家族の食卓は、どれも素朴な料理なのにどうしてこんなにもおいしそうに見えるのか……。あまりにおいしそうなので、プレイしているとついお腹がすいてくるのだ

ぼくのなつやすみ3 -北国篇- 小さなボクの大草原
対応機種 プレイステーション 3
発売日 発売中
価格(税込) 5980円
CERO A区分(全年齢対象)
ゲームデザイン 綾部和
キャラクターデザイン 上田三根子
主題歌 ひまわり娘
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