ステレオタイプな欧米ユーザー嗜好:くねくねハニィの「最近どうよ?」(その14)(2/2 ページ)
RPGについて
RPGが敬遠されていたのは、いわゆる「こつこつ型」がめんどくさい、という考え方だったため。電源入れてさくっと遊べてさくっと止められるってのが欧米で言うゲームの基本だったので、スポーツゲームやプラットフォームゲームといわれるアクションゲームがとっつきやすかったわけ。ターン制で長い間戦って、経験値を積んでHPをあげていくという作業がホント「作業」となってしまうから、時間がかかってめんどくさいゲーム、という認識もあったと。
最近ではRPGもそれなりのユーザー層をつかんでそれなりの販売数も見込めるようになったけど、日本のようにメインストリームなジャンルには至っていないのも事実。販売本数シェアでRPGが大きく占めているときは、「FF」や「ゼルダ」などの一部のビッグタイトルが占めていることが多くて、一概にRPGは売れる! と考えるのは危険かもしれないね〜。
キャラクターに関しても、日本のゲームの典型である、細くて子供っぽい男の子ってのはどうも欧米ではウケがよろしくない。場合によっては「日本ではこんな女の子みたいなオトコがカッコイイのか?」と聞かれ閉口することもあったけど、キャラ設定でいつも意見の相違が出るのは何でなんだろう? 要は「カッコイイ」の定義が違うのね。
欧米では「マッチョ」や「体格のいいお兄さん」をフィーチャーしてて、日本では「しなやか」なお兄ちゃんを主人公に持ってきたがる。ヒロインは痩せていてスタイルのいいモデル系のお姉さんを日本の場合持ってくるけど、欧米ではありえないくらい「セクシー&グラマラス」な女の子を設定する。これって筆舌できない文化的な側面だね。何を見て「カッコイイ」とか「魅力的」と感じるかだから、感覚的なものすぎて難しいですな。
もちろん、日本びいきなオタクさんたちの存在(下記:フランスの怪もまたその一部)も無視できないよ。アニメ的要素を含んでいる等の「日本的」なものを的確にターゲットにお届けできれば、メガヒットにはならないけど、それなりの販売は期待できますからね! ここではあくまでも「ステレオタイプ」にこだわっているので、細かいご指摘はご容赦を(笑)!
フランスの怪
だいぶ前からフランスの方々は、日本のコンテンツびいきってのを聞いてたけど、これがまたホントの話。アニメやコミックなどをいち早く導入して、ユーザー層を広げています。フランスの開発会社の中には日本発ゲームかよ? って思うくらいかわいいキャラクターを売り物にする人たちも現れたりして腰を抜かしました。これまで欧州に持っていくために、PAL(Phase Alternation by Line:欧州の地上波アナログカラーテレビ放送の方式)版に変換しなくちゃいけないことや、言語が多い割に1言語あたりのテリトリー規模が小さいなど、日本のメーカーさんたちを泣かせてきたんですけど、昨今のフランスの日本熱を考えると、要検討だわ。
フランス語に訳さず、英語版でのみ発売しても日本のRPGがそこそこフランスで売れる、ってこともあるから、あなどれませんね、フランス。いやぁ、怪だわ。マジ。ありがたいですけどね〜、芸術と文化の国ですから、いろいろ寛容なのか、それとも共通する何かがあるんだろうかね〜。
FPSが大ウケの北米、FPSがぜんぜんダメな日本
FPS(First Person Shooter)とは読んで字の如く「一人称視点のシューティングゲーム」のこと。ちなみに、これに対応して、三人称視点(自分の姿が画面に映っている状態)のシューティングゲームをTPS(Third Person Shooter)と言います。いずれにしても、最近はミリタリー系やバイオレンス系のガンシューティングが欧米ではメジャーになってきているのは周知の事実よね。昔からシューティングはあったけど、それほどリアルなものではなかったから、気軽な感じだったと思うな。レーティングとか政府の圧力とかあんまりなかったもんね〜。
今回、「FPSがなぜ北米でウケるのか、日本ではなぜダメなのか」と米人や欧州の人、欧米に住んでいる日本人に聞き込んでみたの。端的に言うと、やっぱり文化的背景なのですわ。「時代劇」を考えてみて欲しいの。欧米ユーザーのことを語る前に、まず、なぜ日本ではFPSがダメなのか? と考えてみよー! 子供の頃から日本人って残虐とも言える「刀」を持ってチャンチャンバラバラ「切る」ってのが主流の「時代劇」を目にしてきたと思うけど、子供はそれに影響されてなのか小さい頃は「チャンバラ」ってしてたよね。そういうのもあって、「刀」とか「剣」で「切る」ってゲームも日本からたくさん出てきている歴史があります。
で、米国では「時代劇」と言えば、西部劇。剣や刀ではなく「銃」による闘いが赤裸々に表現されているわけ。また、銃の所持が許されている社会であって、戦争や紛争も抱える国であることから、60年以上戦争を知らない日本人とは「銃」と向き合う度合いがまったく違うのですよ。だから、アメリカでは子供たちもチャンバラではなく、打ち合いごっこ(もちろんホントの銃は使わないけど)をして遊ぶわけで、元に持った「銃」というものへの身近な好奇心が彼らを「ガンシューティング」へといざなっているらしいんですよ。「戦争」というものが結構身近に起こっている、って事実もミリタリー系が受け入れられる市場と言えるかもしれないね。
そういう意味では、同じアジアであり、RPGをこよなく愛する韓国で、FPSが人気、というのも、兵役がある国として当然なのかも。日本人はそういう意味では「銃」に対してあまり慣れていない、持って撃ってみたい、と思うほど目に触れたことがない。結局バーチャルなものとしてとらえられているんだと思う。ユーザーとしてだけじゃなくて、ソフトを作るにしても、日本人が剣や刀を使ったアクションゲームを、アメリカ人がシューティングをってのは文化的、歴史的に考えてもうなずけることなのよ。もちろん、これもステレオタイプの話。FPSがなぜアメリカでウケるか、日本ではダメか、という疑問に対して、ひとつの要素として読んでくださいまし。
技術力と精神論
欧米のゲームは「洋ゲー」と言われ、3D酔いするとか、ポリがけするとか、大味だとか、いろいろ言われてましたが、そんな時代はとっくに終わっているんですよ。逆に現在では欧米市場から否定的な意味で「日本っぽい」と言われてしまうこともあったりして。急激な切磋琢磨によって、欧米のゲーム開発が飛躍的な技術進化を遂げたの。ただし、これもステレオタイプの話。すべてのソフト開発が技術的に高いかと言えば、バジェット(開発費)や開発期間、開発人員によってそうとも言えないこともある。しかも、昨今の円安のせいもあって、日本に比べると人件費を含めた開発費が高い! というネガティブ面もあるのね。
日本から良質なゲームが入ってきた時代に子供だった方々がクリエイターの時代になって、「こんなゲームが作りたい!」世代が業界を牽引しているから、エネルギーとしてはとても大きなパワーを感じるわ。ちょっと前には、海外では「ホントは映画のCGクリエイターになりたい人が、映画会社に入れないのでゲーム会社でグラフィッカーになる」とか「大きなビジネスソフトを作りたかったのに、そういう会社には入れないからゲーム会社でプログラマーをやってる」とか、「ミュージシャンになりたかったのに、それじゃ食っていけないからゲーム会社のサウンド担当やってる」とかいう、ちょっと遠い目をしちゃう話をよく聞いていたんだけど、ここ数年はそんなことはなくて、皆さんゲームを作りたい、関わりたいって思って業界で働いている人が多くなったの。
そんな精神論に加えて、ゲーム制作の効率化、透明化、合理化を企業体として進める開発会社も多くあるのね。1つのプロジェクトを管理する際に、複数の管理軸が横断的にプロジェクト管理をしているので(マトリックス組織またはワンマンツーボス組織ともいう)、大型タイトルを開発する上では関わっているたくさんの人員をいろんな側面から管理できる、っていうメリットがあるの。
例えば、レベルごとに分かれた開発チームをグラフィック面、ストーリー面等クオリティを全レベルを横断して見ている横軸管理者と、納期やコスト等、ビジネスを串刺しにして見る縦軸管理者がいるとか、水モノのゲーム作りとはいえ、きっちりマネジメントをしようとしているのでありまする。試みとしてはクリエイションとビジネスのバランスが取れているから、商業的な意味で言えば正しいのかもしれないけど、必ずしもうまく行っているわけではなくて、煩雑な管理が機能しないことも多いみたいで、なかなか難しいようですな。
ある欧米のビッグネームのクリエイターと話をしたときに、「我々は技術面と表現力ではすでに日本の開発者たちを上回っている」と言われたのね。残念だけど、これは自慢でもなんでもなくて、純粋にそう思ったみたいだけど、「ただし、ひとつだけかなわないものがある」とも言ってて、それを彼は「RPG要素」という言い方をしていたわ。
RPG要素とはつまり「思い入れるためのバックグラウンド演出」のこと。RPGのゲームそのものを言っているわけではないのね。アドベンチャーゲームでもアクションでも、シナリオってものはあって、ある程度のストーリーはあるでしょ? そのストーリー上でユーザーにこう感じて欲しいという設定がかならずあるはず。
例えば、それまで一緒に闘ってきたメイトが死んでしまうようなことがあったら、日本のゲームでは必ずユーザーに「悲しい」という思いをさせる流れがある。しかし、欧米のゲームでは「あー、死んだんだ」で、流されてしまうパターンが多いとかいうようなこと。「これは日本の真似をしようとしても、どうしても学べないところだ」と件のクリエイターがおっしゃっておりました。ハニィは誇りに思いましたよ〜!
ハニィのあとがき
誤解して欲しくないのは、ステレオタイプの嗜好を書いてみた理由は、欧米のトレンドを知ってもらいたかっただけで、単に追随してほしいということではないの。日本だけでは開発費を回収できないためか、軽く「海外にも持っていけるものを作ろう」という声をよく聞くのだけど、そういうことじゃないと思うから。海外市場は大きいけど、昔ほど日本のものをたやすく受け入れてくれる状況ではないから、一番イケてないのは「中途半端」なことじゃないかと。
海外に大ウケさせたいなら、海外市場の嗜好を分析して海外市場に向けたものを作るべき、とはいえ文化的に非常にハードルが高いわけで、日本人が考えた中途半端な「海外ユーザー嗜好」を組み入れて「欧米向け」と謳ってもとうてい現地のデベロッパーにかなうわけがない(ステレオタイプの発言ですからね!)。だとすれば、前のところで書いた「RPG要素」を捨てずに日本的な良さを欧米に押し付けてもいいんじゃないかな? さくっとしてない、ってのも逆に「それがメジャー」になってしまえばこちらが「王道」なわけで、日本っぽくもあって海外チックでもある、というパターンが一番残念なソリューションであるとハニィは思うの。
海外ってどうなの? ってことを考える材料としてはいいけど、海外にウケるってことを考える前に、「ゲームとしてどうなのか?」を見失ってはいけないなと。むしろ日本のゲームソフト開発でこれから考えなければならないのは、「新しい楽しさ」、「感動」、「やりこみ」などのゲーム性の根本的なところであったりするのじゃないかな、と。
さらに、ネットワーク性をマッシブに取り込んだゲームへのアプローチはそろそろ抵抗なく進めて欲しいなと。最近日本のゲームは「深さがない」と言われるように、定められたジャンル群の中にぱっくり納まってこじんまりしてるってことらしい。今年のE3中に、ある海外パブリッシャーの担当者から「日本のソフト開発は、きちんと日本市場で売れるものを考えてから海外展開を考えて欲しい」と、まったくおっしゃるとおりなことを言われたましたね……。
相手を知るってことは重要だけど、「相手に合わせるようにしてみた」だけの小手先ソリューションではもう対応ができなくなってる。同じ小手先なら、海外向けローカライズを短期かつ効率的に行えるだけの準備(テキスト、グラフィックの変換、カスタマイズなど)を前もって仕込んでおくことのほうが重要だったりすると思うのだけど、皆様いかがですかぁ?
くねくねハニィのプロフィール
1967年アメリカサウスダコタ生まれの日本人。
小学生からはゲームセンターに通いまくって育つ。
1990年に都内K大学を卒業後、大手ゲーム会社にて海外ソフト担当となり、2001年に退職。それ以降は自称フリーのゲームアナリストとして暗躍。暗躍しすぎたので名前を変えて表舞台に。くねくねと唐突に現れて「親父ギャグ」をかまして周りの人々のレベルを下げまくる困ったやつ。独特の口調ですが、慣れてください。言ってる中身は至極マジメ。ちなみに「風来のシレン」が好物で、名前もそこから借用。なんだか公認してもらったそうです。
ステレオタイプで考えると、つまりは日本人が作るゲームには機微というか、「わびさび」みたいなものがあるってことですかね? 大事にしたいものですね。
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