「アナタハ……ダレ……」――振り向くことすらおののく、Blu-rayノベル:「忌火起草」レビュー(2/2 ページ)
こっ、怖いです……。大の大人がビクビクする理由
物語のあらすじからも分かるとおり、内容は完全にホラーである。中村氏が制作発表の席で「シリーズ“最怖”」と言い切ったくらい、怖さに磨きをかけている。
ちょっと大人びた文章でまとめてみたが、かっこつけずに正直な気持ちを言うと、自分の周囲で関係ない音がすると、それに反応してビクッとしてしまうくらい、怖い。もしこのゲームを家でひとりでプレイしていて、いきなり扉をドンドンドンと叩かれたり、チャイムが鳴ったり、携帯が鳴ったり、弟に背中をつつかれたりしたら、きっと「ぎゃぁっ!!」と叫び声を上げてしまうに違いない。
筆者は、あまりにも怖そうな内容から、煌々と蛍光灯が輝く仕事場で、周囲にたくさん仕事仲間がいる状態の中、ヘッドフォンを最小の音量にして遊んでいた。それでも、遠くから何か音がするたびに、ビクッとなったものだし、怖すぎて「うぉ〜、ふざけんな〜おっかねぇ〜」と何度も独り言をつぶやき、周囲から白い目で見られ続けた。
では、何が怖いのか。
理由のひとつは、「忌火起草」のゲームシステムにある。声や効果音などは日常の音としてスピーカーから発せられ、自分の気持ちは文字で読んでいるため、その場にいる、という臨場感が半端ではない。主人公の声やセリフの内容、言い方などが自分の想像と違うことがたまにあるが、牧村弘樹という主人公の追体験をゲームでプレイしている、という感覚に慣れれば、これもそれほど気にならなくなる。
もしかしたら、この「主人公」と「プレーヤー」の感覚のズレを利用したシナリオも、用意されているかもしれない。いや、ぜひとも用意されていてほしい。チュンソフトが作る、そういったシステムを利用したトリックは、毎度毎度ワクワクして楽しみにしている。だんだん主人公が、プレーヤーの現実と交錯してきたり、弘樹がプレーヤーに向かって急に話しかけてきたり……。そんなシナリオがあったらどんなによいだろう。あるいはもっと、突飛な使い方をしてくれるかもしれない。そのあたりはお手並み拝見ということで、楽しみにしていたい。
プレイしていて気づいたのだが、本作を遊んでいると、携帯電話のバイブが鳴るシーンが何度か登場する。静寂の中でいきなり鳴る携帯電話のバイブの音は、相当怖い。恐怖の想像で気持ちが異世界をさまよいながらフラフラしているところを、いきなりグッと現実に引き戻され、空想の中の恐怖が現実の世界に刷り込まれてしまうのだ。「いやぁ、よく考えられているなぁ」と感心することしきり。
音でもうひとつ気づいたことがある。大きな驚かすような効果音をあまり使っていないし、BGMの音量を大幅に上げていったりという演出も少ない。それよりも、耳元の後ろから聞こえるように「アナタハ……ダレ……」とつぶやかれたときほど、心臓が縮み上がったことはなかった。これ、ヘッドフォンではなくドルビーサラウンド5.1ch対応のスピーカーだったら、もっと怖かっただろう。静の恐怖。それも本作の見所のひとつだ。
演出面でいえば、さすがサウンドノベルの老舗! と、うなってしまったのが、文字の使い方の巧みさ。あせっているときは速く、恐怖で思考が滞っているときにはゆっくり、など、プレーヤーの気持ちのテンポにあわせて、文字を表示する速度を微妙に変えているのだ。これはこれまでのサウンドノベルシリーズでも当然行ってきた演出なのだが、実写・実声と交わり、主人公の心の中の声のみを文字にした本作では、その職人技ともいえる演出がとてもよく体に染み込んでくる。だからこそ、映像や音声だけでなく、文字から得る恐怖も味わえるのである。
「街」に続いて再び実写を使用! その裏に覚悟と自信を見た!!
恐怖を演出するグラフィックがかなり作りこまれている点は、本作の一番のキモであろう。どんなにリアルに描きこまれたグラフィックでも、ゲーム用のグラフィック、という観点で作ると、プレーヤーが「ゲームを遊んでいる」ことに気づいてしまう。しかしリアルすぎると今度は「映画を見させられている」気分になってしまう。その中間をうまくとり、恐怖の演出に力を入れているのがすばらしい。
これは賛否両論出てきそうだが、本作の面白さは、やはり実写を使ったのが功を奏したのだと思う。サウンドノベルに実写を持ち込んだのは同じくチュンソフトの「街〜運命の交差点」。このソフトはユーザーから今でも高く評価されているのだが、ことグラフィックに関しては「実写を使うと想像力が限定されてしまう」という理由で批判もチラホラ噴出している(渋谷という実在の街を舞台にしたことも、本作では架空表現になっている)。しかし今回は、人間を限定する一番重要な要素である「顔」をわざとぼかした演出をすることで、登場人物に関しては想像力を限定させないように工夫している。
実写のすばらしさは、映像技術や演出の苦労と背中合わせである。よっぽど自信がなければ、チュンソフトは実写を使わなかったはずだ。なぜなら、前出した「街」での痛い思いがあるからである。前出の昨年のインタビューから再び転載する。
中村氏 ずっとゲームを作ってきて、初めて挫折感を味わったのも「街」だったんですよ。(中略)この作品だけは数字がついてこなかったんです。周囲からは“実写を使ったのがいけなかったんじゃないか”とも言われましたが、実写だから面白くないとか、3Dだから面白いとか、関係ないと思うんですよね。実際、思い出のゲームランキングなんかを見ると、常に上位にランキングされている。非常に考えさせられる作品でした。
これだけ痛い思いを抱きながら、しかし作品としての完成度には自信を持っていた中村氏。ここで実写を使うことには、かなりの覚悟と自信を必要としたに違いない。ゲーム業界の雄といわれる中村光一氏から、「どうよ、今度のサウンドノベルは!」と挑戦状を叩きつけられているようなもの。そんな気持ちを抱きながら、今宵も「ひぃぃ〜」と震えてプレイしてみてはいかがだろうか。
正直な話、筆者は夜ひとりでこのゲームを遊べません。周囲にもおすすめしません。必ず、誰かといっしょに遊んでください。さもないと……。
「忌火起草」 | |
対応機種 | プレイステーション 3 |
ジャンル | サウンドノベル |
発売予定日 | 2007年10月25日 |
価格(税込) | 7980円 |
関連記事
- 「忌火起草」体験版がPLAYSTATION Storeで無料配信
- 東京ジョイポリスに「忌火起草 胎動編」が来月オープン
- PS3新作「忌火起草」の映像に恐怖した「セガ コンシューマー新作発表会」
5月15日、今年度セガから登場するタイトルを紹介する「セガ コンシューマー新作発表会 2007 SUMMER」を都内の会場で開催した。ニンテンドーDSで展開する「なるほ堂」ブランドや、PS3での新作となるサウンドノベル「忌火起草」も紹介された。 - 業界に一石を投じたジャンル“サウンドノベル”を今一度振り返る
2006年7月27日に登場する「かまいたちの夜×3」で、5作目となるチュンソフトのサウンドノベルシリーズ。同社がこのジャンルの先駆けとなった背景には、どのような思惑や戦略があったのだろうか。中村光一氏に話をうかがった。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
-
21歳の無名アイドル、ビジュアル拡散で「あの頃の橋本環奈すぎる」とSNS騒然 「実物の方が可愛い」「見つかっちゃったなー」の声も
-
生後5日の赤ちゃん、7歳のお姉ちゃんから初めてミルクをもらうと…… 姉も驚きの反応がかわいい
-
9カ月の赤ちゃん、バスで外国人の女の子赤ちゃんと隣り合い…… 人生初のガールズトークに「これは通じあってますね!」「ベビ同士の会話、とろけます」
-
【今日の計算】「8+9÷3−5」を計算せよ
-
「妹が入学式に着るワンピース作ってみた!」 こだわり満載のクラシカルな一着に「すごすぎて意味わからない」「涙が出ました」
-
大谷翔平選手、ハワイに約26億円の別荘を購入 真美子夫人とデコピンとで過ごすかもしれないオフシーズンの拠点に「もうすぐ我が家となる場所」
-
「ケンタッキー」新アプリに不満殺到 「酷すぎる」「改悪」の声…… 運営元「大変ご迷惑をおかけした」と謝罪
-
「ゆるキャン△」のイメージビジュアルそのまま? 工事の看板イラストが登場キャラにしか見えない 工事担当者「狙いました」
-
「ハーゲンダッツ硬すぎ!」と力を入れたら……! “目を疑う事態”になった1枚がパワー過ぎて約8万いいね
-
「そうはならんやろ」をそのまま再現!? 「ガンダムSEED FREEDOM」のズゴックを完全再現したガンプラがすごすぎる
- 生後2カ月の赤ちゃんにママが話しかけると、次の瞬間かわいすぎる反応が! 「天使」「なんか泣けてきた」と癒やされた人続出
- 車検に出した軽トラの荷台に乗っていた生後3日の子猫、保護して育てた3年後…… 驚きの現在に大反響「天使が女神に」「目眩が」
- 安達祐実、成人した娘とのレアな2ショット披露 「ママには見えない!」「とても似ててびっくり」と驚きの声
- 兄が10歳下の妹に無償の愛を注ぎ続けて2年後…… ママも驚きの光景に「尊すぎてコメントが浮かばねぇ」「最高のにいに」
- “これが普通だと思っていた柴犬のお風呂の入れ方が特殊すぎた” 予想外の体勢に「今まで観てきた入浴法で1番かわいい」
- 「虎に翼」、新キャラの俳優に注目が集まる 「綺麗な人だね」「まさか日本のドラマでお目にかかれるとは!」
- 「葬送のフリーレン」ユーベルのコスプレがまるで実写版 「ジト目が完璧」と27万いいねの好評
- お花見でも大活躍する「2杯のドリンクを片手で持つ方法」 目からウロコの裏技に「えぇーーすごーーい」「やってみます!」
- 弟から出産祝いをもらったら…… 爆笑の悲劇に「めっちゃおもろ可愛いんだけどw」「笑いこらえるの無理でした」
- 3カ月の赤ちゃん、パパに“しーっ”とされた反応が「可愛いぁぁぁぁ」と200万再生 無邪気なお返事としぐさから幸せがあふれ出す
- フワちゃん、弟の結婚式で卑劣な行為に「席次見て名前覚えたからな」 めでたい場でのひんしゅく行為に「プライベート守ろうよ!」の声
- 親が「絶対たぬき」「賭けてもいい」と言い張る動物を、保護して育ててみた結果…… 驚愕の正体が230万表示「こんなん噴くわ!」
- 水道検針員から直筆の手紙、驚き確認すると…… メーターボックスで起きた珍事が300万再生「これはびっくり」「生命の逞しさ」
- フワちゃん、収録中に見えてはいけない“部位”が映る まさかの露出に「拡大しちゃったじゃん」「またか」の声
- スーパーで売れ残っていた半額のカニを水槽に入れてみたら…… 220万再生された涙の結末に「切なくなった」「凄く感動」
- 桐朋高等学校、78期卒業生の答辞に賛辞やまず 「只者ではない」「感動のあまり泣いて10回読み直した」
- 「これは悲劇」 ヤマザキ“春のパンまつり”シールを集めていたはずなのに…… 途中で気づいたまさかの現実
- 「ふざけんな」 宿泊施設に「キャンセル料金を払わなくする方法」が物議 宿泊施設「大目に見てきたが厳格化する」
- がん闘病中の見栄晴、20回以上の放射線治療を受け変化が…… 「痛がゆくなって来ました」
- 食べ終わったパイナップルの葉を土に植えたら…… 3年半後、目を疑う結果に「もう、ただただ感動です」「ちょっと泣きそう」