怒りと憎しみが織りなす壮大なる叙事詩――反逆の英雄が咆吼する:「ゴッド・オブ・ウォーII 終焉への序曲」レビュー(1/2 ページ)
ギリシャ神話をテーマにしたアクションゲームの第2弾。専横を極める大神ゼウス。旧怨を晴らす機会をうかがう巨人族。すべての者たちの行く末を意のままに定める運命の三女神。人知を越えた争いの渦中を、破壊と殺戮の衝動に取り憑かれた男が突き進む。その名はクレイトス、通称“スパルタの亡霊”!
神懸かりなほどに不遇だった前作
2005年3月に本国アメリカ版が発売された「ゴッド・オブ・ウォー」はプレイステーション 2で発売された全アクションゲームのうちでも屈指の、控えめに言っても間違いなく十指に入る傑作である。これに匹敵する作品は数年に1本しかない。そう断言して言いほどの圧倒的なクオリティを誇っていた。E3での高い評価をはじめ、アメリカでの人気は抜群で、主人公であるクレイトスはプレイステーション 2を代表するキャラクターとして知られている。
が、不幸なことにこれが日本では信じられないほどの不遇をかこつことになった。とにかく売れなかったのだ。後に廉価版が出たものの、それを加えても売上的にはかなりキビしい。CEROレーティングDという厳しさ。アクションゲームが一般的に言ってコアユーザー向けであるという弱点。そこだけは妙に喧伝されたバイオレンス性の高さなどを考慮してもこの数字はあり得ない。というか、あってほしくない。メイド・イン・USAなら何でもありがたがるのはどうかと思うが、あれだけの優れた作品に対して、この冷遇ぶりはどうしたことだろう。
アクションゲームが好きな人で、これだけ面白いゲームの魅力に逆らえる人などいるのだろうか。キャラクターを操作し、敵と戦ったり、謎を解いたりしながらステージを進んでいくゲームが好きなすべてのユーザーにとって、これほど楽しいゲームがどれだけあるのだろうか。どう考えても納得いかない。……がまあ、怒っていても始まらない。何にしろ、こうやって続編「ゴッド・オブ・ウォーII 終焉への序曲」(以下「II」と表記)がリリースされたのだ。それが何よりうれしい。この後も外伝やIIIが予定されているらしいので、どうかみなさん、このシリーズを見守ってやってください。
純度100パーセントの怒りの権化、主人公クレイトス
さて、前置きが長くなってしまった。早速、本題に入るとしよう。
「II」を評価するにあたっては、次の3点が重要だろう。まずアクション性。次に美術。そして最後にストーリーだ。ゲームの本質から言えば、この順に語るべきなのかもしれないが、ここではあえて逆に行く。というのは、まったく前知識のない人にはそのほうが説明しやすいからだ。
そこで最初にストーリーについてだが、これは2作を通してつながっている。大まかに流れを追ってみよう。
舞台は古代ギリシャ。オリュンポスの神々の庇護の下、幾多の都市国家が覇を競っている。主人公であるクレイトスは有力国家のひとつであるスパルタの軍人だ。このクレイトスが女神アテナに頼まれて戦神アレスを倒し、その功績でアレスに代わる戦神となるのが前作。しかし、自分のことをまともに扱わない神々に腹を立てたクレイトスが神々に反逆し、ゼウスを討とうとするのが「II」だ。
これを見てもわかるだろうが、クレイトスというのは相当に気性が荒い人間だ。軍人には向いているかもしれないが、とてもそんな次元の問題ではない。
戦場を駆け抜け、自ら武器を振るって敵と渡り合うのを好む。この程度ならいいのだが、敵兵はもちろんのこと、立ちふさがる者をすべて虐殺し尽くす、となると話は変わる。しかも老若男女一切関係なし。家という家を壊し、村という村を焼き払う。しかも動機がない。強いて言えば、クレイトスは精神に占める怒りの比重が高い性格で、ともかく心にたまった怒りを吐き出さないと、いてもたってもいられない人なのである。だから壊し、殺す。それだけである。
このクレイトスの性格はストーリーの隅々まで影響を及ぼしている。あまりにも猛々しい性格をしているせいで争いを招き、そこでの殺戮が新たなる怒りと戦いを呼ぶ。それが際限なく繰り返されるから、生きていれば生きているだけ破滅へと向かっていく人生になってしまう。もともと本人の性格のせいなのだから同情の余地などまったくないはずなのだが、それでもなぜかシンパシィを感じる。大局的に見れば、思うがままにいかない運命に翻弄されながら傷ついていくという見方も成り立ち、そこに悲劇性が生まれるのである。非道を極めたゆえに生まれるヒロイズム。それはありきたりのヒーロー像ともビカレスクのヒーローとも異なる。善でも悪でもなく、純然たる怒りが具現化した主人公。その造形が素晴らしい。
自分の都合しか考えないオリュンポスの神々
怒れるクレイトスは、なぜゼウスを討とうなどと考えるに至ったのか。
その理由は神々にある。オリュンポスの神々がこれまた素晴らしいほどに人間的なのである。要するに、我慢とか忍耐とか協調といった言葉を、あまりにも知らなすぎるのだ。ストーリーは神々の傲慢さがクレイトスの怒りと重なって紡ぎ出される。これがまた素晴らしくギリシャ神話らしい。
その一例としてアレスとアテナの姉妹を見てみよう。
アレスは大神ゼウスの息子で、オリュンポス12神にも数えられる神様なのだが、ギリシャ神話での評判はあまりよくない。神格的にも、戦争というより戦い、もっと言えば個人単位の決闘や喧嘩の神として解釈され、粗暴で殺戮好き。原始的な蛮性の象徴なのだ。同じゼウスの子供たちでもアテナやアポロンと比べると格下の神として扱われている。
クレイトスと神々との関係は、戦に敗れて殺されそうになったクレイトスがアレスに救いを求めたことから始まる。なぜそんな凶暴な神に祈るのかと思うが、クレイトスの性格を考慮すれば、まあ当然の選択だろう。似た者同士だし、何より他の神ではクレイトスの願いなど聞いてくれそうにもない。予想通りと言うべきか、アレスはこの願いを聞き届け、自分の下僕となることを条件に力を貸す。
かくしてクレイトスは窮地を脱するのだが、アレスに仕えてからのクレイトスは、今まで以上に破壊と殺戮に明け暮れるようになり、ついに彼の唯一の心よりどころだった妻と娘を自らの手に掛けて殺してしまう。この裏にはクレイトスの心に残ったわずかな人間性を捨てさせようとしたアレスの奸計があった。
この一件でクレイトスは大激怒。命を助けてもらったことやそれまで加護を受けていたことなどキレイサッパリ忘れ、アレスへの憎悪をたぎらせるようになる。ちょうどそんな時、ゼウスの恩寵がアテナにばかり向いて自分を無視しているのを感じたアレスは、腹いせにアテナが守護する街・アテナイ(アテネ)を破壊することを決意。死者の軍勢を率いて攻撃を開始する。アテナとしては街を救いたいが、オリュンポスには神々同士が戦ってはならないという不文律の掟があるため、直接関与することができない。そこでアレスを憎んでいるクレイトスに声をかけ、彼をアテナイに向かわせるのだ。
アテナはこのシリーズを通して、もっともクレイトスに理解があって善良な神として描かれているのだが、その彼女もクレイトスを駒としか見ていないことに注目したい。しかもアレスを倒した褒美として、クレイトスを戦神にしてしまった。一見ただの人間を神にしてくれたのだから、すごい恩恵を授けてくれたようだが、実はまったく違う。クレイトスの願いは自分の呪われた人生からの解放、すなわち魂の安息であり、いわば死だった。だが、アテナは戦神がいないとオリュンポスが困る、という理由で神にしてしまったのだ(神は不死であり死ねない)。「II」の冒頭、オリュンポスの神々をないがしろにするクレイトスを諫めに来たアテナが「あなたを神にした私に逆らうというのですか」と言うと、クレイトスは「お前に借りはない」と言い返す。2人(2柱?)の見解にはこれだけの相違があるのである。
いかがだろうか。神々がいかに自分のことしか考えていないか、英雄であっても駒にしか過ぎないことがお分かりいただけるだろう。この傾向は「II」になるといっそう強まる。ゼウスに反逆したクレイトスは冒頭で早々と力の差を思い知らされ、ゼウスに殺されてしまう。ところが、彼を冥界から引き戻し、さらにゼウスを討つために協力を申し出た者たちが出てくるのだ。遙か昔、オリュンポスの神々に敗れて地の底深く幽閉された巨人族である。彼らを束ねる大地母神ガイアは、ゼウスの専横に終止符を打つべく、クレイトスの怒りを利用する。争い続ける神々とその駒に過ぎない英雄。アテナとアレス、ガイアとゼウスの関係には何の相違もない。それでもクレイトスはガイアの申し出を受け入れる。ゼウスへの恨みを晴らすならば、その協力は必須なのだ。かくして再び運命の輪が回り始める。
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