フタをあけてみると、オトナが楽しめるシブい作品でした:「ロストオデッセイ」レビュー(1/2 ページ)
「FF」シリーズの生みの親である坂口博信氏が、Xbox 360で手がけたRPGの第2弾が登場。死ねない男・カイムが繰り広げる物語と、1000年にわたる彼の人生をいまさらですが体験してみました。
Xbox 360で、1年ぶりに超大作RPGが登場!
坂口博信氏をご存知だろうか? ゲームファンならばまず間違いなく知っているであろう、「ファイナルファンタジー」シリーズを生み出したプロデューサーである。坂口氏は一時期、ゲーム製作から身を引いていたが、2005年に復活を宣言、そして2006年にXbox 360にて超大作RPGの「ブルードラゴン」を完成させた。Xbox 360では珍しい純日本型のRPGながら好セールスを記録し、Xbox 360本体の普及も大きく牽引したのは記憶に新しい。
そして時は流れて1年後。坂口氏の完全新作であるRPG「ロストオデッセイ」が、ついに完成したのである。音楽に「FF」シリーズでおなじみの植松伸夫氏、キャラクターデザインに漫画「スラムダンク」や「バガボンド」で名を馳せる井上雄彦氏、そして劇中小説“千年の夢”を「ビタミンF」で有名な小説家・重松清氏が手がけている。もうこれ以上ないというほどに豪華メンバーが作り上げた本作、果たしてその期待に応えてくれる完成度なのであろうか。
1000年を生きる男・カイムを中心に描かれる物語
まずは、ストーリーを紹介していこう。舞台は、30年前に強力な新エネルギー“魔導力”が発見され、“魔導産業革命”が起こった世界。魔導力は人々の生活を大きく変革し、そして戦争のカタチすら変えてしまったのである。
ウォール高原という場所で、ウーラ軍とカント軍がその戦火を交えていた。だが、突如降り注ぐ隕石に両軍は壊滅。だが、この悲惨な状況の中で、数少ない生き残りの一人であるウーラ軍のカイム・アラゴナー少尉は、無傷で生還した。
カイムは、1000年の歳月を生きている不死者である。だが、なぜ不死なのか、1000年をどう生きてきたのか、それらの記憶は失われてしまっているのだ。
戦場より戻ったカイムに、新たな任務が与えられた。件の隕石落下に関係があるとされている、建造中の建物“グランドスタッフ”の調査だった――。
物語の導入は、ウォール高原での戦争よりスタートする。2006年末に配布された本作の体験版で描かれた、あのシーンである。何百もの人々が剣を手に戦うなか、華麗な剣技でほかを圧倒するカイム。このシーンはXbox 360では珍しくプリレンダリングムービーで描かれており、そのクオリティはXbox 360史上最高と言っても過言ではないだろう。――と、魅せるべき箇所はしっかりと魅せておき、そのままシームレスにバトルシーンへと突入する。すでに1年前に体験したとはいえ、改めて見ても非常に格好いい演出だ。
以後の物語は、カイムとなって世界中を冒険しつつ、失われた自分自身を取り戻していく様が描かれる。なぜカイムら不死者は記憶を失っているのか、そもそもなぜ彼らは不死なのか、それらの答えは物語中で語られていくだろう。
1000年の夢
ストーリーに大きく絡んでくる作中小説“千年の夢”について語っていこう。カイムは前述のとおり記憶を失っているが、物語のさまざまな場所や人物がきっかけとなり、記憶を少しずつ取り戻していく。カイムが過去にどのような体験をしたのか、それが“千年の夢”で語られるのだ。ちなみに、この短編を重松清氏が手がけている。
“千年の夢”は全部で30以上あり、ムービーではなく文章で語られる。その多くはメインストーリーには大きく関係せず、過去のカイムの人となりを知るためのものだ。物語は、死ねない人間であるカイムだからこそ、体験できた話が大半である。カイム自身は死ねないが、他の人々は普通に年をとり、やがては死んでしまう。知り合い、懇意になった人でも、いずれ別れのときがやってくるのだ。一般人と異なるのは、カイムは必ず見送る側の立場である、ということ。死ねないために悲しい記憶が積み重なっていく彼の心情を、100%とはいかずとも、少なからず共感できるだろう。
こうしてプレイを重ね、“千年の夢”を少しずつ読み解いていくうちに、どんどんカイムへ感情移入している自分に気がついた。カイムは最初は“なんだかよくわからん傭兵”であったのだが、彼の人生を徐々に追体験していくうちに、どんどん彼の人となりが理解できるようになってきたからだ。
プレイ前までは「作中小説はテンポが失われてちょっと微妙かも」なんて思っていたが、いやいやどうして、絶妙にマッチしているではないか。“1000年を生きる不死者”と、その記憶を失っているという設定も上手に生かしており、ストーリーに深みを与えている。ただし、“千年の夢”という物語の面白さは重松清氏によるところが大きいため、これだけ豪華なスタッフが集結した本作だからこそできた表現、といえるかもしれない。
本編のストーリーはサクサク進む一本道タイプ
ゲーム本編の流れについても解説しよう。本作のストーリーは分岐がなく、与えられた目標を順次達成していくというもの。各所にある街やダンジョンは、ワールドマップから瞬時に移動することが可能だ(ストーリーによる制約はある)。ただし、ゲーム中盤で手に入る船などをのぞき、ワールドマップを探索することはできない。
言ってしまえば日本製の大作RPGによくあるシステムで、自由度はないに等しい。何をしていいのか迷う心配がない反面、好き勝手に遊びまわれないこのシステムは、好みが分かれるところだろう。もっとも、本作を期待していただろう「日本製のRPGを遊びたいファン」にとっては受け入れやすいと思う。
レベルアップについても、さらっと触れておこう。本作の戦闘シーンはランダムエンカウント方式、つまりダンジョンを歩いていたら時たま画面が切り替わり、戦闘シーンへ移行するタイプだ。敵との戦闘に勝利すれば経験値が入り、一定以上たまれば主人公がレベルアップして強くなる……というオーソドックスなシステムである。
ここで紹介したいのは、レベルアップのバランスについてだ。主人公たちのレベルアップまでに必要な経験値は、どのレベルでも100と固定されており、キャラクターのレベルによって入手できる経験値が大幅に変化するのだ。
例えばあるダンジョンに行ったとしよう。ついたばかりの時は大量に経験値を入手できるため、数戦すればレベルアップできる。だが、そのダンジョンの推奨レベル(ゲーム中で表示はされない)まで達すると、とたんに入手できる経験値の量が激減し、レベルを上げるまでに途方もない時間が必要になってしまう。もちろん、そのダンジョンをクリアーして次のダンジョンへ進むと、またレベルは上がりやすくなる。初期の「真・女神転生」シリーズに近いといえば、分かってもらえるだろうか。
この一定以上レベルを上げにくいシステムのため、ザコ戦はおろか、ボス戦は近年まれに見るほど歯ごたえのあるものとなっている。どのボスも2回、3回の全滅はあたりまえ、最初に遭遇するボスですら、である。
基本的にRPGのレベル上げが嫌いな筆者にとって、このレベルがサクサク上がるシステムはかなりありがたかった。ボスは強いが、しっかりと戦略を練ればなんとか光明が見えるバランス。「こいつを戦闘に参加させると楽になるかも」というキャラクターのレベルが低くとも、一定までレベルを上げるのは楽なので、「絶対勝てねーよ!」という絶望感はなかった。
というわけで筆者的にはアリアリなバランスなのだが、しっかりとレベルを上げてボス戦を楽に突破したい人は、ちょっと苦い顔になってしまうかもしれない。
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