いざ空想科学の世界へ! 南洋の珊瑚礁に秘められた謎を解き明かせ:「アクアノーツホリデイ 隠された記録」レビュー(1/2 ページ)
周囲の海域から隔離されたことで独自の生態系が育まれている“キシラ環礁”。海底には年代不明の古代遺跡が眠り、かつては海賊の根城になっていたという伝承も残る。さまざまな謎に包まれた海域を潜水艇で調査し、センス・オブ・ワンダーに浸ろう。
リアル路線とは一線を画した空想科学の物語
読者のみなさんは「アクアノーツホリデイ 隠された記録」に対して、どんなイメージを抱かれているだろうか。
おそらく多くの人は大自然の美しさをプレイステーション3で再現したソフトとして捉えるだろう。ほぼ同時期(2008年夏)に発売された「アフリカ」と対にして、あちらが大地、こちらが海と思っている方も少ないと思われる。
だが、そうした認識はあまり正確とはいえない。もちろん、自然をCGでどこまでリアルに描けるか、という点は両者に共通している。しかし、アフリカが動物や自然を被写体にしてカメラのテクニックを磨いていくゲームなのに対し、アクアノーツホリディは海を探索し、そこに秘められた謎を解き明かしていく内容になっている。ゲーム性がかなり違うのだ。
加えて描写の方向性も違う。アフリカでは動物は写実的に描かれ、ゲーム展開も現実路線を外れない。しかし、アクアノートホリディは現実には拘泥せず、超科学、疑似科学、トンデモ科学の領域へとどんどん踏み込んでいく。実質的には海を舞台にしたライトなSFといったほうがいいだろう。海それ自体やそこに棲息する動物の描写自体は写実的だが、どちらかというとそれらは本編の添え物であり、マップ上に置かれたオブジェとして捉えたほうがいい。少なくとも、魚たちと戯れる癒し系ゲームなどでは絶対にない。そこを勘違いすると悲劇だろう。
アクアノートホリディは、リアルな海を描くことにこだわるのではなく、ある程度のところまで作り込んだところで現実から離れ、空想の世界に遊んだ作品だ。だから、プレイヤーも重箱の隅をつつくような発想は捨て、もっと大らかな気持ちで臨むべきだろう。“海の底には人間が知らない神秘の世界がある、そういう話って大好きさ”、とまるで19世紀の冒険野郎のようなスタンスで、未知の浪漫に浸るのがもっとも楽しめる姿勢だと思われる。
機能がロックされた潜水艇と陽気でお茶目な科学者たち
ゲームを立ち上げると、ビル・グラバーという科学者が失踪したこと、ジャーナリストである主人公がその事件に興味を抱いて南太平洋の珊瑚礁に建設された研究施設を訪れたことが語られる。このあたり、ややサスペンス風の展開になっているが、これはあくまで前置き。事件はあくまで事件、主人公の行動動機にはなるというだけに留めておきます、といった赴きなのだ。だから海洋サスペンスと思うのも適切とはいえない。舞台は南洋の楽園、野暮なことは言わずに半分バカンス気分で楽しくやろう、とそんな雰囲気が濃厚なのである。
そんなせいか、研究施設の科学者たちも細かいことには頓着しない。主人公はジャーナリストというだけで、海洋探査に関する知識もスキルも持っていないのだが、そんな主人公に調査用の潜水艇を貸してくれる。太っ腹というか何というか、大らかな人たちだ。
ちょっと設定的な話をすると、主人公がやってきた研究施設は、名称を“キシラベース”、通称“アクアヘブン”という。政府管轄下にある“ワイズ海洋生物研究所”が建設した出先機関で、バンガローと潜水艇のドッグがあるだけの小規模な施設だ。失踪したビル以外には、2名のスタッフがいる。主任のロバート・ケメルマンと、通信担当で自身も研究者であるジェシカ・ポーター。ふたりとも陽気な好人物だ。
ところで主人公が借りた潜水艇には妙な仕掛けが施されている。失踪したビルの手で改造が加えられ、一部の機能にロックが掛かっているのだ。研究所の備品を勝手に改造していいのか気になるが、こんな文明社会から遠く離れたところでルールがどうこういうのは無粋というものだろう。
ありがたいことに潜水艇には疑似人格インタフェースが備わっているので会話ができる。多少の不便はあるものの、基本的な航行能力は損なわれていない。好奇心旺盛で行動的な主人公はためらうことなく搭乗して海へと乗り出していく。いきなり操船して大丈夫なのかとか、他人が改造した船なんて危なくないのかとか、そんなことを考えるのはやめよう。綺麗な海がある。船がある。主人公が行動を起こすにはそれで十分ではないか。
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