朽ちる、崩れる、誰もいない――“廃墟”で繰り広げられる物語は切なくも温かい:「フラジール 〜さよなら月の廃墟〜」レビュー(1/2 ページ)
シャッターばかりの地下商店街に、無人の遊園地、寂れたホテル……。美しくたたずむ廃墟を冒険するRPG「フラジール〜さよなら月の廃墟〜」。オリジナルの新作として期待を集めた個性派タイトル。その世界が醸し出す雰囲気は、何とも言えず魅力的だった。
廃墟という、まるで時の止まった世界
写真集といえばアイドル系が一般的だが、ここ数年、密かに人気があるのが廃墟写真集。出入りする人間もいなくなって、ただ風化するばかりの廃墟は、本来価値のない建造物。だが、その光景が人の心をとらえるのだ。
無人のまま、時が止まったかのような空間……。それは寂しくもあり、ちょっとした恐怖でもあり、日常から半歩踏み出した非日常でもある。廃墟写真を見ていると、複雑な感情が胸の中でないまぜになる。
「フラジール 〜さよなら月の廃墟〜」は“廃墟ゲー”とファンから呼ばれている。公式のジャンル名もズバリ“廃墟探索RPG”。これまでも「SIREN」シリーズのように、廃墟というシチュエーションを舞台にしたゲームはあったが、ジャンルにまで打ち出しているのは珍しい。
その着目点と美しいビジュアルイメージから、発売前から一部で熱い注目を浴びていた。期待が高かった分、リリース後には幾分厳しい声も聞かれるが、廃墟という存在がたたえる物悲しさと、シナリオの切なさが相まって、その空気感、雰囲気は申し分ない。
屋根が崩れ落ちて青白い月光が射し込む廃駅。レトロなポスターがペタペタと貼られた地下街。柔らかい光が緑の蔓草に覆われた室内を照らすホテル……。
こうした廃墟を探索して、物語を進めていく。ゲームボリュームは、プレイ時間にして15時間前後とやや少なめで、やり込み派のゲーマーには正直、物足りないだろう。アクションRPGのシステムにのっとって、敵を倒してレベルアップする要素もあるが、戦闘がメインというわけではない。むしろ、小説や映画のワンシーンに入り込んだような不思議な感覚を味わいたい、そんなプレイヤーにこそオススメだ。
制作プロデューサー兼シナリオは、かつてプレイステーション 2で際立つゲーム性とスタイリッシュなビジュアルが話題となった「7〜モールモースの騎兵隊〜」「ヴィーナス&ブレイブス〜魔女と女神と滅びの予言〜」を手がけた川島健太郎氏。ゲームデザインとグラフィックディレクションは、同じく7〜モールモースの騎兵隊〜のチームが行い、さらに開発は「トラスティベル〜ショパンの夢〜」のトライクレッシェンドが担当している。こうしてスタッフの過去作を見ていくと、その作家性の高さと美しいグラフィックにはうなずけるものがある。
ひとりぼっちの少年が旅に出る
――今からほんの少し先の未来、人類が滅びてしまった地球。少年セトは小さな天文台でおじいさんと2人で暮らしていた。ところが、セトが15歳になったある日、おじいさんがこの世を去ってしまう。
遺された手紙を読んだセトは、ほかにいるかもしれない同じ人間の生き残りを探して天文台を出ていく……。
天文台をあとにしたセトは、月の下で歌う銀の髪の少女と出会い、彼女を追いかけて地下駅へ向かう。RPGとはいっても、人類が滅びた世界なので、基本的には町の住人はいない。それでもステージごとにセトはさまざまな存在と出会い、心を通わせていく。本作のキャラクターは、個性は強いが非常に魅力的だ。
●セト(CV:桑島法子)
「必ず、君に会いにいくからね」
本作の主人公。静寂の廃墟を旅する15歳の少年。ナイーブで繊細な性格に映るが、旅を続けるうちに次第に成長し、自分の意志を曲げない、まっすぐな力強さを見せる。
●レン(CV:吉川未来)
「だれ? だれかいるの?」
月光の下、折れた柱の上で歌っていた銀髪の少女。柱から落ちた彼女の頬にセトは一瞬触れるが、すぐに逃げてしまった。その後、セトは彼女を探すことに。廃墟のあちこちでのびのびとしたレンの落書きを見ることができる。
●PF(パーソナル・フレーム)(CV:庄司宇芽香)
「すみません、今ちょっと気を抜いてました」
背中に背負って使用する携帯対話型AI。「助けてくださーい」と叫んでいたところをセトが駅長室で発見した。人間顔負けのおしゃべり好きで、心細かったセトの最初のパートナーになるが……。
●クロウ(CV:園崎未恵)
「気安く話しかけんな。いーか、俺様が先に話すんだ」
遊園地で出会う、元気でイタズラ好きの少年。初対面のセトから首のロケットを奪い、さんざんバカにして逃げ回るが……。意地悪そうに見えて、徐々にセトとの友情に目覚めていく。クロウの秘密とは……?
●サイ(CV:広橋涼)
「へー。人間って、まだ生き残ってたんだ」
ホテルで出会う少女の幽霊。セトよりは少しお姉さんで、セトをからかってみたり、心配してアドバイスをくれたりする。彼女の他愛ないおしゃべりはプレイヤーの心も和ませてくれる。
●アイテム屋(CV:麻生智久)
「あなたさまと私め、どうやら不思議なご縁があるようですな」
セトが焚き火に当たろうとする時、声をかけてくる謎の男。片目が取れたニワトリの着ぐるみの頭と、ボロボロになった執事風の服という異様な格好をしている。キラキラ光るものを集めており、交換にアイテムを売ってくれる。
ストーリーのメインテーマは出会いと別れ。想いを残したままさまよう人々とセトが触れ合う。温かいのに、ふと胸が締めつけられ、感動的なのに、どこかほろ苦い。リアルであって幻想的。とても不思議なプレイ感覚だ。
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