トラウマになるので音楽は後からつけたほうがいい――チュンソフト 中村光一氏(前編):ヒライタケシの「投げる前から変化球」(その5)(1/3 ページ)
ヒライタケシの「投げる前から変化球」。春はあけぼの、チュンソフト代表取締役社長・中村光一氏を迎えて、おいしい鍋をつつきながらお届けします。トラウマって?
自由な発想と情熱が大事
平井武史氏(以下、敬称略) 最初に、簡単なプロフィールを教えていただけますでしょうか。まずはゲームとの接点を。
中村光一氏(以下、敬称略) 高校に入学した頃、インベーダーゲームが大ヒットしており、好きで遊んでいました。高校に入学して、パソコン同好会の先輩にプログラミングを教わりながら、アルバイトしてPC8001を購入したのがきっかけですね。当時、IOという雑誌にプログラムを投稿して少額の印税を稼いでいまして、ちょうどその頃、エニックスがコンテストを開催したんです。そして、高校3年の時に作って応募したのが「ドアドア」なんです。それで優秀賞をもらいました。
平井 ボクはその頃中学生でしたね。当時、アドベンチャーが多かった時代で、家庭用のPCでアクションができるということに感銘を受けました。ある意味、この業界に興味を持ったきっかけでしたね。
中村 当時は著作権という概念があまりなくて、いかにゲームセンターにあるものに似せたものを家庭用PCでできるかを意識してましたね。キャラクターは同じものではないけど、画面デザインとか動き方とか似せてるんです。まさに、目と耳でコピーしてたんですよ。
平井 ドアドアはどれくらいで制作されたんですか?
中村 1カ月くらいですね。当時はサイズも小さいですし。アセンブラだったんで、多少時間はかかりましたが、それほど苦労した記憶はないですね。実はその前にコナミの「スクランブル」をコピーしたものがあって、それがけっこう苦労しましたね。画面のデータを圧縮する技術が自分になくて、2画面でメモリが終わってしまう事態になって断念してたんです。でも、ふとこうやったらできるかもとある日、圧縮の仕方を思きつきまして。1ラインを1バイトで表すのがうまくいったんです。でも、画面を最後までコピーするのにどれだけお金を使ったか……。今では動画で録画すればいいのですが、そういう意味で苦労しましたよ。
平井 そこから起業するに至ったのは?
中村 大学のために上京してきたのですが、第2弾をエニックスで作りませんかという話があって。「ニュートロン」というのを作ろうと思ったんですが、東京での生活が楽しくて全然ゲームを作れなかった(笑)。そうこうしているうちに1年が過ぎた頃、どうせやるなら法人の形をとろうと、84年4月9日ですか。大学2年に上がる時にワンルームから始めたのがチュンソフトだったんです。
平井 チュンソフトの由来は?
中村 単純なんですが、中村の中が麻雀牌のチュンと呼ぶところからですね。高校のころから麻雀が大好きで、仲間うちからチュンと呼ばれていたのに由来します。キャラクターでも「ドアドア」ではチュン君ですし、「ニュートロン」ではロン君が登場するなど、(麻雀から名前を拝借しているのものが)多いですね。
平井 今でも麻雀は?
中村 週に1度は今でもやっていますよ。
平井 起業してから25年間やっていて、いろんな転機があったと思いますが、一番の転機は?
中村 3つありますね。やはりメーカーとして自社パブリッシュをはじめた「弟切草」。そして、もうひとつは「ドラゴンクエスト」が大きいですよね。そして、3年前にドワンゴの傘下に入ったことも大きいです。
平井 ゲーム業界に入ってよかったことは?
中村 逆にボクはゲーム業界しか知らないから、ゲーム業界から外をのぞいた時に全然違うと感じますね。要するに、ゲーム業界ってなんだかんだいって、作っている人が偉いという感じしません? 現場の人たちが大事にされている。それが、他だと変なしがらみとか、互いに駆け引き的な考えを巡らしてビジネスしなくてはならない場面もある。だから、ゲーム業界で仕事できて幸せだったと思いますよ。
平井 ゲーム業界に入ってなかったら何をされてましたか?
中村 なにやってたかな。想像できないな。
平井 どういったエンジニアになりたいと思っていましたか?
中村 エンジニアというより、「ドアドア」作っていた当時は自分の作るゲームのほうが全然マシだと思ってましたから。粗悪品を買っているのはかわいそうだし、いいものを作れるという思いで会社を作ったので、最初からプログラマーをやりたかったわけではなかったんですよね。
平井 最初からゲームクリエイターだったんですね。
中村 自分が単純にゲーム好きだったので、面白いゲームを世に出したかっただけです。また、当時はゲーセンのゲームはナムコって時代でしたから、ナムコに入りたいけど自分では無理だという思いがあって、自分で(会社を)やるしかないという思いもありました。
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