遊んでいる姿が楽しそうなのが大事――マリオの父、宮本茂氏の設計哲学(後編)(5/5 ページ)

» 2010年02月12日 08時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]
前のページへ 1|2|3|4|5       

DSで生活を便利に

河津 今後はどういうことに取り組みたいと思われていますか?

宮本 ゲームユーザーとしてはがっかりされる話かもしれないのですが、僕はここ2年くらい、“DSパブリックスペース利用”という堅苦しい名前を付けて動いています。これは、「DSをあちこちに持っていったら、ちょっと便利なことがある」というものです。直接僕が関わっているわけではないのですが、最近ではマクドナルドさんで“マックでDS”というものをやっています。

 僕が作っているものは、この間までディズニーランドの前にあるイクスピアリというショッピングモールでテスト運用していました。ショッピングモールにDSを持っていくと、地図の案内ガイドを利用できる。何もカートリッジが入っていないDSを持っていっても、ダウンロードだけで全部動くんですね。

DSでイクスピアリの情報検索ができる(出典:任天堂)

 最近はその仕組みを美術館で使おうとしています。DSにはDS同士の通信機能があるのですが、1台で15台くらいと通信できます。だから、部屋にDSを1台置いておけば、15台のDSに簡単な音声ガイドのプログラムを送ることができるのです。DSの番号を押したらその音声ガイドがストリーミングで流れてきて、しかもちょっとした絵が付いてくるという簡単な仕組みを作りました。

 音声ガイドのある美術館がありますが、あれはなかなか借りないですよね。音声ガイドを借りない人はものすごく損していて、その分のお金で入館チケットが倍の価値になると思います。僕は「音声ガイドは来た人みんなが聞くべきじゃないか」と思っていて、多分主催者もそう思っているんじゃないですかね。ただ、音声ガイドを運用している会社はもうけたいので、(DSを使った音声ガイドを広めるために)志の高い人たちと会えればいいなと思うですが。

出典:京都精華大学

 これに最近、京都精華大学の先生が興味を持ってくれて、デザイン学部ビジュアルデザイン学科の卒業展で使ってくれました(参照リンク)。専用のDSを5台くらい会場に置くだけで、あとは来場者が持ってきたDSで104種類の音声ガイドが利用できるというものです。

 音声ガイドを作るには、学生さんはMP3の音声ファイルを作って、ファイルの番号をつけて、SDカードにダウンロードするだけでいいんです。後の環境は全部DS側で作っていますから。グラフィックデータと音声ファイルをみんなが持ち寄ってPCでフォルダに入れて、それをSDカードに入れてDSにさすと、それでもう自動的に配信ができるのです。ぜひ世界中の美術館に導入したいなと思いますね。

 こういう仕組みを作るのは楽しいんですね。システム系の話はどうしてもハードウェア先行で動いてしまって、気が付いたらすごく高いものになっていたり、意外なところでストレスがあって快適に使えなかったりしますよね。僕らのようにインタラクティブをずっと触っている人間は、そこに一番敏感だと思うんですね。「今のコストでできるか」「ここで何秒待たないといけないのか」「気持ちよく快適に動いているか」みたいなことにすごく敏感です。

 日本はこのインタラクティブの技術はすごいと思っていて、「そういう技術を何かもっと便利なことに使えたらいいのにな」と思うのです。ゲーム業界はそのノウハウをすごく持っているので、「それをゲームだけに使っているのはもったいない」と思い、そういうものを作ったりしています。

 それから、教室システムというものを作っています。クラスの子どもたちが全員DSを持って、先生はノートPCを持つんですね。そのノートPCと全部のDSがつながった状態になるというものです。「ボタンを押してください」と言ったら、誰が押したかノートPCで分かって、「誰が押したか見てみましょう」ということでスクリーンに映すこともできるといった仕組みがあります。DSに手書きで答えを書くこともできるので、1対1のコミュニケーションをとりながらとか、みんなの様子を正確に知りながら授業ができるのです。これは春から販売するのですが、「そういうものを積極的に使ってくれる先生がいたらいいのになあ」と思います。

河津 何かゲーム関係でやられていることがあれば、触れていただけると。

宮本 「Wiiで発売するゼルダを作っている」と言うと、ゲームショウではどわーっと盛り上がるのですが……。「もっと体感的なものを作りたい」と思ってWiiモーションプラスというリモコンを作ったので、それをプレイヤーが使って主人公に剣を振らせて戦うというように、直感的に遊べます。……そんなこと言っても面白くないですよね、「次のことは言うな」といろいろ(笑)。新しいハードの開発とかもしていますしね。

文化庁メディア芸術祭の会場に描かれていた宮本氏のサイン

 僕は10年以上前からメディアアート展などを見に行くようになったのですが、いつもゲームショウより面白いんですよ。昔から岩井俊雄(メディアアーティスト、『TENORI-ON』の開発者)さんとかに興味は持っていますし、文化庁メディア芸術祭の展示を見ても、ゲームよりユニークなものが多いですよね。

 ただ、メディアアートの人たちって作家なので、「俺の作ったものを見ろ」という感覚でいる気がします。使ってもらうわけなので、「使う人が快適に使えるように作ってほしい」と思う一方、「そういうことをやっている人たちが、ゲームというジャンルの仕事をもっとしてほしい」と本当に思います。

 もっともっとつながっていかないといけない。メディアアート、ゲーム、漫画と分けているのではなくて、実は共通なので、「お互いに得意なところは出し合いましょうよ、という感覚で仕事ができたらな」と思っています。文化庁メディア芸術祭で4つのジャンル(アート部門、エンターテインメント部門、アニメーション部門、マンガ部門)を1つにまとめて扱ってもらえるのはすごく光栄に思っていますし、漫画家になりたくて、アニメーターになりたかった私がゲームクリエイターとして加えてもらっていることにすごく感謝しています。ほかのジャンルの方には、「ゲームはこんなものである」と思わずに、「インタラクティブの面白いものはゲーム機で作ってやればいい」と思ってゲーム業界に入ってきてもらえたらと思います。

前のページへ 1|2|3|4|5       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2403/26/news158.jpg 元横綱・貴乃花、再婚後の激変ぶりに驚きの声 ヒゲ生やした近影に「ショーケンみたい」「ワイルドー」
  2. /nl/articles/2403/27/news130.jpg 中山美穂、金髪&ミニ丈の大胆イメチェンに視聴者びっくり! “格付け”出演の最新ビジュアルに「誰だか分からなかった」
  3. /nl/articles/2403/26/news169.jpg 「『ちゅ〜る』の紅麹色素は大丈夫?」 小林製薬の「紅麹」報道で飼い主に不安広がる
  4. /nl/articles/2403/27/news126.jpg ミス筑波大モデル、25キロ減量したビフォーアフターに「ホント凄い」 整形疑う声も「元々は埋もれてたようですね」
  5. /nl/articles/2403/26/news161.jpg 【まとめ】小林製薬「紅麹」問題 味噌や酒など紅麹原料使用メーカーの自主回収相次ぐ 20社以上が発表
  6. /nl/articles/2403/27/news127.jpg 日本エレキテル連合・中野、ネタで酷使し容姿に異変→手術を決断 「ダメよ〜、ダメダメ」でブレイク、2022年にがん公表
  7. /nl/articles/2403/20/news067.jpg 「紫のトトロ買った」 “ジブリを1ミリも知らない”友だちから連絡→まさかの正体に爆笑 友だちはその後ジブリを見た?
  8. /nl/articles/2403/26/news016.jpg ドイツ人家族が日本のバウムクーヘンを実食、一番おいしいと絶賛したのは…… 満場一致の結果に「参考になります」「他の食べ比べもお願い」
  9. /nl/articles/2312/30/news041.jpg 「紫のトトロ買った」 “ジブリを1ミリも知らない”友人から連絡→まさかの正体に爆笑「それトトロやない」
  10. /nl/articles/2403/26/news145.jpg 「ご安心ください」 “紅麹ショック”でDHCとファンケルが声明…… サプリ販売は継続中 小林製薬では死亡患者がサプリ摂取
先週の総合アクセスTOP10
  1. 親が「絶対たぬき」「賭けてもいい」と言い張る動物を、保護して育ててみた結果…… 驚愕の正体が230万表示「こんなん噴くわ!」
  2. フワちゃん、収録中に見えてはいけない“部位”が映る まさかの露出に「拡大しちゃったじゃん」「またか」の声
  3. 「これは悲劇」 ヤマザキ“春のパンまつり”シールを集めていたはずなのに…… 途中で気づいたまさかの現実
  4. 「ふざけんな」 宿泊施設に「キャンセル料金を払わなくする方法」が物議 宿泊施設「大目に見てきたが厳格化する」
  5. 田代まさしの息子・タツヤ、母の逝去を報告 「あんなに悲しむ父親の姿を見たのは初めて」
  6. 「遺体の写真晒すのはさすがに」「不愉快」 坂間叶夢さんの葬儀に際して“不適切”写真を投稿で物議
  7. 大友康平、伊集院静さんの“お別れ会”で「“平服でお越しください”とあったので……」 服装が浮きまくる事態に
  8. 妊娠中に捨てられていた大型犬を保護 救われた尊い命に安堵と憤りの声「絶対に許せません」「親子ともに助かって良かった」
  9. 極寒トイレが100均アイテムで“裸足で歩ける暖かさ”に 今すぐマネできるDIYに「これは盲点」「簡単に掃除が出来る」
  10. 「奥さん目をしっかり見て挨拶してる」「品を感じる」 大谷翔平&真美子さんのオフ写真集、球団関係者が公開
先月の総合アクセスTOP10
  1. 釣れたキジハタを1年飼ってみると…… 飼い主も驚きの姿に「もはや、魚じゃない」「もう家族やね」と反響
  2. パーカーをガバッとまくり上げて…… 女性インフルエンサー、台湾でボディーライン晒す 上半身露出で物議 「羞恥心どこに置いてきたん?」
  3. “TikTokはエロの宝庫だ” 女性インフルエンサー、水着姿晒した雑誌表紙に苦言 「なんですか? これ?」
  4. 1歳妹を溺愛する18歳兄、しかし妹のひと言に表情が一変「ちがうなぁ!?」 ママも笑っちゃうオチに「かわいいし天才笑」「何度も見ちゃう」
  5. 8歳兄が0歳赤ちゃんを寝かしつけ→2年後の現在は…… 尊く涙が出そうな光景に「可愛すぎる兄妹」「本当に優しい」
  6. 1人遊びに夢中な0歳赤ちゃん、ママの視線に気付いた瞬間…… 100点満点のリアクションにキュン「かわいすぎて鼻血出そう!」
  7. 67歳マダムの「ユニクロ・緑のヒートテック重ね着術」に「色の合わせ方が神すぎる」と称賛 センス抜群の着こなしが参考になる
  8. “双子モデル”りんか&あんな、成長した姿に驚きの声 近影に「こんなにおっきくなって」「ちょっと見ないうちに」
  9. 犬が同じ場所で2年間、トイレをし続けた結果…… 笑っちゃうほど様変わりした光景が379万表示「そこだけボッ!ってw」
  10. 新幹線で「高級ウイスキー」を注文→“予想外のサイズ”に仰天 「むしろすげえ」「家に飾りたい」