オープンプラットフォームとは何なのか――DeNA「モバゲータウン」の戦略:野島美保の“仮想世界”のビジネスデザイン(3/3 ページ)
モバゲータウンのオープン化
この3月、モバゲータウン(モバゲー)が全面的にオープンプラットフォームとなる。モバゲーは1725万人(2010年2月末)の登録ユーザーを抱える携帯SNSサイトで、ゲームやケータイ小説などの娯楽コンテンツ、さらにはニュースや乗換案内などの便利ツールも提供している。2009年10月から内製ソーシャルゲームを始め、『怪盗ロワイヤル』などの人気ゲームを生んでいる。2010年に入ってからは段階的にパートナー企業のソーシャルゲームを公開してきたが、3月からはオープン化によって参加枠の限定がなくなり、法人であればどこでも参加できるようになったのだ。
モバゲーのプラットフォームとしての特徴は、課金システムの整備とマネタイズ支援にある。モバゲーでは自社開発のゲームで既にユーザー課金を行ってきたノウハウがある。別の見方をすれば、ユーザー側が「課金慣れ」をしていることも強みとなる。
課金システムというと、「携帯キャリア決済やクレジットカードなどの支払い手段の整備で終わる」と思われるかもしれない。しかし、「最初は無料で始めたゲームに対して、財布のひもをゆるめる」というユーザー行動にいかにマッチさせるかという、サービス運営上の課題が残されている。
例えば「モバコイン」という仮想通貨の存在は、課金システムの大きな要素である。仮想通貨の発行は多くのオンラインゲームで行われていることであり、「ゲームプレイをする自分」から「支払いをする自分」に意識を切り替えるのに、よいクッションとなる。何かアクションをするたびに、100円、200円と現金を支払う動作を入れてしまうと、興冷めしてしまうからだ。
独自の仮想通貨の流通・管理には、継続的な運営とノウハウが必要であるため、この仕組みを先行して持っていることは大きな利点となるだろう。外部のコンテンツプロバイダーでも、3割のレベニューシェアをDeNAに支払うことで、モバコインを通じた課金システムを利用することができる。
そのほか、アフィリエイト(成果報酬型)やクリック単価型の各種広告プログラムなど、コンテンツプロバイダーのマネタイズ支援に力を入れている。面白いところでは、アバターアイテムを制作して販売する仕組みがある。ゲームアプリに連動したアイテムを制作すれば、モバゲー本体のSNSアバターに表示することができ、さらには有料販売することができる予定だ。ゲームで手に入れたアイテムをSNSの友人に見せびらかすこともでき、日記やランキング以外での新たな口コミ効果も期待される。
DeNAは自身もゲームを制作運営していることから、ユーザー課金を念頭においたゲームのマネタイズに力を置いている。42社の101タイトルが稼働しているが(2月10日現在)、上位アプリは公開数日から2週間で売り上げが1日100万円を超えるという。「モバゲーオープンプラットフォームの強みは、『ゲームに特化』『強力なマネタイズ』『オープンな戦略』です。間口を広く敷居を低くし、多くの企業に参加いただけるよう進めていく予定です」(DeNA広報)
SNSはメディアなのか、ゲームのプラットフォームなのか。ページビューを稼いで広告収入を得るのか、ユーザー課金を突き詰めるのか。SNSが自身をどのように位置付けるかによって、分業形態も変わってくるだろう。
国内ではmixiに続いてモバゲータウンやGREEなど、SNSのオープン化が進んでいる。このまま発展していけば、SNS各社の戦略によって異なるソーシャルゲームが提示されるだろう。ソーシャルゲームとひとくくりにするのではなく、個々のビジネスのデザインに注目していきたい。
野島美保(のじま・みほ)
成蹊大学経済学部准教授。専門は経営情報論。1995年に東京大学経済学部卒業後、監査法人勤務を経て、東京大学大学院経済学研究科に進学。Webサービスの萌芽期にあたる院生時代、EC研究をするかたわら、夜間はオンラインゲーム世界に住みこみ、研究室の床で寝袋生活をおくる。ゲーム廃人と言われたので、あくまで研究をしているふりをするため、ゲームビジネス研究を始めるも、今ではこちらが本業となり、オンラインゲームや仮想世界など、最先端のEビジネスを論じている。しかし、論文を書く前にいちいちゲームをするので、執筆が遅くなるのが難点。著書に『人はなぜ形のないものを買うのか 仮想世界のビジネスモデル』(NTT出版)。
公式Webサイト:Nojima's Web site
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