「ITmedia Gamez」は2011年3月31日をもって終了しました。今後のゲーム情報については、「ITmedia ガジェット」をご活用頂ければ幸いです。



news082.jpg

CEDEC 2010:作家の視点でゲームの、そして人間の重力感を俯瞰する――瀬名秀明氏基調講演

「CEDEC 2010」2日目の基調講演には、作家の瀬名秀明氏が登場。重力がゲームに影響を与え、ゲームは重力に影響を与えているのか? 瀬名氏が“視点”の置きどころで解説する。

wk_100901sena01.jpg

 コンピュータエンターテインメント協会(CESA)が8月31日〜9月2日の期間、パシフィコ横浜で開催している日本最大のゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC 2010」(CESAデベロッパーズカンファレンス 2010)の2日目、基調講演に作家の瀬名秀明氏が登壇した。瀬名氏の講演のタイトルは、「ゲームの知能と小説の感覚 ヒトの宇宙の究極(?)問題を考える」。人間の常識力を培う要素として重力の存在をフィーチャーし、“重力”が関わるゲームから、徐々にヒトが3次元において考え方が異なるようになると展開。自身の経験を織り交ぜながら、今後のゲーム作りへのヒントを瀬名氏ならでは“視点”で提案してみせた。


wk_100901sena02.jpg この画面はなにかの事故で偶然映されただけと会場を沸かせる

 今回の基調講演に設定された時間は80分。まず瀬名氏のデビュー作であり、後にゲーム化もされる「パラサイト・イヴ」シリーズの第3弾となるPSP向けソフト「The 3rd Birthday」の最新画像が“事故”で映し出される。せっかくCEDECでの講演ということで、瀬名氏ならではのサービスだろう。

 瀬名氏は東北大学大学院在学中に「パラサイト・イヴ」で作家デビューし、SFおよびホラー関連の著書をいくつも持っている。瀬名氏はこれから述べることが作家としての“妄想”と断りを入れたのちに、まずは「宇宙を統べる4つの力」(重力、電磁力、強い力、弱い力)について説明した。その中でも重力に注目し、重力感と知能ゲームは無関係かを証明しようとする。

 よくよく考えてみれば、重力に関係する遊びやゲームはいくつも存在する。パチンコやだるま落とし、将棋崩しなどは重力がなければ存在しない。テレビゲームにしても、重力の存在を感じさせるタイトルは挙げたらきりがない。瀬名氏は、自分たちの日常生活は、重力との格闘の歴史だと、何人もの人間に挫折感を植え付けたであろう「逆上がり」を例に挙げる。逆上がりからは、自分の重心をどう移動させるかを学んだはずだ。重心移動をコントロールする術を得た者は、スポーツの世界で名をはせる。また瀬名氏は、Mr.マリックの受け売りと、人体浮遊術がマジックとして確立していくまでの成り立ちを紐解いて説明した。

wk_100901sena03.jpgwk_100901sena04.jpgwk_100901sena05.jpg

 かくして、人は日常の経験から重力の影響を知らず知らずに受け、そして常識として培っていく。例えばボールを投げると放物線を描いて飛ぶし、いずれ落ちてくることから予想して避けることも、グラブでキャッチすることもできるようになる。物理法則を学ぶまでもなく、目に見えないながら重力は我々の常識として身に、そして心に染みこんでいるのだ。

 ここで話は心の問題に飛躍。人間らしいとはどういうことなのかに話が及ぶ。引き合いに出したのは、瀬名氏も影響を受けた、スタンリー・キューブリックの映画「2001年宇宙の旅」に登場する人工知能HAL(ハル)9000型コンピュータである。人類の進化とHALが宇宙船そのものという恐怖、そして人間とは何なのかが描かれている。瀬名氏は人工知能が人口知能たらしめるものは何なのかを「デカルトの密室」(新潮社/2005年)にしたためている。

wk_100901sena06.jpgwk_100901sena07.jpg 瀬名氏はいくつもの例を挙げて、人と重力の関係を提示する。エリザベートによるデカルトへの手紙については、心と体の関係にまで言及

 会場で瀬名氏は、「デカルトの密室」の中にある逆チューリングテスト(判定員とのテキストでの質疑の結果から、人間らしさをはかるチューリングテストの逆バージョンで瀬名氏の造語)を実際にやってみることにした。作中の会話を例に、誰がもっとも機械らしいかを一緒に推測しようという試みである。瀬名氏もよくできたと自画自賛するプロットだとか。

wk_100901sena08.jpgwk_100901sena09.jpgwk_100901sena10.jpg

wk_100901sena11.jpgwk_100901sena12.jpgwk_100901sena13.jpg 「いい天気だね」「どんな本を読む?」「僕もSFを読むよ。ロボットものって?」「70764+34957=?」などの質問に対しての3つの解答から、一番機械っぽいものを当てる。答えはぜひ小説を購入して見てほしいと、ちゃっかり宣伝する瀬名氏

 この逆チューニングテストから導き出せるのは、「人間らしい知能は、間違えるようなこともある」ということ。それがインテリジェンスというものではないかと瀬名氏。そして話はまた重力を絡めてくる。「2次元上と3次元上では、思考のあり方も違うのではないか?」と。

 瀬名氏は取材も兼ねて航空機の操縦免許を取得し、国内外で飛んでいると各地でのフライトの様子をスクリーンで紹介。自身の経験からも空を飛ぶと、人間の知能は半減すると断言する。また、サン=テグジュペリの「人間の大地」第4章「飛行機と地球」から参照した「飛行機は一個の機械にはちがいないが、しかしなんという分析の道具だろう」「飛行機とともに、わたしたちは直線を知った」という言葉を紹介し、“視点の違い”で見え方も感じ方も変化すると説明する。

wk_100901sena14.jpgwk_100901sena15.jpgwk_100901sena16.jpg 地面でまっすぐな道を進んでいるつもりでも、空から見れば高低差もありまっすぐに進むことは難しいものだが、空ではさえぎるものがないので実質まっすぐ進むことが可能だ。また、空から見ると地上からとは違って見えることを気づかせると瀬名氏

wk_100901sena17.jpgwk_100901sena18.jpgwk_100901sena19.jpg 視点の違いの例はまだある。重力の常識から抜け出した宇宙では、物体を“取って”ではなく“押して”渡す。動詞まで変化するというわけだ

wk_100901sena20.jpgwk_100901sena21.jpgwk_100901sena22.jpg 「共感とは重力感の重ね合わさりかもしれない」と、ミラーニューロン仮説で重力感を再構築できないかと考えた瀬名氏は、「小説の重力感」を解説。他者との「境界」とそれに伴う「違和感」の可能性を示す

 近年の人間の歴史は、重力というくびきから逃れようとした積み重ねでもある。自由になるために人間は空を目指した。そして、これからどう「重力感」をデザインするかで未来で“常識”は変化するかもしれない。人間が経験や視点から得た“重力”の常識を元に行動しているのであれば、アニメや映画、ゲームで感じる重力の表現や映像を繰り返し体験することで、未来での重力感は今のものとは異なるものになっているのではないかと。

 「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のマーティとドクの会話のように、未来では本当に重力の定義が変わっているかもしれない。瀬名氏は集まっていたゲーム開発関係者に、視覚的ゲームの行きつく先で、しっかりと重力をデザインできているかを忘れないでほしいと示唆するのだった。

wk_100901sena23.jpgwk_100901sena24.jpgwk_100901sena25.jpg


Copyright© 2017 ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

-PR-Game Shopping