「閉鎖的」「分断」などの言葉で形容されることも多いモバイル業界。モバイル分野への進出を目指すPC/インターネット企業の多くが、業界団体を組んで、この市場の扉を開けようと試みている。米Adobe Systemsもその1社で、同社は2008年Open Screen Projectを設立し、携帯電話におけるFlash技術の普及を目標に掲げ、モバイル市場でのエコシステムの確立に乗り出した。
スペイン・バルセロナで開催された「Mobile World Congress 2009」で、Adobeのプラットフォーム技術担当ディレクターのブライアント・メイシー(Bryant Macy)氏、プラットフォーム担当プロダクト管理ディレクターのジーク・コッホ(Zeke Koch)氏に、Open Screen Projectとモバイル戦略について話を聞いた。
―― Adobeが掲げる携帯電話市場向けの戦略について教えてください。
メイシー氏 Adobeは数年前からFlash Liteでモバイルへの進出を図っており、順調に拡大してきました。Flash Lite搭載端末は、この6月には10億台に到達する見込みで、当初の予定より1〜2年早い進捗です。
コッホ氏 最近のトレンドとして、フルブラウザへの高いニーズがあります。モバイル向けWebブラウザの機能も改善されており、デスクトップPC向けと同じFlash Playerを提供できる地点に達したと感じています。
そこでAdobeでは現在、Windows、Mac、Linuxの各デスクトップ環境向けにFlashを構築した開発チームが、スマートフォン向けFlashの開発を進めています。
この1月に日本で開催した「Adobe MAX Japan 2009」では、S60やWindows Mobile、Androidで動くFlash Playerのデモを行いました。2010年にはフルFlash機能を備えた携帯電話が登場すると見ています。
―― Open Screen Projectについて教えてください。
メイシー氏 携帯電話や家電のメーカーにFlash Liteを無料でライセンスし、メーカーが自社端末に自由に統合できるようにするものです。従来のAdobeのビジネスモデルを変更し、プロトコルをオープンにする代わりに、デバイス上の技術を検証します。当初はモバイルに注力し、多くの携帯電話でFlashコンテンツを利用できるようにします。
Open Screen Projectには現在、Nokia、Samsung、LG Electronics、Sony Ericssonなどの主要端末ベンダーやNTTドコモ、Verizon Wirelessなどの通信キャリア、MTVなどのコンテンツプロバイダーといった20社以上が参加しています。参加を希望している企業は、200社以上にのぼります。
―― Open Screen Projectを設立した狙いは?
コッホ氏 携帯市場でわれわれが課題と感じている、異なるバージョンのFlashプレーヤーが混在することによる分断化の問題に対応するためです。
日本では、2003年にNTTドコモが携帯電話へのFlash Liteの搭載を開始し、成功させました。この成功は、ドコモが端末メーカーに同じバージョンのFlash Liteの搭載を義務付け、コンテンツプロバイダが幅広い端末向けにコンテンツを提供できたことが理由です。
一方、ドコモのように端末メーカーに対して強い立場にあるオペレータが存在しない地域では、分断化の問題があります。一部の端末は古いバージョン、一部の端末は新バージョンのランタイムを搭載していることから、一貫性のある機能や操作性を提供できないという事態が生じているのです。これはアプリケーションを開発する側にとって悲劇的な状況です。
そこで、Adobeが主導して業界団体を立ち上げ、日本型エコシステムの成功を世界に拡大するようなプロセスを提供することにしたわけです。
デスクトップインターネットの世界で私たちが成功した背景には、ブラウザプラグインによるアップデートがあります。新しいプラグインをリリースすると、3カ月で80%が最新版にアップグレードされ、6カ月〜9カ月でその比率は90〜98%に達します。開発者が新たな機能を利用するのは、その機能の普及率が80%に達した地点です。つまり、最新の機能をスピーディに広げることは戦略的に重要です。
実際、Open Screen Projectの参加者からの要求として、プラグインによるソフトウェアアップデートに対応してほしいという意見が出ています。
このプロジェクトで、複雑なモバイル業界のエコシステムを変えることを狙っています。
MWCの会期中、Flash Lite Distributable Playerを発表しましたが、これも同じ問題に取り組むものです。Flash Liteをアプリケーションの一部として配信することで、携帯電話が利用するランタイムが最新のものかをチェックし、最新のものでない場合はダウンロードします。これにより、最新機能を確実に利用できるようにします。
米国、英国など一部の市場でS60とWindows Mobile向けのβ版の提供を開始しました。2009年後半には、ワールドワイドで提供を開始する予定です。
メイシー氏 もう1つの背景がモバイルインターネットです。モバイルには性能の問題があり、Open Screen Projectではハードウェアメーカーとともにこの問題に対応します。
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