きらめく萌えの背後に隠された質実剛健さを読み取れ「シャイニング・ウィンド」レビュー(2/2 ページ)

» 2007年05月28日 18時54分 公開
[水野隆志,ITmedia]
前のページへ 1|2       

アクションRPGとして見た場合の絶妙のリズム感

画像 戦闘は、本拠地にある作戦会議室に入り、作戦会議を経ることで始まる。いったん会議室に入っても、まだ速いと思えば戻ってくることが可能

 「シャイニング・ウィンド」をプレイした時、おそらく最初に感じるのは、テンポの良さだろう。とにかくサクサクとステージが進んでいくのだ。ゲームは冒険モードと呼ばれると戦闘に分かれており、冒険モードで買い物や会話イベントを行い、戦闘をクリアすることでストーリーが進むという形式になっている。戦闘をいくつかクリアすると、フェイズ(「シャイニング・ウィンド」における章)が終了するのだが、プレイヤーが寄り道をしない限り、クリアまで1時間かかるフェイズはほとんどない。さすがに最終フェイズは長めだが、序盤のフェイズは短めで、話の展開も速い。

 このテンポがいいということ、これが「シャイニング・ウィンド」の面白さを支える第2の理由だ。第1の理由である“明確な企画意図とそれに合致した手法”にこの第2の理由が加わることで、「シャイニング・ウィンド」は、萌え志向のユーザーでも遊べ、それ以外のユーザーでも遊べるゲームとしての面白さを持ち合わせているのである。

 テンポの良さはゲームでは極めて重要だが、それをカタチにするのはかなり難しい。コンピュータゲームは数字でできているから、強くしたり弱くしたするのは簡単にできる。だが、プレイヤーのやりごたえ、という点になると、数字で表現できないため、人間の感性が勝負になる。負け続けることによるストレスと安易に勝つことによるダレの双方を回避し、しかも先をやりたい、と思わせる。これが本当に難しい。快適なリズム感を出すためにはユーザーインタフェース、コマンドの配列、画面レイアウトなどのデザイン面など、ゲームシステムと無関係のところも神経を使わなければならない。ゲームのディレクターは、創造性はもちろんのこと、こうした全般に関する調整力を求められる。この調整は本当にシビアで根気がいる。


画像 ワールドマップに“!”のマークがあれば、そこに行けば必須イベントが発生する。逆に行くまでは発生しないので、わざと寄り道してキャラを鍛えてもいい

 「シャイニング・ウィンド」は、このバランスが素晴らしい。ゲームを進めていると、これといったチュートリアルもないのに、次に何をすればいいのかわからなくなることがない。仮に迷った場合は、仲間に話しかければOK。ストーリーを進めるための必須イベントが発生している場合は、また、ワールドマップにそのマークが表示される。この2つの方法さえ抑えておけば、詰まることはないだろう。

 唯一惜しむらくはマニュアル。これがもっと良ければ、ゲームの遊びやすさはさらに上がったはずだ。特に“ソウルピース”に関する個所は、マニュアルの説明不足が目立つ。システムの中でも大きな要素を持つため、これは正直つらかった。ただ、さすがに中盤あたりまでプレイしていれば、おぼろげながらも何となくわかってくるので致命傷にはなっていない。そして、もっとも肝心なテンポは最後まで落ちない。これは実に見事だ。


画像 パーティメンバーはレベルアップすることで筋力、知力など4種類の能力値と、固有の攻撃スキルを向上させることができる。何をどれだけ上げるかは任意で決められる

 さらに成長感覚もいい。RPGを作る場合、1レベル上がった時の達成度は非常に重要だ。ユーザーを満足させる一方で適度な不足感を覚えさせないといけない。満足度が低いとやる気が減退するし、強くなりすぎるとゲームが簡単になってやはりやる気が下がる。「シャイニング・ウィンド」をプレイしていて思うのは、このあたりの上手さだ。レベルアップすると成長ポイントが獲得でき、これをプレイヤーが任意で分配してキャラクターを強化するのだが、プレイヤーの裁量権を認めるとバランス調整はより難しくなってくる。伝統あるシリーズとはいえ、こういう基本的な部分がしっかりしていないと、ゲームは絶対に面白くならない。それをさらっと当たり前のようにクリアしているところが凄いのだ。

 リズム感や成長感といったプレイ感覚に関わる部分をきちんと構築しているゲームに駄作はない。好みが分かれることはあっても、出来自体は悪くないのだ。「シャイニング・ウィンド」は、まさにそうした作品といえよう。

低めの難易度の中でいかに戦術にこだわるか

 RPGでは、ゲーム時間の大半が戦闘に費やされる。そのため、戦闘システムの出来がゲーム全体の印象を大きく左右する。「シャイニング・ウィンド」は、繰り返し述べたように難易度が低いゲームだ。これはライトユーザーを意識した結果だろう。この場合、問題となるのは戦闘システムとの関係だ。難易度が低いということは、システムにこだわらずともクリアできるということを意味する。簡単なゲーム=底が浅いと思われがちなのは、このことを関係している。「シャイニング・ウィンド」はどうだろうか。

画像 時間、倒した敵の数、連続攻撃数などの要素により、クリア時の評価が決まる。総合評価である勲章は、プラチナ、ゴールド、シルバー、ブロンズ、アイアンの5段階

 ここでも、職人芸が光っている。戦闘の難易度は低めに設定しながら、戦術性を意識する意味を兼ね備えているのだ。誰でもクリアできるが、戦術を意識すれば、より速く、いい成績でクリアできる。そうすれば、獲得経験値も増えるので、成長も速くなる。レベルを上げずにどこまで進められるか、といった遊び方も可能になってくる。つまり、戦術性への熟練を時間の短縮へと繋げているのだ。

 無論、速く解くことがエライわけじゃない。ゲームは自分のペースで楽しめばいいのだから。大切なのは、速く解くことも可能、ということ。十分にレベルを上げ、装備を整えてから戦うべき相手を低レベルで倒せるか。純粋に数字がモノを言う普通のRPGでは難しいが、プレイヤーの操作が加わるアクションRPGでは不可能ではない。やり込み派のプレイヤーによっては大きな魅力の1つだ。難易度を低めにしながら、こうした点をフォローしているあたりが見事である。

画像 パートナーになるキャラクターはストーリーが進むにつれて増えていく。画面下に見える“絆”はエンディングに関係してくる

 戦術性と密接な関係を持つのが、多彩なパートナーキャラと属性だ。このゲームの戦闘は、味方2名と多数の敵軍という構成で行われる。味方は主人公であるキリヤと、任意のパートナーキャラ1名。パートナーキャラは普段はCPUが動かしてくれるが、コントローラをもう1つ繋げれば、2Pモードで操作もできる。低レベルクリアを目指す時など、友達との協力プレイは特に有効だろう。

 パートナーキャラには、大別して自分で戦えるキャラと、キリヤを支援するタイプに分かれる。アンデッドに強い、浮遊しているキャラに強いなど、特性を持つ者もいる。戦闘に臨む際は、先にステージの情報を確認して、どんな敵がいるかを見ておくと、相性のいいパートナーを選びやすい。すでにクリアしたステージを再プレイして経験値やアイテムを補充できる“夢幻の鏡”モードでは、1Pだけでもキリヤ以外のキャラクターを操作することができるので、ここでパートナーキャラの特徴を把握しておけば、さらに的確な起用ができるだろう。

 属性は火炎や雷撃など、特殊な攻撃に対する耐性で、防具の選択において重要になる。防御値は低くても属性防御に長けている鎧があるので、ステージによっては装備を変えて臨むのもいい。こうした手間はかければかけるほど、キャラを強化してくれる。レベルを上げていけば、それでゴリ押しすることもできるが、こうした工夫を重ねてスピードクリアを狙うと、ひと味違ったゲームが楽しめる。

画像 ステージの情報を見れば、勝利や敗北の条件、どんな敵が待ち構えているかがわかる。敵のタイプは特に重要だ
画像 属性の影響は無視できない。敵から大ダメージを受けた場合は、苦手属性を攻撃されている可能性が高いので、ステータスを要確認

 こうしたシステム上の諸点を見ていくと、キャラクターゲームへの深化、萌え路線の強化といった趣向を意図しながらも、底辺にはしっかりしたゲーム性が築かれていることがわかってくる。萌えの衣の下に質実剛健なゲーム性が潜んでいるわけだ。前面に出ている萌えにときめくか、隠されたゲーム性を極めるか。明確な対象を持ちながら、それ以外のユーザーも受けて入れてしまう懐の広さ。そこを見落として「シャイニング・ウィンド」を評価するのは正当とは言えないだろう。

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2405/01/news077.jpg ミュージカル『ディズニー くまのプーさん』、舞台が見えづらいとの指摘に謝罪 「視認性の改善を講じる」
  2. /nl/articles/2404/30/news015.jpg 【今日の計算】「500×99」を計算せよ
  3. /nl/articles/2404/30/news156.jpg 「葬送のフリーレン」の勇者一行、ネモフィラ畑に現る 名場面にちなんだコスプレが「これを花畑を出す魔法か」と23万いいね
  4. /nl/articles/2402/21/news158.jpg 業務スーパーの“高コスパ”人気冷凍商品に「基準値超え添加物」 約1万5000個販売……自主回収を実施
  5. /nl/articles/2405/01/news092.jpg “スケスケ成人式コーデ”が物議のモデル、「3度見される服」を披露 「コレは見ちゃうわ」「洗っても大丈夫なのか」の声
  6. /nl/articles/2405/01/news095.jpg 秋元康、AKB48卒業の柏木由紀に送った手紙が物議 “冒頭の一文”に「昭和丸出し」「嫌すぎる」
  7. /nl/articles/2405/01/news014.jpg 1歳娘、ちょっと目を離したら衝撃の光景が……! リアル過ぎるワンオペ現場が190万再生「わかりみすごすぎです」
  8. /nl/articles/2404/29/news009.jpg 天井裏から変な音がする→スマホを突っ込んで撮影したら…… 映った“とんでもねぇ”モノに「恐ろしい」「何これ」と騒然の196万表示!
  9. /nl/articles/2403/21/news104.jpg 「ふざけんな」 宿泊施設に「キャンセル料金を払わなくする方法」が物議 宿泊施設「大目に見てきたが厳格化する」
  10. /nl/articles/2405/01/news011.jpg 息子「あしたから下敷きいるって」母「ええやつあるで(ドヤ」 母の愛がつまった手作り下敷きに「なにこれめっちゃほしい!」と注目集まる
先週の総合アクセスTOP10
  1. 釣りに行こうとしたら、海岸に子猫が打ち上げられていて…… 保護後、予想だにしない展開に「神様降臨」「涙が止まりません」
  2. 身長174センチの女性アイドルに「ここは女性専用車両です!!!」 電車内で突如怒られ「声か、、、」と嘆き 「理不尽すぎる」と反響の声
  3. しぶとい雑草“ドクダミ”を生やさない超簡単な方法が115万再生! 除草剤を使わない画期的な対策に「スゴイ発見」
  4. 天井裏から変な音がする→スマホを突っ込んで撮影したら…… 映った“とんでもねぇ”モノに「恐ろしい」「何これ」と騒然の196万表示!
  5. 小1娘、ペンギンの卵を楽しみに育ててみたら…… 期待を裏切る生き物の爆誕に「声出して笑ってしまったw」「反応がめちゃくちゃ可愛い」
  6. 誰も教えてくれなかった“裁縫の裏ワザ”が目からウロコ 200万再生のライフハックに「画期的」と称賛【海外】
  7. 「電車の中で見ちゃダメ」「笑ったww」 実家からLINE「子ヤギがすばしっこくて捕まらない」→送られてきた衝撃姿が320万表示!
  8. 顔の半分は童顔メイク、もう半分の仕上がりに驚がく 同一人物と思えない半顔メイクが860万再生「凄いねメイクの力」
  9. 元「AKB48」メンバー、整形に250万円の近影に驚きの声「整形しすぎてて原型なくなっててびびった」
  10. スーパーで買ったレモンの種が1年後…… まさかの結果が635万再生「さっそくやってみます」「すごーい!」「手品みたい」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 庭に植えて大後悔した“悪魔の木”を自称ポンコツ主婦が伐採したら…… 恐怖のラストに「ゾッとした」「驚愕すぎて笑っちゃいましたw」
  2. 小1娘、ペンギンの卵を楽しみに育ててみたら…… 期待を裏切る生き物の爆誕に「声出して笑ってしまったw」「反応がめちゃくちゃ可愛い」
  3. 生後2カ月の赤ちゃんにママが話しかけると、次の瞬間かわいすぎる反応が! 「天使」「なんか泣けてきた」と癒やされた人続出
  4. 「歩行も困難…言動もままならず」黒沢年雄、妻・街田リーヌの病状明かす 介護施設入所も「急激に壊れていく…」
  5. 車検に出した軽トラの荷台に乗っていた生後3日の子猫、保護して育てた3年後…… 驚きの現在に大反響「天使が女神に」「目眩が」
  6. 「虎に翼」、新キャラの俳優に注目が集まる 「綺麗な人だね」「まさか日本のドラマでお目にかかれるとは!」
  7. 釣りに行こうとしたら、海岸に子猫が打ち上げられていて…… 保護後、予想だにしない展開に「神様降臨」「涙が止まりません」
  8. 身長174センチの女性アイドルに「ここは女性専用車両です!!!」 電車内で突如怒られ「声か、、、」と嘆き 「理不尽すぎる」と反響の声
  9. 築152年の古民家にある、ジャングル化した水路を掃除したら…… 現れた驚きの光景に「腰が抜けました」「ビックリ!」「先代の方々が」
  10. 「葬送のフリーレン」ユーベルのコスプレがまるで実写版 「ジト目が完璧」と27万いいねの好評