縦持ちプレイで“ミステリーを読む”感覚でプレイできるアドベンチャー「アナタヲユルサナイ」レビュー(2/2 ページ)

» 2007年11月29日 12時46分 公開
[立花裕壱,ITmedia]
前のページへ 1|2       

人情味あふれる理々子の魅力

 探偵アドベンチャーといっても、トリックを見破り犯人を追いつめていく謎解きタイプではなく、事件によって揺れ動くさまざまな人物の心を丁寧に描くドラマタイプに仕上がっている。

 探偵事務所の仲間たちは個性的だが、人間として温かく、次第に絆が強まっていく様子に惹きつけられる。「依頼人に証拠を渡したら仕事はおしまいなんだよ。私情を挟むなよ」という夫・草薙のように探偵を仕事と割り切れない理々子。正体を偽って麻薬捜査官になりすまし、ターゲットと接触するなど、なりふり構わない強引ぶりだ。それもこれも依頼者になんとか喜んでもらいたいから。理々子の優しさが、本作の温かみにつながっている。

 そしてその理々子を「相変わらず、ムチャするねえ」と冷静に支えるのがパートナーの木崎ユウジ。調査員としての仕事ぶりも的確、しかも感情の振り幅が激しい理々子をときに叱ったり慰めたりして落ち着かせる。右耳にゲイの証のピアスが光るユウジと、旦那に逃げられた理々子は、親友ともまた違う独特の新しい関係を見せてくれる。

 名作探偵アドベンチャーには、「探偵・神宮寺三郎」シリーズの神宮寺三郎と御苑洋子、「ミッシングパーツ」の真神恭介と白石哲平のような名コンビがつきものだ。この2人もその仲間入りをしたのではないだろうか。

 中盤からは、「不肖坂本。一所懸命の覚悟でお手伝いさせていただきます」と、坊主頭に背広の強烈キャラ、坂本くんも事務所のメンバーになる。あくの強い性格だが、うまくシナリオに絡み、笑いのエッセンスとして効いている。

 実は、第1章はテンポがややスローで、ちょっと退屈と感じるかもしれない。しかしこれは計算だろう。章を追うごとに事件は複雑化し、息をもつかせぬ展開になる。最終章では理々子も命がけの戦いに巻き込まれる。

 ゆっくりと立ち上がり、加速度を増していくストーリーに、いつしかのめり込んでしまう。とても練られた構成だ。

画像 理々子の父、竹内武雄。元は捜査一課の敏腕刑事だったが、辞職して竹内探偵事務所を設立した。ゴルフが趣味でかつてはシングルの腕前だった
画像 理々子の夫、草薙学。調査員をまとめる立場にいる。仕事に関してはリアリスト。理々子とは仕事のやり方を巡ってケンカが絶えない
画像 冷静沈着で優秀な理々子のパートナー、木崎ユウジ。理々子の性格を把握し、手綱を取る。絵本作家になるのが夢という乙女な一面も

尾行に盗撮、盗聴……探偵としての調査

 選択肢での分岐も少なく、プレイの基本は文章を読んでいくこと。会話パートでは、先ほども書いたとおり、相手の全身をアナログパッドを使って観察できる。怪しい部分はクローズアップされ、「Talk」アイコンが出れば、観察した結果を踏まえて話題を振ることもできる。たとえば、左手の薬指に光るダイヤの指輪に目を留めて「すてきな結婚指輪ですね」と話しかけると「まあ、あの人にしてはがんばったほうよね」と、結婚について話が発展していくという具合だ。

 その人を疑うか、信じるか。「Talk」は選択肢代わりにもなり、選び方によってはバッドエンドになってしまう。どこに注目するかが重要だ。

 会話以外では、調査中にちょっとしたミニゲームも発生する。たとえばアナログパッドでターゲットに見つからないようについていく「尾行」。口紅に仕込んだカメラでターゲットの写真をうまく撮る「撮影」などなど。探偵の雰囲気を盛り上げてくれる。

 また、各事件の要所では、誰を調査するべきか、誰が事件の真相を知っているか、といった二択の選択を迫られることもある。ここできちんと推理して正しい答えを選ばないとやはりバッドエンドに。とはいえ、バッドエンドも面白いものが多く、探してコンプリートするのも楽しみのひとつだ。わざと変なところに注目したり、間違った選択をしたりしてみよう。

画像 複数のターゲットを平行して調査するとき、理々子がどちらを直接担当するか選ぶ場面も出てくる。物語の展開も多少変わる
画像 口紅に仕込んだ小型カメラで密会の場面を撮影。2人の顔がうまく移るよう、アナログパッドを動かして激写する
画像 余計な場所をチェックすると逆鱗に触れてバッドエンドを迎えるかも? バッドエンドは「達成率」として蓄積される

ゲーム性は薄いが読ませるシナリオ

 本作をゲームとして見ると、評価は辛くなってしまうかもしれない。やり込み要素も薄く、「結局コマンドの総当たりで済む」という意見もあるだろう。しかし、これをPSPで読む&見る探偵ドラマとして考えれば文句のつけようがない。BGMはシーンごとにピッタリで、特に緊迫した場面では手に汗握る。所長はどこに消えてしまったのか? 夫の草薙が別れを切り出した理由とは? 理々子と事務所のメンバーを次々とピンチが襲い、そしてクライマックスには……。

 最終章はかなりハードだが、それでも全般的には温かい空気に包まれている。理々子とユウジの、お互いを信頼しあっているやり取りが、なんだかほっとさせてくれるのだ。新たに誕生した理々子とユウジの異色探偵コンビ。次回作でも活躍を期待したいところだ。

関連キーワード

PSP | AQインタラクティブ


前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2405/07/news109.jpg 「ロッチ」中岡、顔にたっぷり肉を蓄えた激変ショットに驚きの声 「これ…ヤバいって」「すごい変身っぷり」
  2. /nl/articles/2208/06/news075.jpg 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  3. /nl/articles/2405/06/news040.jpg 「東京チカラめし」約2年ぶりに東京で“復活” まさかの出店場所に驚き「脳がフリーズしそうに」
  4. /nl/articles/2405/03/news025.jpg 「今までなんで使わなかったのか」 ワークマンの「アルミ帽子」が暑さ対策に最強だった 「めっちゃ涼しー」
  5. /nl/articles/1611/04/news117.jpg 「ヒルナンデス!」で道を教えてくれた男性が「丁(てい)字路」と発言 出演者が笑う一幕にネットで批判続出
  6. /nl/articles/2405/07/news114.jpg 大谷翔平がエスコート 真美子さん「ドジャース奥様会」に再び登場で頭ひとつ抜き出る
  7. /nl/articles/2405/08/news030.jpg 「新紙幣出てきたんだけど」 レジで“千円札”見た若者がポツリ→まさかの正体にショック広がる 「そうだよねえぇ」
  8. /nl/articles/2405/07/news043.jpg 16歳お姉ちゃんと0歳弟、赤ちゃんが泣くとすぐに抱っこして…… 愛をそそぐ姿に「愛しさ溢れてて号泣」「いいね1万回押したい」
  9. /nl/articles/2405/05/news018.jpg 地元民向け“バリカタ仕様”の袋麺だと思ったら……思わぬ落とし穴に「トラップ仕掛けられてる」「自分も引っかかった」
  10. /nl/articles/2405/06/news001.jpg 川をせき止めるほどのゴミ→ボランティアがを徹底的に掃除したら…… 見違える変化に驚き
先週の総合アクセスTOP10
先月の総合アクセスTOP10
  1. 庭に植えて大後悔した“悪魔の木”を自称ポンコツ主婦が伐採したら…… 恐怖のラストに「ゾッとした」「驚愕すぎて笑っちゃいましたw」
  2. 小1娘、ペンギンの卵を楽しみに育ててみたら…… 期待を裏切る生き物の爆誕に「声出して笑ってしまったw」「反応がめちゃくちゃ可愛い」
  3. 生後2カ月の赤ちゃんにママが話しかけると、次の瞬間かわいすぎる反応が! 「天使」「なんか泣けてきた」と癒やされた人続出
  4. 「歩行も困難…言動もままならず」黒沢年雄、妻・街田リーヌの病状明かす 介護施設入所も「急激に壊れていく…」
  5. 車検に出した軽トラの荷台に乗っていた生後3日の子猫、保護して育てた3年後…… 驚きの現在に大反響「天使が女神に」「目眩が」
  6. 「虎に翼」、新キャラの俳優に注目が集まる 「綺麗な人だね」「まさか日本のドラマでお目にかかれるとは!」
  7. 釣りに行こうとしたら、海岸に子猫が打ち上げられていて…… 保護後、予想だにしない展開に「神様降臨」「涙が止まりません」
  8. 身長174センチの女性アイドルに「ここは女性専用車両です!!!」 電車内で突如怒られ「声か、、、」と嘆き 「理不尽すぎる」と反響の声
  9. 築152年の古民家にある、ジャングル化した水路を掃除したら…… 現れた驚きの光景に「腰が抜けました」「ビックリ!」「先代の方々が」
  10. 「葬送のフリーレン」ユーベルのコスプレがまるで実写版 「ジト目が完璧」と27万いいねの好評