宇宙世紀を振り返り、直感的なマップで作られる新「ガンダムシミュレーション」:「エンブレム オブ ガンダム」プレイリポート&インタビュー(1/5 ページ)
本作は、全く新しいアプローチでガンダムを題材にしたシミュレーションゲームだ。歴史家の視点、プロヴィンスマップ、バトンでつなぐ物語……さまざまな試みが盛り込まれたタイトルをプレイし、かつ、開発者である芝村裕吏氏に話を聞いてきたりもした。プレイのご報告とインタビューが織り成すハーモニーをどうぞ。
第3の「ガンダムシミュレーションゲーム」――「エンブレム オブ ガンダム」ができるまで
バンダイナムコゲームスの「エンブレム オブ ガンダム」は、「機動戦士ガンダム」シリーズを題材にしたドラマチック・シミュレーション。テキストによるシナリオデモとモビルスーツなどを駆使したシミュレーションパートが楽しめる、新機軸の“ガンダム”ゲームだ。
本作の脚本およびゲームデザインは、ベックの芝村裕吏氏が手がけている。芝村氏は「高機動幻想ガンパレード・マーチ」「ガンパレード・オーケストラ」シリーズ、「新世紀エヴァンゲリオン2」「ぷちえう゛ぁ」などの制作に携わってきたゲームデザイナー。数々の作品で独特の世界観や文法を生み出し、注目されているクリエイターである。
今回、筆者は本作をプレイするとともに、芝村氏に話を伺う機会もいただいた。というわけで、実際にプレイしてみてのゲーム内容に触れたリポート部分と、芝村氏から聞いたお話をご紹介するインタビュー部分とに分けて、本作について言及していきたい。まずは、芝村氏が本作を手がけるまでの経緯、企画が具体化していく過程を、芝村氏およびプロデューサーの家弓晋輔氏の話とともにお伝えしよう。
――「エンブレム オブ ガンダム」を作るにあたって、なぜ芝村さんに白羽の矢が立ったんでしょうか。
芝村裕吏氏(以下、敬称略) なぜかと言われれば深い意味はないんですが(笑)、企画の段階で、毛色の違ったゲームを作ろうという時に毛色の違った人が呼ばれる、というのはあるんでしょうね。(ガンダムのゲームとして)毛色の違ったゲームが要求されているんだなとは感じていました。どんなゲームを作ろうか、というところで「SDガンダムGジェネレーション」シリーズや「ギレンの野望」シリーズに対して、第3のビールではないですけど、可能な限りかぶらないものを、というのはありました。
次に、どのユーザーに向けて作りましょうか、という点。一度ガンダムから遠ざかっている人たち、ゲームからも遠ざかっているけどガンダムが好きで、飲み会の時にたまにガンダムネタが出るような人たちと、あとはガンダムの中でも宇宙世紀に詳しくない人たちに向けて作ろうということになりました。
そしてハードの選定ですね。当初から「ニンテンドーDSにしましょう」ということでリサーチをしたんですが、「ニンテンドーDSユーザーはコアゲーマーではない人たちが多い」、また「ゲーマーではないからこれだけ売れた」というような報告が来たんですね。「そんなことを言われても、わたしはゲームデザイナーだしなあ」(笑)と思って、いろいろとシミュレートしてみました。難易度を下げるとソフトが中古屋に売られてしまったり、プレイしないで“棚のこやし”にされてしまう可能性もある。逆にライトな層向けでない、“選ばれた民だけ”(笑)のものなら、ほかの作品でいいわけです。そして結論としては、ハードの売れ行きなどから、あえてニンテンドーDSを外す手はない、ということでニンテンドーDSでの開発が決まりました。
開発開始時点ですので2年以上前の話ですが、その当時、ニンテンドーDS市場を調べたら、雑誌やムックをニンテンドーDS化したものが売れていたんです。そもそも雑誌をゲーム化するってなんだろう? と考えたんですが、あまりにもマーケットがぼやっとしていました。そこで、35歳、こども1人、隠れ“ガノタ”(ガンダムヲタク、ガンダムマニアのこと)、奥さんに隠れてガンプラを買っている、マイカーはヴィッツ、というような具体的なユーザー像を絞りました。そうなると、大人の鑑賞に耐えられるもの、読み物がいいだろう、と。そして小難しいもの、歴史小説の方向がいいだろう、ということになりました。
ではアドベンチャーゲームでいいのか、というとアドベンチャーではダメだ、と。なぜか。世界規模で売れるゲームというのは、“戦争ゲーム”と“レースゲーム”なんです。レースゲームがなぜ売れるのかというと、万国共通で車の性能比較ができるから。それに対して文章によるゲームは、性能比較ができるわけではないし、特徴が分かりづらい。そう考えたときに、分かりやすいアドベンチャーにするのではなく、シミュレーションの方が分かりやすいものになりそうだということになったんです。
歴史家は宇宙世紀をかく語りき――資料は古ければ古いほどよい
芝村氏の言うように、確かに本作はガンダムを扱った他のシミュレーションゲームとは趣きが異なる。
本作は数多くあるガンダム作品の中から「機動戦士ガンダム」から「機動戦士Zガンダム」までの世界、宇宙世紀0079年から0087年までを描いている。上記2作品に加えて「機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争」、「機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY」、「機動戦士ガンダム 第08MS小隊」という3作品も取り扱い、120人以上の人物と130機以上のモビルスーツがゲーム内に登場する。
「ドラマチックシミュレーション」というジャンル付けをされている本作であるが、“ドラマチック”たる部分を担っているのが、シミュレーションパートの前後に見ることができるシナリオデモだ。各キャラのセリフは厳密にそのままだが、時代背景や作戦背景、キャラクター考察に関しては、独自のテキストが展開する。
“ファーストガンダム”直撃世代でありながら、そんなにコアなガンダムファンではない筆者だが、アムロやシャアの名ゼリフが出れば思わずニヤリとしてしまった。印象的な名シーンの再現に懐かしさを感じたりもした。「この戦いの背景には、こういうことがあったとも言われているが、また別のこういう説もある」というようなテキストを読み、「これってこのゲームでの独自の解釈なのかな?」と半信半疑で読み進めることもあった。
宇宙世紀という過去を振り返る歴史家的視点だというのは十分に理解しつつも、筆者自身のファーストやZ(ゼータ)に関する知識が元々あやふやなので「ふうむ、そういうもんだったんだろうか」と、読み物として受け入れつつ、ちょっとした不安があったのだ。その“歴史書”的、“歴史家”的な語り口について、芝村氏から話を聞くことができた。
――本作には、芝村さんらしいテキストが盛り込まれていますね。
芝村 そうですね。“芝村さんらしく”と言われました。最初、原作の口調に似せて書いたんですが、「作家性がないです」って怒られまして(笑)。当初は原作っぽいテキストが書けたことを喜んでいたんですが、そう言われれば確かに、おっしゃるところもよく分かる、と。せっかくゲームを新しく作るのに、以前のテキストに合わせてどうする、ということですね。
本作は“シバガン”と呼んでいました。これは“芝村のガンダム”ではなく“司馬遼太郎のガンダム”という意味です。歴史家が過去の事実を振り返って書いたという視点にすることで、ゲームシステムに特色ができました。
ガンダムのゲームって「一年戦争を何回やってんだ、あまりにも見過ぎちゃった」というのがある気がするんですよ。わたしとしても初めて見るガンダムを作りたいけれども、嘘もつきたくない。あと、本作を遊んでほしいユーザー層は、ウンチクをたれたいんじゃないか、と。そこで歴史小説風にするということになったんです。
ただし、フィルム(原作アニメ)については嘘をつかない。歴史家なので、資料に関しては古ければ古いほどいい。複数の説があってどうしようもない部分に関しては、両論併記で「こういう説もありますが、こういう説もあります」という書き方で作りました。
人物の掘り下げに関してですが、もちろん人物の発言は曲げられません。オリジナル台本のコピーがベック内にあったので、台本からセリフを起こしました。そこから前後の説明を拾ったりもしました。“ifもの”(原作にはない展開を描くゲーム)ではないので、セリフは忠実に再現してあります。
難しかったのがニュータイプの扱いですね。調べていたら「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」にあるハサウェイ・ノアとクェス・パラヤとの会話シーンで、「ニュータイプっていうのは思いやりなんだよ」というようなニュアンスのことを話していまして、これだ、と。ただ、「機動戦士Vガンダム」では“エスパー”という単語が出てきたりしていまして、用語としてエスパーなのか、ニュータイプが正しいのか、ということもありました。
またシャアは“ニュータイプのなりそこない”と言われたりもしていて、キャラクタースキルとして用意している「弱いニュータイプ」とすべきなのかどうなのか。いずれにしてもシャアは、ニュータイプ適正を認められていないか、かなり弱いレベルだったんだろうな、というところで作っています。歴史では語られない部分や登場人物の解釈には作家性が入っていますが、それ以外の部分は正確にしようと心がけました。
こうした資料を調べるためには、国会図書館に行って手に入れたりもしました。資料は古ければ古い方がいい、という自分なりのルールに沿って作ったのですが、これが本当に大変でした。詳細は言えないですが、中には衝撃の新事実も見つかったりしましたし……。調べる時には、ガンプラの箱書きから何からすべてチェックしました。大変でしたが楽しい仕事でしたね。
ある戦いで勝ったことに対してその結果どうなったのか。戦いにどんな意味があったのか。例えば、ガルマが死んだ結果、何が起きたのか。加えた考察についてはプレイして確認してほしいですが、“ガンダム史実”に整合性が取れていないものについては両論併記をしています。
家弓晋輔氏(以下、敬称略) 本作には、こういう説がある、ああいう説もあるけれども、どちらを採用するのが正しいのか、といったように、宇宙世紀を俯瞰して歴史を紐解くような楽しみ方がありますね。
芝村 本作は歴史小説なので“正解なし”というスタンスです。調べた資料は膨大ですが、最も重要なところで第三者の供述に拠っているところもありますし。そういう意味では、まだまだ調査中です。ガンダムは深いです。
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