ガシャポンに宿る友情――ポケモンがつなぐもの:矢野渉の「金属魂」Vol.7
PC USERのカメラマンとして活躍している矢野渉氏が、被写体への愛を120%語り尽くす連載「金属魂」。第7回はポケモンフィギュアの思い出だ。
唯一の共通言語は初代ポケモン
昔から子供が苦手だ。赤ん坊を抱くことはできるが、「あやす」ことができないのだ。意思疎通のできない生き物をどう扱ったらいいのか、僕はいつも途方に暮れるのである。
自分に娘ができてからも、それは変わらなかった。自分の子供はもちろんかわいい。愛情もあるつもりだ。お風呂に入れたり、抱いて寝かしつけたりもする。でも、それ以上何をすればいいのかが分からない。僕は無言で娘を見つめているだけだった。たぶん、娘の目には、僕はただただ怖い存在に映っていたはずだ。
そんな時、突然、ポケモンブームが始まった。娘が小学校1年生だったから、1997年のことだ。
任天堂を始めとする小学館(コロコロコミック)、イトーヨーカドー(コロコロショップ)、そしてテレビ東京(アニメ)の包囲網はすさまじく、子供を持つ親や祖父母から金を“税金”のように上納させた。ゲームソフトにとどまらず各種のキャラクター玩具やCD、ビデオなどがこれでもかと発売され、そのどれもが売れていたのだ。
なにしろ初代ポケットモンスターは151匹のキャラクターがあるので、そのフィギュアを集めるだけでも大変だ。加えて、人気のあるキャラは数種類のパターンが発売されるため、それを追いかけて購入することになる。また、時々「波乗りピカチュウ」などの「限定品」がそれに混じる。当時は娘にねだられるままに買っていたが、今考えるとかなりの出費だった。
でも娘と同一言語をもてることが、ひたすらうれしかった。そのころの名残りとして、今も僕の部屋には原寸大のピカチュウ(体長60センチ。ゲームキャラに忠実な初代)のぬいぐるみがある。
もちろん僕自身もゲームに熱中した。娘はポケモンの赤、僕は緑、と分けてプレイしていた。普段はゲームなどしない僕が、このゲームにだけはのめり込んだ。
40がらみの男が電車の中でプレイするのには、色々と気を使う問題があった。まずゲームボーイポケットは渋い銀色のものを使う。レアなポケモンをゲットしてもガッツポーズはしない、などだ。
時間をやりくりしてゲームを進めていたが、やはり娘の進度に遅れはじめる。ゲットしたポケモンの数が全く違うのだ。そこで僕は受け狙いを始める。誰も持っていないようなポケモンを作ろうとしたのだ。
まず、捕まえたピカチュウを鍛える。ライチュウには進化させない。がんばってレベル100まであげる。そして必殺技は「じごくぐるま」だ。この極悪ピカチュウは近所の子供にけっこう受けた。
また、イベントではなく、自力でミュウを捕まえる方法はないのかと考え(今ならDSダウンロードで手に入れられる……)、娘に聞くと「セキエイ高原で50回連続勝利すると、オーキド博士がミュウをくれる」って言うから、ほんとに50回行ったさ。レベル100ピカチュウとギャラドスで、出てくる敵をほとんど粉砕した。でもオーキド博士は「おめでとう」と言うだけで何もくれなかった……。
ある日、お向かいの家で遊んでいた娘が泣きながら帰ってきた。手にはゲームボーイポケットがある。理由を聞くと、電源のオン/オフのときにどういうタイミングなのか、データが消えてしまったらしい。「つかまえたポケモン 0」の文字がむなしく表示されていた。
娘の気持ちは痛いほどよく分かる。僕は自分のゲームボーイポケットを取りに行き、電源を入れた。
「お父さんもデータを消すから、また2人で最初からやろう」
そして『さいしょからはじめる』の選択ボタンを押し、ゲームをはじめた。
さよなら、僕のピカチュウ……。
そして訪れたサプライズ
そのころ出入りしていた編集部でも、ポケットモンスターはブームだった。雑談の最中に、このデータが飛んだ話をした時のことだった。編集部のF氏はちょっと考える仕草をして、編集部員にこう促した。
「みんな、こういうことなんで、あれを全部だして」
「これを」と言って僕の手のひらに乗せられたものは少し冷たく、重みのあるものだった。
「これを娘さんにあげますから、元気を出すように言ってください」
それはガシャポンのポケモンフィギュアだった。鋳型に流し込んで作ったものは、確かこのシリーズだけだったように記憶している。当時の編集部で、皆が競うように集めていたものだ。
泣けました。娘より僕のほうがうれしかった。おじさん、もう涙で前が見えない。
人生の中の感動的なひとコマに金属がかかわることによって、またひとつ味わいが深くなる。そして金属は、決してその輝きを失うことはないのだ。
©2009 Pokemon ©1995-2009 Nintendo/Creatures Inc./GAME FREAK inc.
関連記事
- “赤い金”にあこがれて――純銅製CPUクーラーと戯れる
PC USERのカメラマンとして活躍している矢野渉氏が、被写体への愛を120%語り尽くす連載「金属魂」。第6回は純銅製CPUクーラーのよもやま話だ。 - 光の行方に思いを寄せて――ミノルタ「TC-1」
PC USERのカメラマンとして活躍している矢野渉氏が、被写体への愛を120%語り尽くす連載「金属魂」。第5回は旧ミノルタの「TC-1」だ。 - ビクトリノックスが守り続けるもの――「スイスツール」
PC USERのカメラマンとして活躍している矢野渉氏が、被写体への愛を120%語り尽くす連載「金属魂」。第4回はビクトリノックス「スイスツール」だ。 - タテ位置に込められた思い――オリンパス「Pen-EE」
PC USERのカメラマンとして活躍している矢野渉氏が、被写体への愛を120%語り尽くす連載「金属魂」。第3回はオリンパス「Pen-EE」だ。 - 時代を逆走した野人――Quantum「Bigfoot CY」
PC USERのカメラマンとして活躍している矢野渉氏が、被写体への愛を120%語り尽くす連載「金属魂」。第2回はQuantamの5.25インチHDD「Bigfoot CY」だ。 - 初まりは“Z”から――ソニー「VAIO NOTE Z」
PC USERのカメラマンとして活躍している矢野渉氏が、被写体への愛を120%語り尽くす新連載「金属魂」がスタート。第1回はソニーの「VAIO PCG-Z1/P」だ。
関連リンク
- ポケットモンスターオフィシャルサイト
- 製品最安値比較サイト:ITmedia +D Shopping
- ソフトウェアダウンロード販売サービス:+D Download
- ソフトウェアのライセンスはまとめ買いがお得:LICENSE ONLINE
- デジタルライフに彩りを与える専門ショップ:+D 専門店街
- PCパーツからオシャレなノートPCまで:msi style!
- TWO TOP MEDIA
- 欲しかったアレがここにある!:ニーハオ!!上海問屋
- VAIOのことならお任せ!:VAIO LOVERS
- ソニーじゃなきゃもったいない!:SONY LOVERS
- FMVを安く買うならここ!:FMVマニア
- ThinkPadがWeb限定特価:Lenovo media
- デルのお得が毎週更新:DELL evolution
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
-
身長174センチの女性アイドルに「ここは女性専用車両です!!!」 電車内で突如怒られ「声か、、、」と嘆き 「理不尽すぎる」と反響の声
-
元「AKB48」メンバー、整形に250万円の近影に驚きの声「整形しすぎてて原型なくなっててびびった」
-
小1娘、ペンギンの卵を楽しみに育ててみたら…… 期待を裏切る生き物の爆誕に「声出して笑ってしまったw」「反応がめちゃくちゃ可愛い」
-
築年数不明の平屋にある、ボロボロ床板をはがしてみたら…… 発覚したヤバい事実に「ビックリ!」「大丈夫でしたか?」心配と驚きの声
-
ママの足にくっつく生後7カ月の赤ちゃん、甘えてるのかと思いきや…… 計算された行動と「ちいこい後ろ姿がかわいすぎ」て目が離せない
-
「電車の中で見ちゃダメ」「笑ったww」 実家からLINE「子ヤギがすばしっこくて捕まらない」→送られてきた衝撃姿が320万表示!
-
“作画軽減ガンダム”をガンプラで作成 → 使用パーツも最小限の再現ぶりに「完全に一致」「部品軽減ガンダム」
-
誰も教えてくれなかった“裁縫の裏ワザ”が目からウロコ 200万再生のライフハックに「画期的」と称賛【海外】
-
21歳の無名アイドル、ビジュアル拡散で「あの頃の橋本環奈すぎる」とSNS騒然 「実物の方が可愛い」「見つかっちゃったなー」の声も
-
0歳赤ちゃん「(ママ来たっ!)」→喜びが抑えきれなくて…… 尊すぎるダンスが300万再生「心が浄化されていく」「朝から癒やされました」
- 小1娘、ペンギンの卵を楽しみに育ててみたら…… 期待を裏切る生き物の爆誕に「声出して笑ってしまったw」「反応がめちゃくちゃ可愛い」
- 富山県警のX投稿に登場の女性白バイ隊員に過去一注目集まる「可愛い過ぎて、取締り情報が入ってこない」
- 2カ月赤ちゃん、おばあちゃんに少々強引な寝かしつけをされると…… コントのようなオチに「爆笑!」「可愛すぎて無事昇天」
- 異世界転生したローソン出現 ラスボスに挑む前のショップみたいで「合成かと思った」「日本にあるんだ」
- 【今日の計算】「8+9÷3−5」を計算せよ
- 21歳の無名アイドル、ビジュアル拡散で「あの頃の橋本環奈すぎる」とSNS騒然 「実物の方が可愛い」「見つかっちゃったなー」の声も
- 1歳赤ちゃん、寝る時間に現れないと思ったら…… 思わぬお仲間連れとご紹介が「めっちゃくちゃ可愛い」と220万再生
- 業務スーパーで買ったアサリに豆乳を与えて育てたら…… 数日後の摩訶不思議な変化に「面白い」「ちゃんと豆乳を食べてた?」
- 祖母から継いだ築80年の古家で「謎の箱」を発見→開けてみると…… 驚きの中身に「うわー!スゴッ」「かなり高価だと思いますよ!」
- 「ゆるキャン△」のイメージビジュアルそのまま? 工事の看板イラストが登場キャラにしか見えない 工事担当者「狙いました」
- フワちゃん、弟の結婚式で卑劣な行為に「席次見て名前覚えたからな」 めでたい場でのひんしゅく行為に「プライベート守ろうよ!」の声
- 親が「絶対たぬき」「賭けてもいい」と言い張る動物を、保護して育ててみた結果…… 驚愕の正体が230万表示「こんなん噴くわ!」
- 水道検針員から直筆の手紙、驚き確認すると…… メーターボックスで起きた珍事が300万再生「これはびっくり」「生命の逞しさ」
- フワちゃん、収録中に見えてはいけない“部位”が映る まさかの露出に「拡大しちゃったじゃん」「またか」の声
- スーパーで売れ残っていた半額のカニを水槽に入れてみたら…… 220万再生された涙の結末に「切なくなった」「凄く感動」
- 桐朋高等学校、78期卒業生の答辞に賛辞やまず 「只者ではない」「感動のあまり泣いて10回読み直した」
- 「これは悲劇」 ヤマザキ“春のパンまつり”シールを集めていたはずなのに…… 途中で気づいたまさかの現実
- 「ふざけんな」 宿泊施設に「キャンセル料金を払わなくする方法」が物議 宿泊施設「大目に見てきたが厳格化する」
- がん闘病中の見栄晴、20回以上の放射線治療を受け変化が…… 「痛がゆくなって来ました」
- 食べ終わったパイナップルの葉を土に植えたら…… 3年半後、目を疑う結果に「もう、ただただ感動です」「ちょっと泣きそう」