“よくできたゲーム”と“面白いゲーム”の違いとは?――マリオの父、宮本茂氏の設計哲学(前編)(2/5 ページ)
ゲームを作るのは、漫画を描くのに近い
宮本 もともと小学校のころは人形劇の人形を作る人になりたかったので、今日も(文化庁メディア芸術祭受賞作品の)コマ撮りのアニメなんかを見るとドキドキします。中学校の時には漫画家になりたかったので、漫画家さんの原画を見てもドキドキしました。高校に入ってからは工学部に行こうと思って数IIIをとりました。でも、やっぱり美術が好きなので、美大に行こうと思った。分かりやすいですよね、「工学部に行きたくて、美大にも行きたかったら工業デザインしかない」という単純な流れで金沢美術工芸大学に行ったのです。
金沢美術工芸大学を卒業して、アーティストとして落ちこぼれてたのですが、「何か面白いものを作りたい」とずっと思っていたので、工業デザインを専攻していたことから「遊具やおもちゃを作りたい」と思って任天堂に入りました。
そのころ、任天堂はヘンな会社だったんですよ(笑)。トランプを作っている、カルタを作っている、花札を作っている、麻雀牌を作っている。それ以外にベビーカーを作っている、光線銃を作っている、ブロック玩具を作っている、ラジコンカーを作っている……。
その時、僕は「任天堂はトランプでもうけて、そのもうかったお金で好きなことをさせてくれる会社ではないか」と思ったんですね、ちょっと間違って入ったのですが、入ったらトランプはそんなにもうかっていなくて、「自分たちで何かしろ」ということになりました。入社2年目くらいから『スペースインベーダー』が大ヒットしていたので、「おもちゃを作ろうと思っていたけども、ゲームでも作ってみようかな」と思って始めました。
ゲームを作るのは、漫画を描くのに近いことなんですね。自分でコツコツ描けば後は印刷所がどんどん作ってたくさん売ってくれるということで、「これはいいじゃないか」と思ったのです。工業デザインだと、工場と交渉しながらプラスチックのモデルを作って、とすごく大変なんです。しかし、デジタルデータは漫画と同じように扱えると気付いて、「しばらくやってみよう」と思って始めました。
ビデオゲームを作るに当たって、ディレクターという肩書きを自分に付けました。自分で絵を描いて、ゲームを考えて、3人ほどのプログラマーに作ってもらう。プログラマーもどんどんアイデアを出してくれます。
当時は任天堂の中でゲームを作るチームがいくつかあったのですが、だいたい技術者が作るんですね。『スペースインベーダー』(タイトー、1978年)もそうなのですが、プログラムが組めないと作れない。プログラム以前にハードウェアが分からないとダメです。『スペースインベーダー』でも、部品をハンダ付けして得点の仕組みを変えていた時代です。
それが徐々にプログラムで動くようになっていくのですが、ちょうど『ドンキーコング』(1981年)のころにゲームの基盤ができて、プログラムを変えれば動くという時代になりました。「プログラムを作ればいいんだ。技術者じゃなくてもできるんじゃないか」ということで、「じゃあ、絵を描く人が作っても悪くないんじゃないかな」ということで自分で絵を描いて始めました。
なぜそんなチャンスがめぐってきたかというと、技術者が作っていたゲームが大量に売れ残ったんです。ちょうど任天堂が米国進出した時、米国で3000枚の基盤が売れ残っていて、「それを使って売らないとダメ」というのが僕の仕事でした。だから、世の中で言う「手を挙げる人がいない」という仕事ですね。
でも、幸運だったのは、作った瞬間に海外で売れるということ、そして売れ残っているわけなので自由に伸び伸びとやらせてもらったということです。
そして、自慢になるのですが(笑)、『ドンキーコング』は6万台売りました。業務用の機械なので、1台50万円とかです。今の売り上げには及ばないですが、6万台売ってほめられたかというと、ゲーム業界のバカなところで、7万台近く作ってしまったんですね(笑)。また売れ残ったというので、ほめられるよりも「次のを作ってくれ」と言われました。
このころ僕は、若気の至りで「もう出し尽くしたからネタなんかない」とか言っていたんです。そしたら一緒にやっている友達に「そんなことないやん。『ドンキーコング』作る時にもっとスケッチあったやろ。使ってないやつを作ればいいんじゃないか」と言われて、「それもそうやな」と思って『ドンキーコングJR.』(1982年)を作りました。
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