ビルの“向こう”に巨大な天海春香――KDDIのARが画像認識でさらに進化:ワイヤレスジャパン2010(1/2 ページ)
街中のビルの向こうにキャラクターが現れたり、音楽アルバムの看板から楽曲が流れたり――こんな高度なAR体験を携帯電話で実現させたのが、KDDIの開発版「セカイカメラZOOM」だ。ARゲームへの応用に加え、広告からECへの導線にもなると開発者は語る。
街中でケータイのカメラに看板が映りこむと、そこからキャラクターが飛び出したり、音楽が聞こえてきたりする。ふすまの隙間にカメラかざすと、お化けがこちらをのぞいている――そんな世界を気軽に楽しめる時代がもうすぐやってくるかもしれない。7月14日に開幕した無線・モバイル技術の展示会「ワイヤレスジャパン2010」のKDDIブースでは、同社のケータイ向けAR(拡張現実)アプリ「セカイカメラZOOM」に独自の画像処理技術を搭載した開発版が紹介されている。
ARとは、現実空間に電子情報を重ね合わせて人間の認識を拡張する技術のこと。近年ではモバイル端末の高機能化にともなって、さまざまなサービスがモバイル向けに登場している。日本で特に有名なのが、スマートフォン向けアプリ「セカイカメラ」だ。同アプリは端末の位置情報を活用し、カメラが映し出す映像に「エアタグ」と呼ばれる“電子付せん”を表示する。カメラをかざした方向にある店の情報や、その場所を訪れたユーザーのコメントがエアタグとして空間に浮かび、目には見えない街の情報を閲覧できる。
KDDIのセカイカメラZOOMは、端的に言うとセカイカメラのau携帯向けアプリだ。ただし、KDDI独自のAR技術「実空間透視ケータイ」がベースとなっており、カメラ映像にエアタグを重ねるだけでなく、CGマップで遠くのエアタグを調べられたりと、独自の機能を搭載している。KDDIでは将来的に、セカイカメラに限らず多様なARコンテンツを閲覧できる“ARブラウザ”の構築を目指している。
「ARブラウザを構築する上で、画像認識はとても重要」――そう語るのは、セカイカメラZOOMの開発を担当するKDDI研究所の小林亜令氏。端末の位置情報を利用するARサービスでは、位置情報の精度によって現実空間とARコンテンツとにズレが生じることが1つの課題となっており、今回は独自の画像認識技術でその解決に挑んでいる。
位置情報ベースのARは、基本的にはGPSの測位結果を基にコンテンツを配置するため、数メートル単位で位置の誤差が生じてしまう。無線LANの電波強度から位置を割り出す「PlaceEngine」などの技術を併用して位置精度を高めることも行われているが、それでもピンポイントにコンテンツを配置するのは難しい。
一方、iPhoneアプリ「ラブプラス i」のように、特定の画像パターン(ARマーカー)を認識して、その上にコンテンツを表示する“マーカー型AR”の技術も多く利用されているが、マーカーの設置されていない場所では当然ながら機能を利用できない。マーカーなしで空間を認識するPTAMと呼ばれるAR技術も発表されているが、「フィーチャーフォンには処理が重すぎる」(小林氏)という。
そこで、今回の開発版セカイカメラZOOMでは、従来の位置情報のAR技術に加え、「マーカー型とPTAMの中間」(小林氏)のような画像認識技術を取り入れた。具体的には、カメラに写る矩形(長方形や正方形)の物体をリアルタイムに認識する技術で、マーカー型ARのソフトウェアライブラリ「ARToolKit」をベースに開発している。
通常のARToolKitでは、QRコードのような特徴的なマーカーが必要。しかし、セカイカメラZOOMでは矩形内の色などの特徴ベクトルをもとに対象物を特定するため、例えば看板やポスターといったマーカーが施されていない“四角い何か”とコンテンツをひも付けられる。また、コンテンツは通常のエアタグと同じように端末の位置が測位された段階であらかじめダウンロードされ、特徴ベクトルとコンテンツとの照合はローカルで高速に行われる。そのため、カメラを対象物にかざすと即座にコンテンツが再生されるのだ。
同技術を取り入れた状態でも、セカイカメラZOOM上でのカメラ映像は10fpsと比較的滑らかな描写を実現。また、画像認識を取り入れたことによる消費電力の増加は「誤差の範囲」(小林氏)に収まっている。商用化の時期は未定だが、技術的には商用アプリに搭載できるだけの完成度になっているという。
さらに開発版にはもうひとつの画像認識技術として、“高速背景領域抽出機能”を搭載している。背景と手前の建物を認識することで、例えば手前にあるビルにARキャラクターが隠れて表示される、といった表現が可能になる。
同社はこうした画像認識技術を、ARゲームやARならではの広告やECの展開に役立たせたい考え。ブースのデモンストレーションでは、バンダイナムコゲームスの人気ゲーム「アイドルマスター」とのコラボレーションを果たし、ジオラマ内に画像認識技術を生かしたユニークな“アイマス空間”が構築されていた。
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