ケータイゲームの世界で“ゲーム機”を再発明――セドゥCEOに聞く「AR.Drone」
iPhoneでラジコンヘリを操作し、iPhoneの画面に送られるコックピット映像上でARシューティングを楽しむ。9月16日発売のラジコンヘリ「AR.Drone」は、こうしたユニークな特徴を持つ。開発元のCEOに、製品に込めた思いを聞いた。
ラジコンヘリを操作しながらiPhoneゲームを楽しむ――そんなユニークな体験の提供を目指すのが、9月16日に国内販売が開始される仏Parrot製のラジコンヘリ「AR.Drone」だ。同製品は、iPhoneやiPadが機体のコントローラーとなり、機体のカメラ映像がiPhoneにストリーミング配信されると同時に、iPhoneの画面上でAR(拡張現実)ゲームが楽しめる。機能の詳細は発表会リポートに譲り、ここではParrotのアンリ・セドゥCEOが考えるAR.Droneの世界観を紹介しよう。
携帯電話に「大変なチャンスある」
「既存の製品を、モバイルの世界で『再発明』」――Parrotから手渡された会社案内には、そんな言葉が踊っていた。セドゥ氏が1994年に創業した同社は、自動車向けハンズフリーキットやBluetooth対応デジタルフォトフレーム、ワイヤレスオーディオシステムなど、「携帯電話と何らかの結びつきがある製品」(セドゥ氏)をこれまで作り続けてきた。ホテルの一室に並べられた同社の製品を1つ1つ説明しながら、セドゥ氏は「携帯電話には大変なチャンスがある」と力説する。
「音楽や映像、写真など、さまざまなものが携帯電話によって自分の一部のようになっている。かつて、カメラを常に持ち歩いていたのはプロカメラマンだった。今は携帯電話のほとんどにカメラが搭載され、誰もがカメラを持ち歩き、例えば写真ブログのような新しい文化が生まれている。携帯電話は人々のライフスタイルに革新を起こしているし、我々はそれをさらに広げることができると信じている」(セドゥ氏)
そんなセドゥ氏が、携帯電話を使った新しい“ビデオゲーム”を長年にわたり構想した結果が、AR.Droneなのだという。
AR.Droneが誕生するきっかけは、今から4年前にまでさかのぼる。iPhoneが登場していなかった当時、同社は携帯電話で操作できるラジコンカーを開発していた。通信にはBluetoothを利用。AR.Droneの特徴である、ラジコン本体のカメラ映像を携帯電話に届けるというアイデアも、この時に実現していた。
このラジコンカーは製品として完成したものの、セドゥ氏は製品に「面白みが足りない」と感じ、販売を断念した。そして、次に思い立ったのが、ラジコンカーの発想を“空飛ぶ何か”に応用すること。同時に、「カメラ機能を使ってもっと面白いことができる」と自問自答した結果、ARゲームの発想が生まれた。
AR.Droneと連動したARゲームを成立させるために、ラジコン本体には画像認識機能が組み込まれている。オレンジや青、黄色などの色で構成された専用のカラーマーカーがフロントカメラに写ると、AR.Droneはそれを認識する。そして、例えばマーカーの場所にモンスターのCGを描画して、AR.Droneを操作しながらiPhoneの画面上でモンスターを攻撃するといったシューティングゲームが楽しめるという。また、2機のAR.Droneにマーカーを貼り付ければ、AR.Drone同士の対戦ゲームも可能だ。
ARゲームでは、ユーザーは時にラジコンを目視したり、iPhoneに送られるコックピット映像に集中したりと、一風変わったゲーム操作を味わうことになる。「飛行機の操縦では、計器と景色の両方を確認する。時には、計器のみを見て飛行することもある。AR.Droneの操作は、それと同じ」(セドゥ氏)
そして、こうした操作を容易にするのが、優れた機体の自動制御機能だ。姿勢制御には、加速度センサーやジャイロセンサーからの情報に加え、機体底部に設けた垂直カメラの映像を活用している。AR.Droneを開発する上で、「機体の安定したホバリングを実現することが最も難しかった」とセドゥ氏は振り返る。
「操縦者の視点に立ち返ってあるべき姿勢制御を模索した。機体の姿勢が不安定になると、何をすべきかの判断が難しくなる。そして、こうした問題に直面したとき、例えば子供ならiPhoneから手を離すと考えた。我々は、操縦者が手を離した瞬間、機体自身が自らを安定させることに集中するよう、機体を開発した」(セドゥ氏)
実際、AR.Droneの安定したホバリングは目を見張るものがあり、多少の風ではその場を動かず、浮いている機体を手で上下に揺さぶってみても、その場に粘り着いているかのような抵抗感がある。セドゥ氏は、「ソフトウェアに強みを持つ企業だからこそできる自動制御」と、製品の仕上がりに自信を持っている。
AR.Droneは「ゲームプラットフォーム」
「おもちゃは常に時代を反映する。現代のおもちゃはコンピューターといかに連携するかが重要になる」というのがセドゥ氏の持論。また、AR.Droneには「モニターの中のみに終わらず、外に出て遊べるゲームを作る」という狙いもある。セドゥ氏にとってAR.Droneは、空飛ぶおもちゃであり、ビデオゲームのプラットフォームでもある。
ある意味、AR.Droneは特定のハードに依存しないモバイルゲームの世界で“ゲーム機”を再発明した製品なのかもしれない。Parrotが販売するのは、基本的にはAR.Droneというハードウェアだ。ハードウェアと連携するためのゲームSDKは公式コミュニティで無料公開し、世界のゲームアプリ開発者に参画を呼びかけている。そして、アプリの売上げは100%開発者のもの。開発者が魅力的なゲームを出せば出すほど、AR.Droneそのものの魅力やブランドも確立し、成功すれば“ゲーム機”の売上げにつながる。
AR.Droneを使った競技イベントなど、やりたいことはたくさんあるが、「現在、最も注力すべきはゲームアプリの取り組み」とセドゥ氏。ARゲームアプリに先行して、無料の操縦アプリ「AR.FreeFlight」が配信されているが、近日中にARゲーム機能を備えた「AR.FlyingAce」もリリースされるという。同社の提案する「新しいゲームの姿」の第1弾がユーザーにどのように受け入れられるか、同アプリの評価に注目したい。
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