ゲーム業界への影響は? 「都条例改正でゲームも規制!」についての誤解と真実日々是遊戯

最近ちらほらと耳にする、「都条例改正でゲームも規制!」という声。でもこれって、どこまでホントなんでしょうか? 今回の都条例改正がゲーム業界に与える影響について、個人的にまとめてみました。

» 2011年01月26日 08時00分 公開
[池谷勇人,ITmedia]

家庭用ゲームにはほぼ影響なし?

 昨年末からあちこちで話題になっていた、「東京都青少年の健全な育成に関する条例」改正問題。改正案についてはすでに議会で可決されていますが、その後PJ NEWSの記事などをきっかけにして、「ゲームも出版と同じように規制されるのではないか」という懸念が一部ゲームファンの間で広がりつつあります。

 最初に断っておくと、ここからは筆者の個人的意見・見解が多分に含まれます。この問題、実はかなり前から気にはなっていました。もしゲームも規制の対象となるのであれば、これまでCEROという審査機関を設けて、かなり厳しい自主規制を敷いてきたゲーム業界側としては立場がない。また、すでにあちこちで議論されているとおり、今回の改正案については曖昧な部分が多く、恣意的運用の懸念もある。ゲーム業界にとっての影響は決して小さくはないはずです。

 ただ同時に、今回の件では「規制」という言葉が一人歩きしすぎており、間違った認識に基づく過剰な反応なども一部で見受けられました。極端なところでは「今後犯罪表現のあるゲームはすべて発売できなくなる」といった声もあり、もはやどこまでが真実で、どこまでが誤解なのか分からなくなっている状態です。

 果たして、条例改正で本当にゲームは「規制」されるのでしょうか。先に結論から言ってしまうと、「家庭用ゲームにはほとんど影響はない」というのが筆者の考えです。

本当に条例改正にゲームは含まれているのか

 今回、ゲームについての記載があったのは、12月に「東京都青少年・治安対策本部」のサイトにて公開された、「東京都青少年の健全な育成に関する条例施行規則 新旧対照表(PDF)」の中。これによると「磁的記録媒体に記録されたプログラムを電子計算機等を用いて実行することにより、人に前二号に掲げる性交等に該当する行為を擬似的に体験させるもの」についても、出版物と同様に同様に規制していくとしています。

 少々書き方がややこしいですが、この部分は確かにゲーム(もしくは電子書籍)を指していると読み取ることができ、ここでは一応ゲームも施行対象内に含まれるという前提で話を進めていきます。なお「前二号に掲げる〜」という部分については、すでにあちこちで論議されているので簡単な説明に留めますが、要するに「性犯罪、近親相姦、児童ポルノなどを肯定するかのような性表現」ということ。これらの表現が含まれる場合、「規制」の対象になりうるわけですね。

 では実際に「規制」の対象になった場合、どういうことが行われるのか。これは端的に言ってしまえば、「商品そのものを指定図書・指定映画に区分」し、「18歳未満に販売しないよう、区分販売、区分陳列を徹底する」ということ。しばしば誤解されがちですが、指定図書に選ばれたからといって、いきなり「販売中止」になるわけではありません。要するに今回の改正の主旨というのは、「性犯罪、近親相姦、児童ポルノなどを肯定するかのような性表現を含む作品(出版、ゲーム、電子書籍など)については、18歳未満に販売しないようにしよう」ということなわけです。

 ちなみに今回の改正で「暴力などの犯罪表現もすべてアウト」といった声も一部にありましたが、あくまで今回追加されたのは「性犯罪、近親相姦、児童ポルノなどを肯定するかのような性表現」だけ。残虐ゲームなどの暴力・犯罪表現については、今回追加された部分では特に触れられていません(ただし過剰な過剰な性表現や残虐表現については、今までどおり「青少年に対し、著しく性的感情を刺激し、甚だしく残虐性を助長し、又は著しく自殺若しくは犯罪を誘発するもの」という形で規制対象に含まれており、そちらに抵触する可能性はある)。

家庭用ゲームへの影響は?

 では、この内容を家庭用ゲームに照らし合わせてみたらどうか。

 すでにお気づきの人も多いと思いますが、少なくとも現在の家庭用ゲームに、今回の規制内容にひっかかるようなものって、実はほとんどないんですよね。なぜなら家庭用ゲームでは業界団体であるCEROがガッチリと自主規制を行っていて、その基準は出版などよりもはるかに厳しい。今回の条例で規制対象になるようなゲームは、そもそもCEROの基準では「Z指定(18歳以上のみ対象)」すら発行されず、レーティング不可――つまり「発売できない」扱いになります。仮に今後、CEROはOKを出したのに、都の判断ではNGになった――といったケースが出てくればそれは問題だと思いますが、今のところCEROの基準は都のそれよりも圧倒的に厳しく、その可能性は低いと推測します。

 また、そもそも規制といってもあくまで「18歳未満への販売禁止」に指定されるだけで、決してそのゲームが販売されなくなるわけではありません。もちろん、CEROの「Z指定」はあくまで自主的な規制であり、条例で指定される「有害図書」とは重みが違う(「有害図書」の場合、違反した場合は30万円以下の罰金)。このためリスクを恐れて販売店が取り扱わなくなる=実質的な販売規制につながる、といったケースも一部では懸念されていますが、ゲーム業界の場合、すでにCEROによる自主的な区分陳列・区分販売がしっかりと機能しているため、ここでも過剰に「有害指定」を恐れる必要はまったくないと個人的には感じています。

 ちなみに以前、神奈川や大阪などの4府県で、カプコンの「グランド・セフト・オートIII」が有害指定されたことがありましたが、大阪に拠点を持つあるFCバイヤーにお話をうかがったところ、その際も「あくまで区分陳列、区分販売を徹底しただけで、取り扱いそのものは継続して行っていた」とのこと。また当時に比べると、現在はCEROのレーティングもより厳しくなっており(設立当初は全年齢対象、12才以上対象、15才以上対象、18才以上対象の4段階で、18才以上対象のゲームについても厳密な区分販売などは行っていなかった)、仮に今後、何らかのタイトルが条例で「有害指定」されたとしても、ショップ側の扱いは従来の「Z区分」タイトルとほぼ変わらないとみてよさそうです。

すでに区分陳列されているものについては影響なし?

 そのほか家庭用ゲーム以外で問題となりそうなのは、例えばPCで発売されている「美少女ゲーム」など。ただこれについても、基本的には今までどおり「すでに区分陳列が行われているものに関しては指定対象外」になるものと予想されます。

 参考までに、「東京都青少年・治安対策本部」のページにある「不健全図書類の指定について(解説)(PDF)」を見ると、「対象となる図書類は、原則として書店・コンビニ等の販売店等で青少年が容易に手に取り閲覧できる場所に陳列され、また容易に入手できる販売状況等にあるもの」という記述がある。これはつまり、すでに区分陳列が行われているものについては原則として指定対象にならない、と読み替えていいのではないでしょうか。

 そもそも従来の美少女ゲームの中には、既存の条例にあった「青少年に対し、著しく性的感情を刺激し、甚だしく残虐性を助長し、又は著しく自殺若しくは犯罪を誘発するもの」に当てはまるものも少なくありませんでしたが、実際に「有害指定」された例はほとんどありません。今後も区分陳列・区分販売を徹底して行うかぎり、美少女ゲームがいきなり有害指定されたりする可能性は低いのではと考えます。

怖いのは「過剰な萎縮」

 ――ということで、今回の条例についての筆者の解釈は以上となります。 

 もちろん今回の条例には、書き方が非常にあやふやな部分もあり、反対派がかねてから言っているように、恣意的な運用もされかねないといった懸念はあります。もちろん、筆者個人としてもそうした「最悪のパターン」への懸念は当然ありますが、今回はあくまで条例改正による「実質的な影響」に焦点を絞ってまとめさせていただきました。

 個人的に、もっとも怖いのはユーザーの誤解に基づく業界側の「萎縮」であると考えます。「ゲームも規制だ!」という間違った認識が伝わることにより、ユーザーが「じゃあこれもダメだ!」と騒ぎ、結果的にメーカーが「別にダメじゃないんだけど、ユーザーがうるさいから……」と萎縮してしまう。そういった最悪のケースを避けるためにも、まずは冷静に、何がダメで、何がいいのかをきっちり見定めておく必要があると感じ、こうして記事にしてみた次第です。

 なおまとめにあたり、Twitterなどを通じてたくさんの方から意見、コメントを寄せていただきました。そのときのやりとりなどは、Togetterの「『都条例改正でゲームも規制!』に対する、あるゲームライターの素朴な疑問」および「『都条例改正でゲームも規制!』はどこまで本当なのか」にまとめてありますので、興味がある方はそちらも併せてご覧いただければと思います。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2403/26/news158.jpg 元横綱・貴乃花、再婚後の激変ぶりに驚きの声 ヒゲ生やした近影に「ショーケンみたい」「ワイルドー」
  2. /nl/articles/2403/27/news130.jpg 中山美穂、金髪&ミニ丈の大胆イメチェンに視聴者びっくり! “格付け”出演の最新ビジュアルに「誰だか分からなかった」
  3. /nl/articles/2403/26/news169.jpg 「『ちゅ〜る』の紅麹色素は大丈夫?」 小林製薬の「紅麹」報道で飼い主に不安広がる
  4. /nl/articles/2403/27/news126.jpg ミス筑波大モデル、25キロ減量したビフォーアフターに「ホント凄い」 整形疑う声も「元々は埋もれてたようですね」
  5. /nl/articles/2403/26/news161.jpg 【まとめ】小林製薬「紅麹」問題 味噌や酒など紅麹原料メーカーの自主回収相次ぐ 20社以上が発表
  6. /nl/articles/2403/27/news127.jpg 日本エレキテル連合・中野、ネタで酷使し容姿に異変→手術を決断 「ダメよ〜、ダメダメ」でブレイク、2022年にがん公表
  7. /nl/articles/2403/20/news067.jpg 「紫のトトロ買った」 “ジブリを1ミリも知らない”友だちから連絡→まさかの正体に爆笑 友だちはその後ジブリを見た?
  8. /nl/articles/2403/26/news016.jpg ドイツ人家族が日本のバウムクーヘンを実食、一番おいしいと絶賛したのは…… 満場一致の結果に「参考になります」「他の食べ比べもお願い」
  9. /nl/articles/2312/30/news041.jpg 「紫のトトロ買った」 “ジブリを1ミリも知らない”友人から連絡→まさかの正体に爆笑「それトトロやない」
  10. /nl/articles/2403/26/news145.jpg 「ご安心ください」 “紅麹ショック”でDHCとファンケルが声明…… サプリ販売は継続中 小林製薬では死亡患者がサプリ摂取
先週の総合アクセスTOP10
  1. 親が「絶対たぬき」「賭けてもいい」と言い張る動物を、保護して育ててみた結果…… 驚愕の正体が230万表示「こんなん噴くわ!」
  2. フワちゃん、収録中に見えてはいけない“部位”が映る まさかの露出に「拡大しちゃったじゃん」「またか」の声
  3. 「これは悲劇」 ヤマザキ“春のパンまつり”シールを集めていたはずなのに…… 途中で気づいたまさかの現実
  4. 「ふざけんな」 宿泊施設に「キャンセル料金を払わなくする方法」が物議 宿泊施設「大目に見てきたが厳格化する」
  5. 田代まさしの息子・タツヤ、母の逝去を報告 「あんなに悲しむ父親の姿を見たのは初めて」
  6. 「遺体の写真晒すのはさすがに」「不愉快」 坂間叶夢さんの葬儀に際して“不適切”写真を投稿で物議
  7. 大友康平、伊集院静さんの“お別れ会”で「“平服でお越しください”とあったので……」 服装が浮きまくる事態に
  8. 妊娠中に捨てられていた大型犬を保護 救われた尊い命に安堵と憤りの声「絶対に許せません」「親子ともに助かって良かった」
  9. 極寒トイレが100均アイテムで“裸足で歩ける暖かさ”に 今すぐマネできるDIYに「これは盲点」「簡単に掃除が出来る」
  10. 「奥さん目をしっかり見て挨拶してる」「品を感じる」 大谷翔平&真美子さんのオフ写真集、球団関係者が公開
先月の総合アクセスTOP10
  1. 釣れたキジハタを1年飼ってみると…… 飼い主も驚きの姿に「もはや、魚じゃない」「もう家族やね」と反響
  2. パーカーをガバッとまくり上げて…… 女性インフルエンサー、台湾でボディーライン晒す 上半身露出で物議 「羞恥心どこに置いてきたん?」
  3. “TikTokはエロの宝庫だ” 女性インフルエンサー、水着姿晒した雑誌表紙に苦言 「なんですか? これ?」
  4. 1歳妹を溺愛する18歳兄、しかし妹のひと言に表情が一変「ちがうなぁ!?」 ママも笑っちゃうオチに「かわいいし天才笑」「何度も見ちゃう」
  5. 8歳兄が0歳赤ちゃんを寝かしつけ→2年後の現在は…… 尊く涙が出そうな光景に「可愛すぎる兄妹」「本当に優しい」
  6. 1人遊びに夢中な0歳赤ちゃん、ママの視線に気付いた瞬間…… 100点満点のリアクションにキュン「かわいすぎて鼻血出そう!」
  7. 67歳マダムの「ユニクロ・緑のヒートテック重ね着術」に「色の合わせ方が神すぎる」と称賛 センス抜群の着こなしが参考になる
  8. “双子モデル”りんか&あんな、成長した姿に驚きの声 近影に「こんなにおっきくなって」「ちょっと見ないうちに」
  9. 犬が同じ場所で2年間、トイレをし続けた結果…… 笑っちゃうほど様変わりした光景が379万表示「そこだけボッ!ってw」
  10. 新幹線で「高級ウイスキー」を注文→“予想外のサイズ”に仰天 「むしろすげえ」「家に飾りたい」