直感的に楽しみ、そして考察を加えてさらに楽しめ:「メタルギア ソリッド4 ガンズ・オブ・ザ・パトリオット」レビュー(2/2 ページ)
戦場の不確実性が生み出す抜群の臨場感
さて、ここからは話を変えよう。初めに弁護の話を持ってきたのは、前ページで述べたことが理由になって、この作品に対する拒絶反応を起こしてもらいたくなかったからだ。実際、潜入アクションとして「MGS4」は、従来作以上の面白さを有している。しかも単にグレードアップしただけではない。新趣向の面白さも追加されているのだ。こうした作り込まれたエンターテイメントを、あっさり切り捨ててしまうのはもったいなさ過ぎるではないか。
言うまでもないことだが、スネークは潜入工作員である。戦闘技術にも長けているが兵士ではない。それはなるべく見つからず、余計な戦闘をしないほうがクリア時の評価が高いという伝統によって証明されている。
潜入工作員というのは、どこかに忍び込んで機密情報などを盗み出してくるのがメインの仕事になるが、そういう意味では、潜入目標はだいたいにおいて隔離空間になる。一般人がうろうろしているようなところでは極秘研究などできるはずもないから、これは当然だろう。ところが、メタルギア ソリッド4ではこの法則が崩れている。特にファーストミッションの舞台が戦場になっているのは非常に新しい試みだ。
従来作では見つかれば、即警戒態勢が敷かれ、敵との交戦の危険性が増すというパターンがあった。ところが今回は少し感じが違う。スネークは第3勢力なのだ。もともと戦場にいる連中から見れば、敵なのか味方なのか判然としない。だから彼らはスネークの行動を見て考える。例えば、戦闘時にスネークが敵を打ち倒してくれれば、自分サイドの人間と思ってくれるわけだ。
ただ、そこも一筋縄ではいかない。ファーストステージでは、体内のナノマシンを通して完全な統御下に置かれた傭兵と、それに対抗する民兵とがいる。前者はナノマシン経由で情報交換を行うため、敵味方の識別を間違えることがない。そして味方ではない者は敵と捉えるよう命令されている。だからスネークは味方ではない=敵となり、見つかれれば交戦は避けられない。しかし、後者はテクノロジーが入っていない、普通の人間である。敵味方の見分け方も人間的。だから民兵には上手く恩を売れば、味方と思ってもらえる。このあたりをどう対処するかでステージの難易度はずいぶん変わってくるだろう。
だが、しかしこれで終わりではない。まだまだ仕掛けがあるのだ。民兵を援護して彼らの信頼を得たとしよう。これで民兵はスネークを攻撃してこなくなる……と思っては早計。民兵がスネークを攻撃してこないのは、スネークが味方だと確認できた時なのだ。
例えば、ステージ内には暗くて、ほとんど視界が効かない場所がある。そんな場所で民兵と鉢合わせしたとする。スネークは暗視装置を持っているが、民兵はただの人間である。相手が誰だか分からないのだから警戒し、動くなと言ってくる。この時、うっかりスティックを動かしてしまったらどうなるか。
民兵の立場で考えてみよう。暗がりで何者かと遭遇し、誰何したら、止まらず動き出した。こうなれば思わず銃の引き金を引くのもやむを得ないだろう。このように、いったん味方となっても、状況によってはそれが通用しないことがあるのだ。
こうしたキメ細かな設定は、戦場における不確実性を表現していると言えるだろう。よく言われることだが、実際の戦場では机上の戦術理論など通用しない。特に市街戦では、敵がどこにいて、どんな武器で自分たちを狙っているのか、判断しにくい。そうした緊張感の中では、自分に銃口を向ける者がいたら、咄嗟に攻撃してしまうのが普通なのだ。そのせいで同士討ちが始まることすらある。安全な場所にいる人間が聞けば、そんなバカな、と思うかもしれないが、一瞬の隙や判断ミスで命がなくなる空間にいる人間の心理的ストレスはハンパではない。平時には予想もつかないことなど、いくらでも起こり得る。戦場での不確実性はリアリティのキモなのだ。
メタルギア ソリッド4の臨場感は従来作を軽く上回っている。肌が粟立つほどのスリルはプレイする者をたちまち虜にするだろう。ここでは過去作を知っているかどうかなど関係ない。メタルギア ソリッド4が持つ、完全に固有の楽しさだ。
人間を排除しつつある近未来の戦場
メタルギア ソリッド4の魅力は練り込まれたシステムだけではない。舞台設定も非常に面白い。あまり詳しく話すのはプレイ時の楽しさを削ぐので控えるが、一言で言えば、戦争から人間らしさが失われているのである。テクノロジーの進化が完璧に統御可能な兵士を可能にした。彼らは命令には絶対服従するし、反抗もしないし、規律違反もしない。感情もコントロールされているから恐怖に怯えることもなく、目先の欲望に負けることもない。人類史上最高の完璧な軍である。
確かに軍隊といえば、私略行為が付きものだった。というより、近世以前はそれがやりたくて軍人になるのが普通だったし、近世以後も何かのきっかけで規律が破壊すれば、軍隊は単なる暴力集団になった。それを考えれば、とてつもなくありがたいシステムといえるだろう。
だが、そうして管理された兵隊が、自立行動をする無人の戦闘機械と戦っているとなればどうだろう。戦場にはもはや戦闘当事者がいないのだ。どちらも代理を立てて、損害の程度を計算して戦争を行う。そうなれば、被害を恐れることがなくなるから、戦争を無限に行うことが可能になる。戦闘が非常手段でなくなり、日常的な政治手法に取り込まれる。そして傭兵派遣会社にオファーが飛ぶ。同じ会社は敵側にも傭兵を送り、そしてまた戦闘機械を売る。儲かるのは戦争企業だけ。
スネークは東西冷戦の中で生まれてきた英雄である。そんな彼の目に戦場はどう見えているのだろう。グラフィックは見れば分かるように、スネークは老いている。彼は大国の思惑が激突する中で、世界を破滅から救うために過酷な任務を遂行してきた。しかも誰にも知られることなく。名誉と無縁の世界で、ひたすら危険な仕事を続けてきたのだ。そうして守ってきた世界が辿り着いた姿。誰もが平等に優秀な兵士になっている戦場。思想も信念も憎悪もないままに繰り返される戦闘。そんな世界を作るために頑張ってきたのか? そんな世界を守るために老骨に鞭打って頑張るのか?
そうしたスネークの葛藤に感情移入すれば、眼前で展開する光景への思いも変わってくるだろう。メタルギア ソリッド4は潜入アクションゲームである。だから、ファーストプレイでは何よりもそのスリルが楽しい。だが、ちょっと世界観について思いを巡らせてみると、より深い面白みが見えてくる。セカンドプレイ以降では是非そんなプレイを推奨したい。
ソリッド・スネークへの訣別を宣言し、それに見合った葬儀を執り行った「MGS4」。だが、無論それでこの作品のすべては語れない。潜入アクションゲームとしても、過去最高の練り込みが行われているのである。システム面でも、そして世界観の面でも。
キャラクター同士の関係が分からないかもしれない。ムービーが多いかもしれない。だが、それですべてを切り捨てるのは間違っている。目を向けるべき本質はまったく別のところにあるのだ。そこに気づいた時、「MGS4」の真価が見えてくる。
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