「日本はもうゲーム先進国ではない」――岡本吉起氏が語る“世界に通用するゲームプロデュース”CEDEC 2008特別インタビュー(2/3 ページ)

» 2008年09月08日 18時37分 公開
[池谷勇人,ITmedia]

「ゲーム先進国」の座を奪われつつある日本

―― もうひとつのポイントになりそうなのが、“世界に通用するゲームプロデュース”という部分だと思います。

岡本 うん、そこはもう大前提。日本市場がシュリンクしている中で、“世界に通用する”ってことは必須条件なんです。そもそも世界に通用する人間、ゲームを育てていく気がないんなら、プロデューサーなんかいらないですよ。

―― 海外での「グランド・セフト・オート4(GTA4)」の販売本数なんかを見ても、ここ2〜3年で完全に日本と世界の温度差が浮き彫りになってきた感があります。

photo

岡本 浮き彫りになってきたどころか、もう遅すぎるくらいですよ。ファミコンの頃には、日本のゲームが全世界の70%を占めてた。それが今では、せいぜい15%とか20%とかじゃないですか。今は海外の方がゲーム先進国なんです。彼らはGTA4みたいなタイトルを、5年も10年かけて作ってきてる。それに今から追いつこうと思っても、その間に彼らはもっと進歩していくわけですよ。でも、だからといって諦めちゃったら、もう一生追いつけなくなる。


―― 日本のゲームと海外のゲームの決定的な差ってどこにあると思いますか。

岡本 もう、明らかに方向性が違いますね。日本人が作るゲームって、不満が少ないゲームなんですけど、言い換えれば自由度が低い。海外のは本当にすごいですよ。トイレで水を流すとか、手を洗うとかいったことが当たり前のようにできる。どうでもいいだろ! って思うんですけど、そういった部分にもしっかりとプログラマーがついている。

―― トイレで水を流す専門のプログラマーが(笑)。

岡本 でもこれって、ゲームと映画の違いを明確に表してる気がするんです。よく日本のゲームを指して“映画的”って言いますけど、それってつまり一本道ってことですよね。でも西洋人は、映画とはまったく違うものをゲームに求めた。

―― 演出面だけ見たら、GTA4もかなり映画的なゲームですけど、日本のそれとはベクトルがまったく違いますよね。日本のゲームは、観客視点での映画的ですけど、GTA4は自分が映画の主人公そのものになった視点で遊べる。

岡本 これをもし今の日本の会社が作ろうとしたら、「どうぶつの森」のチームくらいしか、本当の意味でその感覚を持っているところはないと思うんです。後は「シーマン」。僕は斎藤由多加さんのことをシーマンって呼んでるんですけど(笑)。

―― シーマンの生みの親だからですか?

岡本 シーマンの声は斎藤由多加さん本人がやってるんですよ。シーマンって「おはよう」とか「起きてるかー」とか話しかけると、いろいろリアクションをしてくれるじゃないですか。あれって、大体こっちが言うことを想定していて、それぞれに対してリアクションを返してるだけなんですけど、ただシーマンの場合、その対応の幅がとにかく広い。これって海外のゲーム作りに通じるところがありますよ。

―― こんな言葉にまで反応するの! みたいなところが面白かったですよね。

岡本 その分、作業量もものすごい。あれをもし声優さんでやってたら大変なことになっちゃいますね。あれは彼自身の声だからこそできたんですよ。

―― なるほど。

photo

岡本 というか、同じマンションに住んでたんですよ。面白かったですよ、夜中の2時過ぎに「岡本さーん、腹減った! チャーハン作って!」って電話してきたり。それで「オレ明日4時半起きだから勘弁してよ」って言った瞬間、もう玄関のチャイムが「ピンポーン」って。ドアの前かよ! みたいな(笑)。ほかにもね……。

(この後、延々15分ほど斉藤さんの話題で盛り上がる)

―― あの、そろそろ元の話題に……。

岡本 ああ、そうだった(笑)。とにかく今の日本ではまだ一本道のゲームが主流ですけど、それはいずれゲームじゃないとか、前世代のゲームとかきっと言われるようになるはずです。

―― やがては国内でも、一本道のゲームから自由度の高いゲームへとシフトしていくと。

岡本 シフトしていかないと生き残れないでしょ。

―― それはメーカーだけでなく、ユーザーもということですか。

岡本 実は僕が一番問題だと思ってるのは、ユーザーが世界に通用するゲームをプレイしていないことなんです。将来クリエイターになる人たちが、世界に通用するゲームを知らずに育ってしまうことが怖い。だから僕はカプコン時代に、「グランド・セフト・オート3(GTA3)」を何とか日本でも発売しようと努力したわけです。

―― GTA3は未来のクリエイターへの教科書だったと?

岡本 教科書というか、道標ですね。後は“市場を育てる”という意味もあった。世界が面白いと言ってるものを、日本人だけが理解できないのは悲しくないですか。何よりユーザーが世界のゲームを受け入れてくれないと、メーカー自身がそっちに移行できない。イモを作っていた時代からコメを作る時代に変わるんだったら、早いうちに手を打っていかないといけないんですよ。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2405/08/news009.jpg スーパーで買ったリンゴの種に“粉”を振りかけ育てると…… まさかの結果に「どうして!?」「すごーい!」「やってみます」
  2. /nl/articles/2405/07/news109.jpg 「ロッチ」中岡、顔にたっぷり肉を蓄えた激変ショットに驚きの声 「これ…ヤバいって」「すごい変身っぷり」
  3. /nl/articles/2405/03/news025.jpg 「今までなんで使わなかったのか」 ワークマンの「アルミ帽子」が暑さ対策に最強だった 「めっちゃ涼しー」
  4. /nl/articles/2405/08/news006.jpg 娘が抱える小型犬の目を疑うデカさに「サモエドかと思った…」「固定資産税かかりそう」 意外な正体がSNSで話題
  5. /nl/articles/2208/06/news075.jpg 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  6. /nl/articles/2405/08/news014.jpg 1歳弟の歩行練習に付き合う柴犬、アンパンマンカーに乗って…… 「待ってましたー!!」「もうプロ級ですね」“師匠”なたたずまいに爆笑の620万再生
  7. /nl/articles/2403/13/news017.jpg 食べ終わったパイナップルの葉を土に植えたら…… 3年半後、目を疑う結果に「もう、ただただ感動です」「ちょっと泣きそう」
  8. /nl/articles/2405/07/news153.jpg 注意書きや警告に添えると……? 天才的発想の“一発逆転キーホルダー”が10万いいねの大反響 「やめーやww」「好きすぎる」
  9. /nl/articles/2405/08/news018.jpg 2歳兄、4カ月の妹の周りをおもちゃで埋め尽くしたあと…… 妹をとことん楽しませる行動に「優しいおにいちゃん」「癒されてほっこり」
  10. /nl/articles/2405/08/news107.jpg 「悲しくなった」「リスペクトがない」「嫌悪感」――楽器や画材を潰すiPadの紹介映像が物議
先週の総合アクセスTOP10
先月の総合アクセスTOP10
  1. 庭に植えて大後悔した“悪魔の木”を自称ポンコツ主婦が伐採したら…… 恐怖のラストに「ゾッとした」「驚愕すぎて笑っちゃいましたw」
  2. 小1娘、ペンギンの卵を楽しみに育ててみたら…… 期待を裏切る生き物の爆誕に「声出して笑ってしまったw」「反応がめちゃくちゃ可愛い」
  3. 生後2カ月の赤ちゃんにママが話しかけると、次の瞬間かわいすぎる反応が! 「天使」「なんか泣けてきた」と癒やされた人続出
  4. 「歩行も困難…言動もままならず」黒沢年雄、妻・街田リーヌの病状明かす 介護施設入所も「急激に壊れていく…」
  5. 車検に出した軽トラの荷台に乗っていた生後3日の子猫、保護して育てた3年後…… 驚きの現在に大反響「天使が女神に」「目眩が」
  6. 「虎に翼」、新キャラの俳優に注目が集まる 「綺麗な人だね」「まさか日本のドラマでお目にかかれるとは!」
  7. 釣りに行こうとしたら、海岸に子猫が打ち上げられていて…… 保護後、予想だにしない展開に「神様降臨」「涙が止まりません」
  8. 身長174センチの女性アイドルに「ここは女性専用車両です!!!」 電車内で突如怒られ「声か、、、」と嘆き 「理不尽すぎる」と反響の声
  9. 築152年の古民家にある、ジャングル化した水路を掃除したら…… 現れた驚きの光景に「腰が抜けました」「ビックリ!」「先代の方々が」
  10. 「葬送のフリーレン」ユーベルのコスプレがまるで実写版 「ジト目が完璧」と27万いいねの好評