「プリンス・オブ・ペルシャ」のプロデューサー・Ben Mattes氏に聞いてみた:東京ゲームショウ2008(2/2 ページ)
―― ここで「プリンス・オブ・ペルシャ」に話を戻して、このプロジェクトにたくさんの人が関わっていると思いますが、どうやって統一感を持ってゲームを仕上げられたのでしょうか?
Ben氏 例えば、グラフィックの話をするとこのプロジェクトには60人以上のアーティストが関わって、3層(レイヤー)のピラミッド型組織をとっているんだ。一番下のレイヤーが「レベルアーティスト」と呼ばれ、マップ、テキスチャ、オブジェクトメッシュなどゲームの世界のグラフィックすべて作業する。このレベルアーティストは10人ほどのチームで構成されているんだけど、間違いやバラつきは発生するから、その上のレイヤー「チームリード」と呼ばれるアーチストがコントロールするんだ。実際にチームリードは5、6人いるから、その上のレイヤーであるアートマネージャー1人ともう一人アートディレクターが最終的なグラフィックの統一性を図るのさ。
アートディレクターには直属のイラストレータとテクニカルディレクターがいて、イラストレータはレベルアーティストに対する3Dの世界観を指示するドキュメントを制作するんだ。それからテクニカルディレクターはエンジンを理解しているアーティストで、デザイナーが「こういう動きをさせたいんだ」と相談をした時に、実際のツールを使って実現する役目を持っている。
いずれにしてもチームの中ではいろいろなディスカッションがあって作られたものなんだ。今回のプロジェクトの中でグラフィックチームが一番大きな所帯となったんだけど、チャレンジングな試みだったと言えるね。
2つ目の大きなチームはプログラミングチームだったんだけど、これはこれで40人の大きなチームでやはり同じようにピラミッド型の組織でマネージされてて、それぞれのチームでそれぞれのディスカッションを重ねて積み上げたんだよ。
―― 開発チームは何人いるのですか?
Ben氏 今のところ160人のチームだね。
―― 全部で何年かかりましたか?
Ben氏 3年かな。
―― 「プリンス・オブ・ペルシャ」が今回トゥーンシェードになった理由は? 「アサシンクリード」の方向に行くのではとの推測もありましたが。
Ben氏 たくさんの人に同じことを聞かれたよ(笑)。アサシンクリードはアサシンクリードで、プリンス・オブ・ペルシャはプリンス・オブ・ペルシャなのさ。3年前にこの開発を始める前にアサシンクリードがどういう方向になるのかというのは知っていたから、プリンス・オブ・ペルシャはもっと幅広いユーザー層に向けて作ろう! と言うことになったんだ。だからアサシンクリードを遊んだ人たちにもプリンス・オブ・ペルシャを遊んで欲しい。つまり、差別化したかったんだ。ということで1つ目の理由はスーパーリアリスティックなものにはしたくなかった。
2つ目に、新しく唯一のグラフィックでありたかったということだね。常に新しいトレンドを作っていきたいんだ。「目標にされるべき新しいゲーム」を目指したかった。つまり、1年後に他のゲーム開発者が「プリンス・オブ・ペルシャのようなゲームにしたい」と言ってくれるようにしたかったんだ。プリンス・オブ・ペルシャの最初のゲームみたいにね!
例えば、「ゼルダ」がセルシェードへのトレンドを作ったように、また、「アサシンクリード」や「コールオブデューティ」がハイパーリアリスティックなトレンドを作ったようにね。僕たちも僕たちのアイデンティティを作り上げたかったんだ。カートゥーン(いわゆるアニメ)とリアリティの間にはまだまだたくさんの隙間があると思うんだよね。
―― グラフィックの雰囲気が変わりましが、プレイ自体の雰囲気、世界観は変わってない。どうやって世界観を崩さないで新しいものを作れたのでしょうか?
Ben氏 ストーリー、グラフィック、コンバットなど、すべてを変えてしまったとも言えるけど、結局プリンス・オブ・ペルシャはプリンス・オブ・ペルシャであって、若い青年が美しい娘と出会い、アクロバティックなアクションを進めて世界を救う、と言う意味では根底が変わらないのさ。それがプリンス・オブ・ペルシャのソウル(魂)なんだ。
―― 女性パートナーを連れて歩くギミックが「ICO」を連想させるのですが、「ICO」は「プリンス・オブ・ペルシャ」に相当インスパイアしたのでしょうか?
Ben氏 実際に影響は受けているね。物理的に2つのキャラクターが関わっているという意味では。ただ、ICOの好きじゃない部分としては、いや、ICOで変えたいと思う部分は、パートナーである女の子が黙ってついてくるだけでまったく役に立たない、ということだね。プレイヤーは彼女を気遣うけど、彼女は何もしてくれないという意味では、お荷物であり、感情の行き来がないとも言える。そこがプリンス・オブ・ペルシャの違うところで、エリカはいろいろな意味でプリンスを助けてくれる。本当の意味でのパートナーとも言えるよね。
―― 「プリンス・オブ・ペルシャ」はシングルプレイヤーゲームとして今までも相当完成度の高いゲームであったと思いますが、今回はさらにパートナーと進めるという展開になっています。かなりの調整があったと思うのですが?
Ben氏 そうだね。エリカについてはものすごく時間をかけたよ。魔法のレシピはないよ(笑)。たくさんのグラフィック、プログラミングを費やした。彼女は強力なパートナーとして機能させなきゃいけないけど、あくまでもパートナーであって、あまりにもイニシアチブを取るようではいけない。彼女はユーザーにとってわずらわしいキャラであってはいけないんだ。そういうバランスには、ただただ人と時間をかけたよ。
エリカは戦闘中にプレイヤーを助けたり、アクロバットを手伝ったり、新しい世界へとナビゲートしてくれたりとたくさんのことをしてくれるけど、彼女を動かすのは簡単なんだ。ボタンを押すだけだしね。
この黄色いYボタン(実際にXbox 360を操作しながら)「エリカボタン」を押せば、どんなところでもエリカは助けてくれる。例えばアクロバット中にこのボタンを押すと、エリカが助けてくれて、ほら、プリンスは遠くまで飛ぶことができただろう? 戦闘中にボタンを押せば、プレイヤーとともに戦いに参加してくれる。
エリカはゲーム中の追加操作を招くのではなくて、ゲームを進めるにあたってのツールのような存在なんだ。だからゲーム中の操作を難しくしたくなかったんだ。
―― エリカは死んだりは?
Ben氏 エリカは死なない。シンプルにプレイヤーは自分のHPだけ気にすればいい。エリカはボタンを押さなければ何もしない。さっきも言ったけど、エリカは煩わしいお荷物であってはいけないんだよ。
―― 日本のユーザーに一言お願いします。
Ben氏 エリカのデザインに関してはアジア人女性をモチーフにしているんだ。アメリカのハリウッドスターの要素も入っているよ。僕らはこのタイトルをワールドワイドなものにしたかったんだ。もし、エリカが見るからに「欧米人」、「アフリカ人」もしくは「アジア人」であったら、プレイヤーによっては魅力的には感じないだろう? だからエリカのキャラクター作りには時間をかけたよ。
エリカの例を見ても分かるように、プリンス・オブ・ペルシャは文化の違いを超えるユニバーサルなタイトルだと思っているよ。僕たちは日本のクリエイティブなゲーム開発に対して多大なリスペクトを持ってゲーム開発に臨んでいる。それらのすばらしいところに欧米のエッセンスを加えてゲームを完成させようとしているんだ。だから日本のユーザーにもアピールすると信じているよ。
今日(取材した日10月10日)はプリンス・オブ・ペルシャを会場でプレイするのに60分待ちだそうで、そのニュースを聞いてうれしかったよ。明日からユーザーデーなのでその結果も待ち遠しいね。
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